サプライチェーンの悲劇

アゴラ 言論プラットフォーム

私どもはカナダ全土で日本の書籍を輸入販売しています。輸入は船便と航空便を使い分けていますが、本質的には船便で運ぶことがベストです。価格が5倍ぐらいの開きが出るからです。論理的には東京港を出ればバンクーバー/シアトルには2週間の航路となりますので完全無人化、通関も瞬時に終わるのであれば書籍のように2週間の鮮度に耐えられるものはそれの方がよいのは自明です。

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ところが最近はどうなっているかといえばまず、混載用のコンテナを確保するのに一苦労なのです。我々のようにコンテナ全部を埋められない小規模貿易の場合には他の荷物と混じる積み方をします。ところがそのスペースを確保するのに約ひと月からふた月先の予約になります。次に予定船はスケジュールから場合により数週間遅れで寄港します。ここで船のルートは東京/神戸あたりからまっすぐ北米に向かう便と韓国、釜山経由に向かう便に分かれます。なぜかといえば船によっては日本から北米直接の物量では足りないので釜山で中国と韓国の荷物を積むのです。そうなるとここで更に数週間時間を食うため、我々は直行便を使っています。

我々が使う貨物船のバンクーバー便はシアトル経由なのでシアトルでの港の積み下ろしで約2週間待ち、更にバンクーバーも数日の待ちを経てようやくコンテナは陸揚げされます。船はカラのコンテナを積んで全速で日本に戻ります。

問題は続きます。通常コンテナの荷物は保税庫で関税チェックを受け、その後、仮置き倉庫にトレーラーで輸送されます。保税庫での税関チェックは割と頻繁に引っかかり、詳細にチェックすることもあればさっと見て終わりの時もあります。引っかかれば検査で1週間保留という時もあります。それらの状況は通関業者からEmailで連絡が逐次入ります。我々の場合には自分のところのトラックで仮置き倉庫に引き取りに行くのですが、巨大な倉庫には荷物が入りきれないほど溢れているもののそれを捌くトレーラーが来ない、というのが実情のようです。

アークインベストメントCEOのキャシーウッド氏がツィッターの創業者ジャックドーシー氏の「ハイパーインフレが起きつつありすべてを変えようしてる」という投稿に対して「AI、イノベーション、パンデミックによる循環需要でデフレが勝る」と述べたとあります。これにイーロンマスク氏が高いインフレはしばらく続くとしたのに対し、キャシーはそんなことはないと再度否定しています。

私も懸念する現在のサプライチェーンの問題はキャシーの言い分だと乗り越えられることになっており、「最終的にはクリスマスシーズン後に過剰供給と価格低下に直面する」と考えているようです。

私はジャックのいうこともキャシーのいうことも違うと思っています。イーロンマスク氏の言い分が私の考えに近いところです。つまり、ハイパーインフレにはならないけれど現在の問題がそう簡単に解決できる問題でもないとみています。

例えばサプライチェーンの問題も船が足りないのではというより、トレーラーの運転手が足りないという問題であり、ロスアンジェルス港がいくらバイデン氏の肝いりで24時間営業になっても誰がそこにトレーラーを乗りつけるのか、ボトムネックの問題解決は全くなされていないのです。

次に資源高の問題です。いつまで続くか、どこまで上がるか、です。「脱炭素化に向けたコスト」だと考えれば原油はバレル当たり100㌦どころか120㌦は視野に入れざるを得なくなります。私はリチウムの掘削会社に投資をしていますが、これから1年で更に2倍になってもおかしくないと思っています。それは人類が脱炭素、EVシフトを望むのでそのコストなのです。

私が繰り返し、電源の主役交代こそが本当の産業革命だといった意味がお分かりいただけるかもしれません。我々は脱石化エネルギーに向けてとてつもないチャレンジに挑んでいます。それが達成されるまでは「生みの苦しみ」を当然分かち合わねばならないのです。

サプライチェーンの悲劇はなぜ起きたか、と言えばトラックドライバーのなり手がいないのです。何故か、といえば賃金水準が上がり、コンプライアンスに組合、法令といったものにしっかり守られる一方、やりがいがある仕事とは思ってもらえないのです。人がやりたくない仕事の雇用条件ほど良いものはないのです。しかし、お金や労働時間管理で人の労働の満足度は得られないことは政府の政策担当者も投資家もわかっていないのです。人としゃべることも少ないこの業種が将来ロボット化され自動配送されるまで我々はコストが上がる一方でモノが来ない、というストレスをため続けなくてはいけないのです。

私はトレーラーだらけの一般の人が入らないエリアで自分の会社の輸入品を積み込んでいるとき、これほどローテックな業界もない、とそのギャップにいつも驚かされているのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月27日の記事より転載させていただきました。

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