10月22日、第6次エネルギー基本計画が7月に提示された原案がほぼそのままの形で閣議決定された。菅前政権において小泉進次郎前環境大臣、河野太郎前行革大臣の強い介入を受けて策定されたエネルギー基本計画案がそのまま閣議決定されたことを残念に思う。
萩生田経産大臣は就任時の記者会見で10月末のCOP26前に閣議決定すると言っていたが、COP26までに提出を求められるのは国別目標(NDC)であり、エネルギー基本計画ではないからだ。
2013年比46%減が根拠を持った数字であることを示す必要があったということなのかもしれないが、改定前の26%減目標の根拠となった第4次エネルギー基本計画と異なり、今回のものは46%目標が先に政治決定され、その裏付けとなる数字を無理やり辻褄合わせしたものである。
46%目標は目標年限があと9年しかなく、現行26%目標の達成度が道半ばであるにもかかわらず、フィージビリティやコストを考慮することなく20%ポイントも上乗せしたものである。後付けで辻褄合わせを強いられた経産省の後輩たちを気の毒に思う。
第6次エネルギー基本計画では省エネを大幅に強化し、2030年にかけて電力需要は減少するとされている。昨年12月のグリーン成長戦略では脱炭素化に向けて電化が進み、電力需要が30-50%拡大するとされているにもかかわらずだ。
発電電力量に占める再エネのシェアは22-24%から36-38%に引き上げられ、原発のシェアは20-22%で横ばい、石炭火力のシェアは26%から19%に、ガス火力のシェアは27%から20%に引き下げられた。
筆者はこれらの数字の実現可能性もさることながら、電力コストへの影響を最も懸念する。再エネシェアの大幅拡大と石炭シェアの大幅引き下げは電力料金上昇をもたらすことは確実だからだ。
素案では再エネ買取費用が第4次エネルギー基本計画で想定されていた3.7~4兆円から5.8~6兆円へと大幅に膨らむにもかかわらず、「再エネコストの低下とIEAの見通しどおりに化石燃料価格した場合、電力コストは8.6兆~8.8兆円と現行ミックス(9.2~9.5兆円)を下回る」という数字が提示されている。
しかし日本の再エネコストの高さは自然条件、土地コスト、人件費等による構造的なものであり、政府が想定するような国際価格への収斂が起きるとは想定しにくい。更にこの見通しには変動再エネの拡大による統合コストが考慮されておらず、実際の再エネ関連コストは買取費用を上回ることになる。化石燃料価格が今後低下するという見通しも大いに疑問である。世銀やEIA(米国エネルギー情報局)は化石燃料価格の上昇を見込んでいるし、現に足元の原油価格、ガス価格は大きく上昇している。
このエネルギーミックスを必達目標とすれば、主要国中最も高い日本の産業用電力料金を更に引き上げることになり、日本の製造業に深刻な影響を与えることになるだろう。何度も指摘していることであるが、エネルギー基本計画の実施段階でコストレビューを行い、日本が諸外国に比して均衡を失した負担を負うことのないようにしてほしい。
更に重ねて言う。日本のエネルギー安全保障を確保しつつ、コストアップを避けながら温暖化防止を同時に追求するのであれば、国産技術である原発の活用を検討すべきである。2030年の数字に新増設を盛り込むことは不可能だが、エネルギー基本計画は2030年のみならず、2050年を視野に入れたものである以上、新増設への道を開いておくべきであったと思う。
欧州では冬場の需要期に向け、ガス価格、電力価格の大幅上昇にあえいでいる。エネルギー危機の大きな原因の一つは風力等の変動性再エネを遮二無二導入する一方、石炭火力のフェーズアウトを進めた結果、バックアップ電源としてのガス火力への依存が高まっていたことに起因する。
我が国が河野・小泉両氏が主張するエネルギー政策を推進すれば欧州以上のエネルギー危機に見舞われることになるだろう。10月22日の欧州理事会においてフォンデアライエン委員長が「われわれには安定的なエネルギー源である原発が必要だ」と述べていることは日本にとっても貴重な示唆を与える。
岸田総理が「再エネ一本足打法では無理だ」と発言しているのは現実的な判断だ。ならば既存原発の再稼働のみならず、将来に向けた新増設の可能性をオープンにしておくべきだ。
自民党の選挙公約に小型原子炉(SMR)の地下立地や核融合の技術開発が明記されている。岸田総理は所信表明演説で「クリーンエネルギー戦略を策定する」とした。実装の可能性があればこそ技術開発は進む。原子力もそのような機会を与えられるべきである。