ヤード・ポンド法をかたくなに使い続けるアメリカにはなぜ2種類の「フィート」が存在するのか?

GIGAZINE
2021年10月16日 09時00分
メモ



長さや重さの単位は、国際的に統一されたメートル法が多くの国で採用されています。しかし、世界で最も大きな産業国であるアメリカではいまだにヤード・ポンド法が使われ続けているのが現状です。そんなヤード・ポンド法で使われている長さの単位「フィート」は2種類存在しており、2023年にようやく統一される見込みとなっています。

America Has Two Feet. It’s About to Lose One of Them. – The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/08/18/science/foot-surveying-metrology-dennis.html

ヤード・ポンド法で長さを表わす単位の1つ「フィート」はもともとその名の通り「足のつま先からかかとまでの長さ」を基準にした単位系で、古くは4000年以上前のシュメール人も使っていたといわれています。

そんなフィートには、主に「測量フィート」と「国際フィート」の2種類が存在します。測量フィートは1893年にアメリカで制定された単位で、「1フィート=3937分の1200メートル=0.3048006096……メートル」です。これに対して、国際フィートは「1フィート=0.3048メートル」と定められています。なぜ2つのフィートが存在するのかについては、アメリカにおける単位系の長い歴史が関係しています。

独立直後のアメリカは、単位系としてイギリスのヤード・ポンド法の採用を1790年に定め、1815年にロンドンの楽器職人が作った真ちゅう製の標準器を基にアメリカのヤード法を標準化しました。

その後、1866年にアメリカ議会はフランスで提唱されたメートル法の使用を合法化し、1893年にメートル法をアメリカの単位系として正式に採用しました。しかしこの時、なぜか古いヤード・ポンド法を基準に「1メートルの長さを39.37インチとする」と定められてしまったため、12インチ=1フィートが0.3048006096……メートルという中途半端な数字になってしまい、ヤード・ポンド法からメートル法への移行も十分に行われませんでした。この時に定められたのが測量フィートです。


20世紀に入り、機械による大量生産を行うようになると、コンマミリ単位での精度での加工が求められるようになりました。さらにイギリスやカナダなどで使われているフィートの長さがバラバラだったため、統一する必要性が生まれました。そこで、1958年にアメリカ・イギリス・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・南アフリカの6カ国が協定を結び、「1フィート=0.3048メートル」と正確に定められました。この6カ国協定で定められたのが国際フィートです。

その後、アメリカ国内でも基本的にはフィートはすべて国際フィートに統一されましたが、土地の測量を行う測量士だけは測量フィートを使い続けました。土地の測量や計算には古い書類やデータを参照する必要があり、それらはすべて測量フィートに基づいて記録されているからです。もし国際フィートに統一するのであれば、過去の資料に収録されている膨大な量のデータも換算しなければならず、業務にならないため、測量フィートを使うことが許されました。


記事作成時点では、測量士はアメリカのほとんどの州で測量フィートの使用が義務付けられており、中にはどちらを使うかを規定していない州もあります。国ではなく州ごとに規定も変わるので、州を移動して測量する場合は2種類のフィートが入り交じっていることに気づかないこともあるとのこと。2種類のフィートを使っているのはアメリカのみなので、海外の測量会社がプロジェクトに参加するとフィートが2つあることを知らなかったり、測量用のソフトウェアに国際フィートしか採用されていなかったりすることもあるそうです。

測量フィートと国際フィートの差はわずか0.001mm程度しかないので、どちらでもほとんど変わらないように見えますが、広大な土地を扱う上では誤差の原因となります。アリゾナ州に住む測量士のマイケル・デニス氏によれば、過去には2つのフィートの誤差のせいで設計ミスが生じ、とある国際空港の進入路が建設中の高層ビルでふさがれてしまったため、高層ビルをあわてて1階低く設計し直したこともあったそうです。

デニス氏は「私は2つの異なるフィートの問題に何度もぶつかっており、この問題がずっと続いているのはバカバカしいと思っています。測量フィートなんて廃止したいと何年も前から思っていました」と述べています。


測量フィートをどうしても廃止したいと考えたデニス氏は、上司であるアメリカ国立測地測量局の局長に「測量フィートを廃止するべき」と主張。さらに2019年4月には全米測量士協会が主催する会議で「測量フィートが近代化の犠牲になっている」と強く訴えかけました。

すると、なんと全米測量士協会の理事は国際フィートへの統一案に賛成を示しました。理事会は「私たちはフィートの統一に関与することはないが、全米測量士協会会員の反応を知りたかった」とコメント。その後にアンケートを行ったところ、ほとんどの測量士が国際フィートへの統一を支持していることがわかりました。なお、ごく一部からは「測量フィートの廃止は神への冒涜(ぼうとく)に近い所業だ」という声もあったとのこと。

全米測量士協会の会長であるティモシー・バーチ氏は「測量フィートはU.S. survey foot(アメリカ測量フィート)という正式名で、残念ながら測量フィートを廃止することは、多くのアメリカ人にとって『アメリカに関係するものが奪われ、攻撃される』ように感じられるようです」と述べ、アメリカで制定された単位を廃止することに抵抗を覚える人が一定数いるため、これまでなかなかフィートの統一が議論されてこなかったとしています。しかし、現代では古くからのデータに頼らずとも、GPSによる正確な測量が可能となっているため、測量フィートをわざわざ残す理由はないとバーチ氏は述べています。

そして、アメリカの単位系を定める国立標準技術研究所は2019年10月に測量フィートの廃止を決定し、2023年1月1日をもって国際フィートに統一すると宣言しました。バーチ氏は「アメリカでフィートを統一することは、標準化と精度を手に入れるまでの長い道のりを進む小さな一歩です。測量フィートの廃止に対してアメリカ人がどれほど保守的になっているのかは非常に興味深いものがあります。科学技術のおかげで、私たちはこの地球についてさまざまなことを知ることができたという事実に思い至っていないのです」とコメントしました。

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