オリジナルアニメ映画『神在月のこども』白井孝奈監督インタビュー、作品の若き司令塔はどのようにして監督になったのか?

GIGAZINE



日本各地で「神無月」と呼ぶ月を「神在月(かみありづき)」と呼ぶ、八百万の神々が集う神話の地へと駆ける少女の姿を描いたロードムービー・「神在月のこども」が2021年10月8日(金)に公開されました。小説や漫画の原作を持たないオリジナルのアニメ映画を形作っていったのか、企画段階から携わった監督の白井孝奈さんに話をうかがいました。

神在月のこども
https://kamiari-kodomo.jp/

GIGAZINE(以下、G):
本作は公式サイトで多数の映像が公開されています。その中の1つで、2020年4月に絵コンテを描き終えた白井監督へのインタビューがあって、「姿を追ってしまう癖があって映像として見た時にバランスが非常に悪いのでそこをすごく気をつけました」という話が出ていました。「姿を追ってしまう癖」とは、どういうものなのでしょうか?

2020/4 卯月・第2週|「絵コンテを描き終えて」Staffing Interview|アニメーション監督 白井孝奈 ドローイング – YouTube
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白井孝奈監督(以下、白井):
私はキャラクターアニメが好きで、自分自身がアニメーターをやっていたということもあり、カンナばっかりにカメラを向けてしまう癖がコンテで出てしまったんです。映像として見たとき、そのときに動いている人物だけを追っていくのではなく、周りの景色や情景で伝えたり、演出で絵として工夫やアイデアを出していくことが自分としてあまりうまくできなかったんです。それを、プリプロダクションの段階で、すごく経験のあるクリエーション監督の坂本さんにコンテチェックで癖を指摘していただきました。自分の中で気をつけないと、映像としての良さよりもキャラクターに入っていっちゃうところがあるな、というところですね。

G:
同じインタビューの中で「自分が見たいモノを作りたいというのがすごくある」とのことでした。本作では、どういったシーンが監督の「自分が見たいモノ」になっているのでしょうか。

白井:
私としては「自分の好きを大切にしたい」という気づきを中心になるシーンにしたいと考えていたので、後半に出てくるワンシーンを一番大切にしたいと考えました。そこは、脚本を読んだときから「こうしたい」と映像が浮かんだところで、実現できたんじゃないかと思います。

G:
おお、なるほど。

白井:
これなら見ている人にこう受け取ってもらえるだろう、という目線はまだわからないですが、自分としては納得のいくモノが描けたと思っています。ただ、インタビューはコンテをやりきった時点の話で、その後、映像にしていく段階で、他人に伝えるにはもう一歩こう踏み込まなければいけないのだという気づきがありました。

G:
他人にうまく伝わるようにするための改善というか変更というのは、どういうものでしたか?

白井:
自分ではうまくいったと思っていたけれど、想像力で補完していた部分があったんです。「ここはこういう色なんです」とか、いろいろ補足をして伝わったというのがあって、コンテ時にうまくいったと思っていても絵的な演出がどうのるかというのを具体的に進めていく中で、思っていたとおりには伝えられていないんだなと気づかされました。

G:
監督が学生時代に監督した自主制作アニメーション「トリップ・トラップ・マップ」がYouTubeで見られます。この頃から10年を経てのアニメ映画の監督ですが、当時と今とで、監督として自分が変わったと感じたのはどういった点ですか?

自主制作アニメーション「トリップ・トラップ・マップ」 – YouTube
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白井:
学生作品の時は、みんな実力は並列でお互いに補いながら作っていった作品だったので、システムとして私が監督になっていますが、みんなで全部をやってなんとか作り上げたという意識があります。今回は、私よりもキャリアと経験、技術のある方々が持ち上げてくれて、私を司令塔として支えてくださっている状況が初めからあり、学生の時よりも、自分の中で固まっていなければならない部分、しっかりしないといけないところが多かったです。また、プロジェクトの規模も大きく、参加する人の多さも圧倒的で、クリエイティブ面では同じことをしたという感覚がありますが、気持ちはビシッとしていなければというのが、本作の中ではずっとありました。

G:
当時も今も変わらない、共通することというのはどういった点でしょうか。

白井:
私の中にないと、周りの人は何もできない、というところでしょうか。技術が優れたスタッフの方々であっても、どういう色なのか、どういう形なのかが伝わるように私がビジョンや言葉で示さなければいけないというのは同じだったなと思います。

G:
白井監督のアニメーション制作経験は、調べた範囲では京都精華大学マンガ学部アニメーションコースに在籍していた2年生の春に「2009年京都市ユース協会主催『LIVEKIDS』イベントオープニングムービー」となっています。初めてアニメを作るのに関わった当時の気持ちを振り返ってみると、どんなものでしたか?

LiveKidsイベントオープニング2009 – YouTube
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白井:
やる前は大変さが今ほどわかっていなかったので、根拠のない自信があり、「やってやるぜ!」とう思いが強かったですね(笑)

G:
(笑)

白井:
「任せてもらえるなら頑張る!」と。大学2年生だから、20歳とかですよね。ちゃんと1本の作品も作ったことがないのに、理由もなく自信だけはあって、「自分はやったらできるんじゃないか」と思っていた時期です。それで、実際にやってみて「こういうことを自分はできないんだな」と(笑)

G:
わかってしまった(笑)

白井:
「作ってみないと、作る大変さは分からない」ということをわからせてくれた作品です。こんな機会を大学生の前半にいただけたことを、すごく感謝しています。

G:
大学3年生のときにはゼミでびわ湖放送の環境CMの制作に携わっていて、白井監督は作画マンとして参加したとのこと。

びわ湖放送環境CM 2009(びわ子ちゃん編)BBC TV CM – YouTube
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G:
メイキングムービーで「色彩監督と原画のちきゅうちゃんすべてをやってもらいます」と無茶振りされている様子が見られます。

びわ湖放送環境CM第二弾!『びわ子ちゃん』告知MOVIE_1 – YouTube
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白井:
メイキングに出てくる左側の男性が監督なんですが、彼はすごくクリエイティブな人間でアイデアもすごく豊かで、「自分が考えたことを伝える」というのがすごくうまい人でした。「びわこちゃん」は学生なりによくできたんじゃないかと自負しているんですが、これは監督に伝える力とビジョンがあったからだと思うので、自分もそうありたいなと思っています。

G:
京都国際マンガ・アニメフェアでのトークセッションで、「絵を描くスピードが遅かったことがSTUDIO4℃在籍時の悩み」という話が出ていました。「学生の時から早く描くことを意識していればよかったなと思います」と続くのですが、学生のときは方針が違ったのでしょうか。

白井:
今の方針はまた違うかもしれないという前提がありますが、私が在籍していたときは「大学内のアニメーション学科」であってアニメの専門学校とは違うということを掲げていて、「全員をアニメーターにするわけではない」といわれていました。なので、「動かす力を学ぶための学科」というわけではなく、考える力、自分がどういうことをしたいのかという思考の力などを学んでいくスタイルだったんです。「もっと技術的にこうした方がいい」ということ以上に、やりたいことをどう具現化していくかを教わりました。あくまで、「即戦力になる人を育てる」ではなかったという感じです。

G:
なるほど。

白井:
質と同時に早さも両立していかなければいかないければいけないということは、アニメーターになって気づかされたという感じです。それまでは自分が好きなものを描いていたというのもあって、自分の絵なら好きに描けるし、しかも若いから、変なこだわりがあっても「それでいい、これを追及していく!」という意識だったんです。周りにはいろいろ学ぼうとしている人もいたのですが、自分はそのタイプではなかったので、苦労することになったなと。

G:
本作で監督を務めることになった経緯として、まだ監督を誰にするか決まる前から携わっておられたとのことですが、どのような関わり方だったのですか?

白井:
私が参加したのは「cretica universalでこういう企画をやろうと思っています」という段階で、誰が監督だとか、どこで制作するとかもないところでした。まず「話し合う」というところで、未定のところの方が多いぐらいでした。監督ができるからではなく、企画に最初から関われるから参加したという感じです。

G:
企画に最初から関われることに大きな魅力を感じられたということでしょうか。

白井:
学生時代に複数の作品に携わる中で、「自分が最初から考えるところに参加する」という部分に楽しさを感じたので、漠然とした将来の夢として、そういったことができるようになりたいということは業界に入ったときから思っていたんです。ただ、STUDIO4℃でアニメーターをしている時は、「まだまだ道のりは遠いな」と思っていました。

G:
ほうほう。

白井:
STUDIO4℃では、日本のトップクリエイターの方々がバリバリと身近でやっているのを見られたのですが、それだけに、かじりつくような熱意でやっていかなければならないという思いがありました。「やっていけるだろうか」と、ぐるぐるあがいて「どうしよう」と思っていたところへ声をかけていただいたので、自分が監督であろうとなかろうと、「映画が形になっていくところに参加できる」という魅力がありました。

G:
今回、制作において「これは不安点かもしれない」と思っていたところが無用の心配でうまくいったというのはありますか?

白井:
うーん……少なくとも、不安かと思っていたのが思い過ごしだったというのはなかったですね(笑)

G:
(笑)

白井:
私は演出経験がなかったので、知識が足りないところが多く迷惑をかけてしまうのではないかと思っていましたが、そこはライデンフィルムのプロデューサーの方々も座組を組むときから気にしてくださっていて、「それでもできる作り方にしましょう」と最初から工夫していただき、それを了承の上で参加いただいたので、助けてもらいながら監督としてやっていけた、という感じです。

G:
本作は、これまでのメイキングのタイムラインが「追体験」としてすべて映像で公開されています。映画のことを知るにあたって非常にわかりやすくて、ぜひ他の作品でも同じような形でいろいろ公開して欲しいと思ったぐらいですが、監督はインタビューの中で「追体験の企画は、ちょっと抵抗がありました。完成品がすべてだと思っていますので。」と話しておられました。また、「私は、作品を見るまでは事前に情報を知りたくないと思っているタイプ」ともありましたが、監督自身としては、作品を見る前に事前に知っておくべき情報はどの程度までがいいと考えているでしょうか?

白井:
これは完全に自分の好みを言ってしまいますけれど、私は予告編も見ずに映画館に見に行くタイプなんです。

G:
あっ、なるほど。

白井:
予告編で出会う作品もありますが、基本的には「この監督なら見に行きたい」というきっかけで見に行くことが多くて、あらすじも読まずに見に行きたいという……自分が極端だという自覚はあるんですが(笑)

G:
(笑)

白井:
それで、作っていく裏側の苦労みたいなものが先に出てしまうと、見る皆さんのノイズになってしまうのではないかと思っていて……。ただ、本作は企画段階から、「作品を作る工程もコミュニケーションとして、みんなで完成を待つ作品にしたい」ということを最初から聞いていたので、それも含めて頑張っていこうと切り替えていった感じです。

G:
監督は本作に長く携わることになったと思います。作品を完成に導いて、「ここはうまくいった」と思う点を教えてください。

白井:
この物語は、カンナの成長のロードムービーで、シンプルなものにすることを最初から意識していました。ご覧いただく方に、カンナの感情の違和感があってはいけない、感情移入してもらえるようにと考えました。なので、最後まで見てもらったとき、ラストシーンのカンナに納得してもらえるようになったという点は、うまくいったのではないかと思っています。

G:
なるほど。本日はありがとうございました。

映画「神在月のこども」は絶賛公開中。

10月16日(土)は大阪・あべのアポロシネマで白井孝奈監督やミキ役の永瀬莉子さん、原作・コミュニケーション監督の四戸俊成さん、プロデューサー・ロケーション監督の三島鉄兵さんが登壇する舞台挨拶が行われます。実施は12時からの回の上映後と、14時35分からの回の上映前で、料金は鑑賞時の通常料金でOKです。

また、10月18日(月)にはイオンシネマ板橋でスタッフトークショーが実施されます。登壇は白井孝奈監督と原作・コミュニケーション監督の四戸俊成さん、脚本の三宅隆太さん、音楽の市川淳さん。チケット料金は一般2000円、シニア・高校生以下1300円です。

映画『神在月のこども』本予告ムービー120秒Ver. – YouTube
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