世界的な半導体不足が続く中で自動車産業に対する打撃はとりわけ大きく、トヨタやゼネラルモーターズといった大手自動車メーカーは、相次いで半導体不足による減産や工場の一時閉鎖を発表しています。自動車情報を扱うニュースサイト・Jalopnikが、自動車業界が半導体不足への対応に苦慮している理由についての取材結果をまとめました。
Why The Chip Shortage Is So Complex According To Experts
https://jalopnik.com/i-asked-experts-why-carmakers-cant-just-transition-to-n-1847739665
報道によると、2021年9月にドイツで開催されたモーターショーに出席したIntelのパット・ゲルシンガーCEOは、「自動車メーカーが望めば、いくらでも当社製の新しい16nmチップを供給します」と語ったとのこと。しかし、自動車メーカーからは初代iPhoneが発売された当時には最新だったような古い設計の半導体に関する注文が殺到しているそうです。
そこで、ゲルシンガーCEOは「古い半導体の新規生産は、経済的にも戦略的にも意味がありません。古い工場に大金をかけるより、最新の工場への移行に投資してください」と述べて、自動車産業に対して新しい設計の半導体の採用を呼びかけました。
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しかし、OSがクラッシュしても端末を再起動させればいいだけのスマートフォンと、ひとたび不具合が発生すれば人命に関わる事故が発生しかねない自動車とでは事情が異なるようにも思えます。そこで、Jalopnikが自動車産業に精通する複数の専門家に事情を尋ねた結果、以下のような回答が得られました。
◆IEEE
アメリカの電気・情報工学分野の学術研究団体であるIEEEのトーマス・コフリン氏は、「自動車は他の多くの消費者向け機器に比べて動作寿命が長いので、人々は自動車に10年は乗れることを期待していますが、大抵の機器は5年もすれば時代遅れになります。こうした事情があるので、半導体を含む自動車のパーツは最新の技術ではなく実績のある古い技術で作られていることが多いのです」と話しました。
コフリン氏によると、自動車の窓の開閉やエアコンの制御には、一般的な家電製品のチップより何倍も大きい45~90nmプロセスのチップが使われているとのこと。例えば、2021年9月にリリースされたiPhone 13シリーズなどに搭載されているA15 Bionicチップが5nmプロセスで製造されていることを踏まえると、自動車のチップのスケールがいかに大きいかが分かります。
しかし、半導体メーカーは大きなチップより小さなチップへの投資を優先する傾向があります。なぜなら、チップはウエハーと呼ばれる板から切り出して製造しているため、小さいチップの方が1枚のウエハーから作れる数が多くなり、安定的に供給できるからです。
こうした点からコフリン氏は「古くて大きいチップを製造する設備は更新されるか、少なくとも新しくは作られないのが現状です。総体的に見ると、どちらかと言えば自動車メーカーより半導体メーカーの言い分の方が正当性があるように思えます」と話しました。
◆自動車産業の業界誌
自動車産業の業界誌・Automotive IndustriesのコラムニストであるJon M. Quigley氏は、できるだけ小さい最新チップを生産したい半導体メーカー側の事情を自動車メーカーに一方的に押しつけるのは、問題を単純化しすぎていると考えています。
例えば、Quigley氏が以前携わったある開発プロジェクトでは、新しいチップの開発も並行して進めていたものの、半導体メーカーの都合で結局チップの製造が中止になってしまったとのこと。その結果プロジェクトは何カ月間も遅延し、製品の開発コストも膨れ上がりました。
こうした経験から、Quigley氏は「製品の品質保証には人材や設備などのコストがかかりますし、長い時間をかけて外部の研究機関でテストをしなければならないこともあります。また、規制当局による認証にも時間がかかります。当然、使う半導体を新しいものにすればまたテストがやり直しになるので、そのコストに見合ったメリットがない限り、半導体の変更は現実的ではありません」と話しました。
◆設計およびテスト用ソフトウェア開発会社
エンジニア向けシミュレーションソフトの開発会社・Ansysで自動車部門の責任者を務めるジュディ・カーラン氏は、自動車メーカーと半導体メーカーの対立についての質問に対し、「半導体メーカーが生産力の増強に投資するとしたら、より新しい技術に投資するべきでしょう。自動車も、電動化や運転支援システムの発展に伴い、いずれは古い半導体では対応できなくなるはずです」と話しました。
実際に、自動車業界には車体の各所に搭載されているチップの機能を、1つの高性能なチップにまとめるという動きがあるとのこと。しかし、設計の難しさやコストの高さなどから難航しているため、自動車メーカー側が小型で高性能なチップに適応するには時間がかかるのも事実だと、カーラン氏は考えています。
こうした専門家の意見を踏まえて、Jalopnikは「時間がたてば、新技術への乗り換えが自然に進むと思われますが、現状がすぐに解決することもないでしょう。従って、消費者や自動車メーカー、半導体メーカーの誰かが悪いと言えばいいという問題ではないようです」とまとめました。
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