到達距離10kmで800Gを実現する5つの案
到達距離10kmの規格に関しては、HuaweiのTingting ZHANG/Sen ZHANG/Yan ZHUANGの3氏もプレゼンテーションを行った。もっとも、こちらは具体的なプロポーザルというより、議論のための叩き台といった内容である。
新規性には乏しいが確実に実現できる「800G LR8」
「800G LR8」は、100G×8のLWDMとなっている。このアイデアは、送信側に8対のレーザー光源(それも冷却が必要)という点ではコスト増になる。しかも、Chromatic Dispersion Limit(前回も触れた通り、あえて訳せば「色分散限界」)に引っ掛からないようするため、波長は1273.54~1309.14nmの間の35nmほどと狭い範囲に、8つの波長を通すため、各波長の差は5nm前後とかなり狭い。必然的に、WDMのMUX/DEMUXのコスト上昇につながる。
その一方で、レーザー光源そのものは既存の800Gのものでいいし、DSPも400Gの延長で行ける(何なら400GのDSPを2個並べてもいいからだ)ということで、新規性には乏しいが、確実に実現できるソリューションである。
低コスト化は期待できるが、大幅削減には至らない「800G LR4」
次が「800G LR4」。こちらはレーンあたり200Gにすることで、4波長のDWM構成を取る手法である。光源は1295.56~1309.14nmと引き続きLWDM方式を取るが、波長の間隔を狭めることで、シンボルレートが上がってもChromatic Dispersion Limitの影響は最小限に抑えられるとしている。
レーザー光源も4つで済むから、その分消費電力とコストは抑えられる。その一方、200Gを使う関係で技術的には当然チャレンジになる。レーザー光源とDSP、どちらも新規開発が必要になるからだ。WDMのMUX/DEMUXについては、波長の数が減る分低コスト化を期待できる一方で、波長の間隔はさらに厳しくなるので、大きくはコストが下がらないと想像される。
Coherentを利用した「800G LR1」
Coherentを利用した「800G LR1」については、前回細かく説明しているので割愛するが、C-Bandを利用できる分、光ファイバーの減衰は少なく、10kmの到達距離を確保するのはそう難しくないだろう。
その反面、DSP周りやモジュレーター周りが高コストになることは必須だ。まだ、800Gに関してはOIF Forumでも実現していないので、技術的面でのチャレンジがある点も懸念事項の1つである。
「Coherent 400G」の2波長をWDMでやる「800G LR2」
800G LR1をもう少し手堅い方法で実現しようというのが、第4案の「800G LR2」である。まさかのCoherent 400Gの2波長をWDMという、なんというか猛烈な力技である。
コスト面はどう見ても800G LR1より割高になるのは間違いない(WDM MUX/DEMUXまで必要になるし、光源も2つ必要)し、消費電力も端的に言って400ZRの2倍以上になるなど、問題点は多い。
その一方で、端的に言えば400ZRを2つ並べれば実現できる(もちろん上位層で細工は必要だが)というあたり、実現可能性が高いのは事実である(電力の問題さえ何とかなれば、という条件付きではあるが)。
SHDを使用して、1対の光ファイバーで送受信を可能に
5番目の案はすごいモノが出てきた。構成としては第3案に近いCoherentであるが、ここに「SHD(Self-Homodyne Detection:自己ヘテロダイン検波)」を使おう、というものだ。
SHD自身は以前から研究されている手法であり、Coherent通信の一種である。「HD(Heterodyne Detection」に分類される第3・4案の場合は、信号光とは別に「LO(Local Oscillator)」と呼ばれる連続光を用意し、信号光とLOを干渉させることで信号光複素振幅を取り出す方式であるが、この信号光と連続光は周波数や位相が完全に一致はしていない。
これに対してSHDは、LOの周波数や位相を完全に信号光と一致させるというものだ。その結果、信号感度は10~20dB向上し、WDMの利用時には隣接チャネルの干渉を(光→電気信号への変換後に)理想的なフィルタで除去できるため、特にDWDMにおいて有利、波長分散などに起因するひずみを電気回路で補償可能、などいくつかの大きなメリットがある。
もっとも、DWDMを利用した長距離伝送システムならともかく、10kmオーダーの「短距離」ネットワークではまず使われたことがない方式だけに、現実的なコストでの実装が可能か?と言われるとかなり疑問符が付く。
それはともかく、SHDを利用する方式はレーンあたり200Gとなるので、これを4波長並べてWDMのMUX/DEMUXを噛ませることで、1対の光ファイバーで送受信を可能にしよう、というものだ。
この方式と800G LR4の違いというかメリットは、波長を広く取れる(CWDMでも対応できる)というものだ。Chromatic Dispersion Limitに起因する歪みや、伝達特性の悪化に対して原理的に強い(というか、DSP段で補正ができる)ため、レーザー光源は使い慣れたものが利用できるし、WDMのMUX/DEMUXも800G LR4と比べれば安く上がると思われる。
「IEEE 802.3bs」の200Gb/s対応製品は2021年、400Gb/sは2023年に
これとは別にスケジュールに関しての問題提起をしたのがParallax GroupのChris Cole氏である。余談だが、プレゼンテーションのサブタイトルは”IEEE 802.3df Beyond 400 Gb/s Study Group”であり、非公式ではあるが「IEEE 802.3df」の番号が振られたらしい。
そこで、既存の規格の標準化完了時期と、その規格に基づいた製品が100万ポート出荷される(た)時期をまとめたのが右の表で、「IEEE 802.3bs」の200Gb/s対応製品は2021年、400Gb/sは2023年になるとされる。これをもう少しBreakdownしたのが以下の左(右はそのための補足説明)となる
上記は2020年3月時点のデータだが、100GbE/200GbEこそWDM/PSMが多いものの、10/40Gや100/400GではSerialの方が多い。以下のその1年後のグラフを見ると、IEEE 802.3bsの200Gが100万ポートに達するのは2021年後半~2022年前半あたりだろうし、400Gはこの調子だと2023年に本当に100万ポートに達するのか、かなり怪しい感じはある。ただ、逆に言えば、200Gが2021年以降、400Gが2023年以降という上での推定が前倒しになることはないと考えてよさそうだ。
これを念頭に、現在策定中の800G/1.6Tの登場時期を外挿のかたちで推定したのが以下の表だ。
800Gですら2029年、1.6Tは2031年になる、ということになる。これは、標準化完了が2025年という前提の話なので、例えば実際にIEEE 802.3dfのTask Group結成後に、レーンあたり200Gに関しては別仕様分離し、レーンあたり100G/Laneだけで標準化を進めた場合にはもう少し早くなる(2023年末~2024年?)こともあり得るが、その可能性はあまり高いとは言えないだろう。
上記はここまでの議論をまとめたものだが、このままでは、以下としたうえで、200Gのシリアルと800GのWDM、どちらが先に100万ポート出荷を実現できるのか? と問い掛けている。
- 800Gは40GbEや200GbEと同じタイムラインに
- 1.6Tは10/100/400GbEと同じタイムラインに
もし、200Gのシリアルが先行するようであれば、1.6TのWDMが800GのWDMに先んじて市場を席捲する可能性があるわけで、これは標準化の方向性を決めるにあたって、重要な問い掛けになると思える。