私事ながら先日、結婚と引っ越しというビッグイベントがあった。話が決まってから1ヶ月強のあいだに諸々の手続きに挨拶回りと転居の準備。慣れないTodoリストを、地道に一つずつ潰したり、目を背けたりうやむやにしたりすることで、慌ただしく新生活をスタートさせた。
なんとか人間が暮らす最低限の空間が整ったことに満足し、一息ついていたところに、妻から新規タスクが下される。「災害時の持ち出し袋を用意しておいてほしい」。引越し翌日のことである。
※記事で紹介する防災用品の選定はあくまで素人の判断です。自治体や専門家の情報をご参考に、各家庭の事情にあわせてご準備ください
非常時に備えるという責任
非常用持ち出し袋とは、食料やラジオなど災害時に役立つグッズがまとめられている袋。皆さんのお家には置いていますか。おれは恥ずかしながらこれまで、この手のアイテムについて真剣に考えたことはありませんでした。
ざっと調べたところ、いま一般家庭での持ち出し袋の普及率は2~3割程度でまだ「一家に一つ」のレベルとはいかないらしい。ただ多くのひとが実感しているように、自然災害は近年相当に身近な脅威になった。もちろん備えておくに越したことはない。
結婚とは責任が増すことだと周囲からよく聞かされる。我が家は共働きで、家計も別。いまのところ経済的な責任を感じさせられる場面はないけど、お互いの安全と健康のために善処するという責任は確かに存在するはず。
新生活2日目。まだサラダ油もクイックルワイパーも揃っていない新居で妻から言い渡された宿題が、「おまえに家庭を守っていく気概が本当にあるのか?」と言外に問うている。ような気がする。
なお今回は、自分で一つずつ防災グッズを揃える「自作スタイル」を採用した。いまどき一式セットになった市販品の持ち出し袋もたくさん売られているが、グッズを吟味する過程を通じ、これまで無関心で過ごしてきてしまった防災リテラシーを高めるねらいだ。
まずは100均からはじめよう
ということで、熟慮の末に完成した持ち出し袋の全貌がこちら。アイテム総数はだいたい40点。かかった費用は、近所で大安売りだったリュックサックも含めて二人分でざーっくり5,000円くらい。
かいつまんで中身をご紹介していくのだけど、まずこれから持ち出し袋を用意されたいという方に送るTips①は、「最近の100均がすごい」ということ。
いまさら何をと言われるかもしれないし、なんならおれだって半年に一回は「最近の100均すごいな」って思ってる。おれが言いたいのは、きっちり予想を裏切らず防災グッズについてもやはり100均はすごかったということだ。
まずはこのアルミシート。
これも便利そうだし、あれも必要。店内で目につくものが端から全部、防災グッズに思えてくる。あっという間に20点、2310円をお買い上げした(200円商品もあった)。
すごい。100均すごい。そりゃあ100円なので品質が不十分な商品はあるかもしれないけど、持ち出し袋は「質よりも品数」みたいなところはあるし、とりあえず100均で揃えてみるのは大いにアリだと思う。
持ち出し袋なんて大げさなものを用意する予定はないという人も、「千円札にぎりしめて100均で防災用品を買って見せ合う」みたいなことをゲーム感覚でやってみるといいんじゃなかろうか。災害への備えって、生活の中で何を大事にしているかが明らかになりそうなので、人によってけっこう個性が出て面白そうだ。
パッキングは海外旅行気分でいこう
災害の備えというとシリアスな行為に思えるのだけど、実は100均での買い物中は、不思議な高揚感があった。こまごまとアイテムを揃えること自体がけっこう楽しいのだ。この楽しさは海外旅行前夜のパッキングに似たところがあるなと思う。
起こりそうな事態を想定して、対策としてアイテムを一つずついれる。そうやってパッキングが進んでいくにつれて心配事がひとつずつ解消されていくことがなんとなく気持ちがいい。
そういえば、旅行といえばいつも海外旅行に持っていくグッズの中にも、防災で役立ちそうなものがあるなと思い立った(Tips②)。どうせしばらくは旅行には出られないのだし、この持ち出し袋に入れておくことにしよう。
①大きな布(旅行時はシーツやタオル代わり、防寒にもなる)②飛行機などでもらう簡易スリッパ③ヘッドライトとペンライト④洗濯ひも⑤常備薬と衛生用品⑥電池式蚊取り線香⑦雨合羽
ピクニックやハイキングでつかっていたけど最近は出番の少ない⑧コッヘルとシングルバーナーもついでに加えておいた。いくつかの文明の利器が加わり、ぐっと防災力があがった感じがするとともに、わずかばかりのレジャー的な賑やかさも感じられるようになった。どうせ準備するなら、楽しく海外旅行気分で備えるのがいいですよね。
各家庭の事情にあわせて無理なく備えよう
最後のTips③は、当たり前のことすぎる気もするけど、各家庭の事情にあわせて無理なく準備しようということだ。以下はあくまで我が家オリジナルルールなので、ご参考程度に。
<食べ物・飲み物>
保存食といえば防災グッズの主役。しかしおれはあえて、持ち出し袋には保存食は入れないことにした。その代わり、普段から飲食する水や缶詰を、持ち出し袋と同じ空間(玄関スペースの戸棚)で保管するルールでいく。これなら避難時には嫌でも目につくし、在庫が回転するからうっかり賞味期限切れになることはないはず。
<電池・電源>
乾電池は保存食と同じ発想で、家中の電池を普段から持ち出し袋の中で保管することにした。ちょくちょく持ち出し袋を覗く機会になることも期待している。電源タップはコンセントの口数が不足する避難所で重宝されるらしいですよ。
<リュックサック>
実はおれが用意している持ち出し袋には、防災のセオリーに真っ向から反する要素がある。それが「持ち出し袋は一人に一つ」というもの。荷物を分散させたほうが多くの物資を運びやすく、家族が離れ離れになっても各人が生き抜けるようにというのが理由だそう。でも我が家では、被災時に2人とも家にいるとは限らないという理由で、やはり持ち出し袋は一つでいくことにした。
仕上げに、身分証や保険証のコピー、少額の現金、身近な人の電話番号などを記した紙をポケットに忍ばせ、以上がおれが用意した非常用持ち出し袋のあらましである。
冒頭でも書いたように、2人分で約5,000円。すでに家庭にあったアイテムもたくさん収められているので単純に計算はできないものの、市販品よりは安く済んだといえそうだ。そして防災意識も、もとがお気楽すぎたのは否定できないけど、今回の一件で確実に高まったことを実感できている。
(我が家にとっての)100点の持ち出し袋
余談ながら、最後に重要な確認事項が残っていた。今回の持ち出し袋によって、おれは家庭を守る意志を示せただろうか?
引っ越し直後から遠方に出かけていた妻が帰ってきたので、作成した持ち出し袋についてのレビューをもらうことにした。軽い気持ちで点数を聞いてみると、なんとまさかの100点満点が出てしまった。
「頼んではみたものの、正直そこまで期待はしていなかった。用意してくれただけで100点」
とのこと。なるほどあまり期待はしていなかった…ただ喜んでいるのは本心のようで、用意した甲斐があったというものだ。ちなみに妻が一番評価していたアイテムは「ホイッスル」だった。