[再]春のおうち花見を最高にする「練り切り」自由形

デイリーポータルZ

桜がほころんでいるというのに、今年は外で盛大に春の訪れを祝うことができない。どうにかして風流な季節のイベントを楽しもうと考え、自宅で練り切りが作れるのか検証することにした。

途中、練り切りにすればどんなモチーフでも食べられることに気づき、長年愛し続けてきた「アレ」を作り始めるが……

花粉で顔がめちゃくちゃになっている間に春がきた。
桜がほころび、気温も暖かくなってまさにお花見シーズンだが、今は集まって宴会というわけにもいかない。このまま春の訪れを寿(ことほ)ぐことなく、静かに夏を待つしかできないのだろうか。

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「通勤時にちょっと立ち止まって桜を見る」を繰り返し、湧き上がる花見欲を落ち着ける。どうにかして春を祝う行事がしたい。筆者は寒いのが苦手で、春の到来を9月末から待っていたのだ。

そんなとき、スーパーの和菓子コーナーであるものを目にした。

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桜大福に添えてパック詰めされた、春色のそぼくな練り切り。

その瞬間、これだ!と思った。
日本には、季節のモチーフを目でも味でも楽しめる、練り切りという食べ物があるではないか。練り切りとお茶を用意しておうち花見をすれば、とっても風流な気分になれるのでは?

翌日、また同じスーパーに行ったら、もう練り切りは売られていなかった。手に入らないとなおさら気になってしまう。
別なスーパーをはしごしても練り切りは見つからず、代わりに別な気持ちが沸き起こってきた。
自分で作りたい。
練り切りって、一般家庭でも作れるんだろうか。

家で練り切りを作ってみよう

YouTubeで練り切りの動画を見たら、プロの技術がすごすぎて圧倒されてしまった。心の中で「こうやるんだな!わかったぞ!」と「謎の技術すぎて全くわからん」の気持ちが同居する。

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わけもわからず材料と本を購入した。形から入るタイプなため、この時点ですでに満足しかけている。

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動画でも本でも、この「三角棒」を頻繁に使用していたから買ってみた。練り切りに溝をほるためのものらしいが、練り切りに溝を掘るためだけの道具があるという時点で奥深い。どう使うかはまだよく分かっていない。

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練り切りのメイン食材となるのがこの白餡だが、Amazonでなんとなく選んだ「あんこの内藤」の餡子が予想外に美味しく、しゃもじで頬張りそうになった。こし餡も最高だったから是非お試しいただきたい。
「材料と道具が揃えば半分できたようなもの!」という謎の自信に溢れているが、実際いかがなものだろうか。

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いざ練り切りチャレンジ!!!

練り切り餡のつくりかた

自由に形を作るため、まずは「練り切り餡」なるものを作る必要があるそうだ。
本を参考に用意した材料がこちら。

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あらかじめ爪をやすり、手を念入りに洗い、作業場をアルコールで拭いておこう。

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白こし餡を大きいお皿に広げ、濡れたキッチンペーパーをかける。500wの電子レンジに5分かけ、スプーンで全体を混ぜたら、広げ直してまた2分ほどレンジへ。
全体が粉吹き芋状になったらOK。冷めないうちに求肥をつくる。

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白玉粉、グラニュー糖、水を混ぜて500wの電子レンジで10秒。いったん取り出してよく混ぜ、今度は1分。全体が餅状になったら求肥の完成。

清潔なふきんを濡らして固く絞り、作業台に広げる。熱々のうちに白餡とあわせ、折りたたむように混ぜていく。

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もう手にくっつかない。さらっとした触り心地。

粗熱を冷まし、乾かないようラップにくるんだら完成。これが練り切り餡か。はじめまして。

いざ成形していこう。

最大の難関、三角棒

なんのモチーフにしようか本を読み込んだ末、やはり桜の花を作ることにした。TOMIZで購入した桜餡を入れて、桜づくしにしてみたい。

まずは桜色をつくるために、食紅(赤)を水にとく。小さくちぎった練り切り餡に、爪楊枝で取った食紅をちょんと載せて、畳むように混ぜていく。

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こねるように混ぜると食感が悪くなるのだそうだ。気をつけないと手が紅に染まる。

着色できたら、白い練り切り餡、ピンクの練り切り餡を30g程度とり、手で転がして丸くする。
手のひらで優しくつぶし、8cm程度の平たい円形にしたら、下から白い練り切り餡→ピンクの練り切り餡→桜餡の順に重ねる。

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真ん中の桜餡をうまく押し込めながら包んでいく。2重の練り切り餡で核となる具材(この場合は桜餡)を包むこのテクニックは「二重包餡」というらしい。

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うっすらピンク色が透けて見える。ここに溝をほると、中の色が透けてきれいな桜色になるという仕組み。

ここからが難関。先ほど写真で出てきた三角棒を押し当てて、花びらの間の切れ込みをつくる。これが本当に難しい!強く押し当てすぎると桜餡が出てきてしまうし、やり直しがきかない。均等な力で押さないと、どんどん歪な形になっていく。

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難しすぎて笑い声と叫び声が同時に出る。本に三角棒の正しい持ち方が載っていたが、指が攣るというアクシデントにみまわれ、諦めの素人持ち。

溝がほれた。…が、集中しすぎて花びらの数が多い。人は細部に集中しすぎると全体を見失うのね。

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知らない県のシンボルマークみたいだ

Youtubeの和菓子職人さんが、いとも簡単に綺麗な溝を掘っていたことを思い出す。やっぱりプロはすごい。
指を押し当てて花びらのへこみをつくり、中央に黄色い練り切り餡をちょんと置いたら完成。

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で…できた!なんだか歪だが、ギリギリ桜に見えなくもないものができてうれしい。

和菓子が入っている「あの容器」に入れたらそれらしくなった。

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この容器はシモジマで買えます。
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試しに虚無の練り切りを入れてみてもそれらしくなったので、これさえあればもう大丈夫かもしれません。

はじめての練り切り、作りながら気づいたポイントをここにメモしておこう。

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①は特に重要で、定期的に濡れたふきんで手を湿らせたり、ベタベタしてきたら一旦水洗いしたほうがいい。

②の理由は、色が透けている風流さを欲張って、表面の白い餡の量をケチるとこうなるから。

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見るものに不安を与えるテクスチャ

色をしっかり透けさせたい場合は、表面の餡を薄くするのではなく、内側の餡の色を濃いめに着色するのが初心者向きらしい。

そして、一つ小技を覚えた。
茶こし的なものを用意し、小さく丸めた練り切り餡を押し付けてにゅっと出す。

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これを竹串で慎重にこそぐと、ぱやぱやした何かができてかわいい。桜の真ん中に載せるとおしべっぽい。
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このテクニックは我が家で「にゅのやつ」と名付けられた
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何個か作ったら上達してきたぞ!次はいよいよ食べる段!
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おうちでお花見をしよう!

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家で最高のお花見をするために、まずは桜の切り枝を買ってきた。これだけで風流っぽくなるチートアイテムだ。

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練り切りにはお抹茶がいいだろうな〜と思い、そこそこいい抹茶を買ってきていたのだが、練り切りの準備に浮かれてこちらの道具は何も準備していなかった。どうしよう。

仕方ない!お湯に混ざればいい!と開き直り、台所からミルクを泡立てるやつを持ってきた。

ブーーーーーーン

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千利休が草葉の陰で泣いてるかもしれない
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あ、それっぽい。今度ちゃんとお茶の道具を買おう。

作った練り切りをセットしたらお花見スポットの完成!

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最高!風流ポイント100点!!
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練り切りがあると、ぐっとお祭りっぽい気持ちになる。場に座るだけで楽しい。

さて肝心の練り切りだが、これが予想以上においしかった。元の餡子がおいしいのだからそれはそうだ。失敗のしようがない。

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ほんのり甘じょっぱい桜餡、お抹茶がとても合う。

家族と、同じマンションに住む友人にも一緒に作ってもらったのだが、練り切りに個性が出て面白かった。お子さんがいらっしゃるご家庭は、一緒に楽しむのもいいかもしれない。

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ここでふと「そうだ、私は宴会がやりたかったな……」と邪な心が出てきてしまった。花見には酒がつきもの。いそいそとお猪口を取りに行く。

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家にヤバい日本酒しかなかった。

桜と練り切りを肴に飲む酒は素晴らしかった。しかもここは自宅の和室。いつでも横になれるし、後片付けも楽だ。
自宅花見、もしかして最高では?

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練り切りにすればなんでも食べることができる

うすうす気づいていたことだが、実際に作ってみて確信がもてた。
練り切りにすれば、どんなモチーフでも食べることができる。めずらしい動物や架空のキャラクターも、なんでも美味しい餡子味だ。

ということは、筆者が大好きなあれも……?

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小学生のときに本で出会って以来、筆者の心を掴んで話さない彼らである。
好きが高じてぬいぐるみを買い、寝室に並べて眠るほどだ。

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アオウミウシ(左下)は深海生物ではないけれど、水族館の売店で一目惚れして買ったもの。今や立派な抱き枕に。

キンメダイやスケトウダラなど、食用に出回る深海生物はたくさんいるが、子どもたちに人気のメンダコやグソクムシはそう気軽に食べられるものではない。というより、実際本当に食べたいのかと言われると微妙ですらある。
わがままな話ではあるが、「かわいすぎて食べちゃいたい」と「○○港で漁船に乗れば食べられる。捌き方は……」は全く違う欲求だ。脳の別な部位を使っていると思う。

そこで、練り切り。
練り切りなら、なんの罪悪感や葛藤もなしに前者の欲求を満たすことができる。これは個人的には大発見だ。
さっそく作ってみよう。

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我が家にいるぬいぐるみは同じ科のセンジュナマコだが、昔からの大のお気に入りはクマナマコ。学名がそらで言えるほどのファンだ。
クマナマコという名前の由来は「テディベアに似ているから」らしいが、その時点で意味がわからない。最高。

まず、胡麻のペーストをこし餡に混ぜ、ごま餡をつくる。

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今回用意した「純正マコト クリーム状ごま」は、なんとごま100%だった。濃厚でとてもおいしい。

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白い練り切り餡にごま餡をのせ、包餡。深海生物の本によれば、クマナマコは内臓を包む膜が黒く、それが白い皮膚から透けて見えるらしい。包餡の具合でそのキモかわいさを表現したい。

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それっぽい形に脚をつくって
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背中の謎の突起をつくる。脇腹部分から練り切り餡を流しているため、薄くなった部分がいい感じに透けた。
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目の大きい網で「にゅのやつ」をやって、口にセットしたら完成!

か、かわいい……!小さいクマナマコだ!
この調子でどんどん作っていこう。かわいさが分からないという方も、なんとかついてきてほしい。

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みんな大好きなあいつ。耳?がピヨっとしていてかわいいが、深海生物ブームがはじまりたてのネットではちょっと不気味な写真が出回っており、「こいつは人間の顔くらいある」という説明を読んで恐れおののいた記憶がある。

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オレンジ色に着色した練り切り餡に、こし餡を載せる。
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脚をつくることを考えて、このような形に包餡。
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脚ができるととたんにそれっぽい。
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耳をつくり、黒ごまで目を描いたら完成!

ひとくちサイズのメンダコ。目つきが悪くてかわいい。

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そろそろ練り切り餡の扱いにも慣れてきたため、難しい生き物にも挑戦してみよう。ダイオウグソクムシとオオグソクムシのちがいは大きさと生息域らしいが、どちらも甲乙つけがたいため「グソクムシ」表記とさせていただく。

まずはグレーに着色した練り切り餡にごま餡をのせて、包餡。

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なぜかは説明できないが、「グソクムシの中身は絶対にごま」と思った。
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目をつけたら、薄く伸ばした練り切り餡を甲羅の形に重ねていく
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尻尾と手足、触角をつけたら完成!

ちょっといびつなのも愛らしい。

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ふと隣を見たら、リアルで大きめのグソクムシができていた。二重包餡+三角棒で甲羅を表現するストイックなスタイル。

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深海生物ではないが、せっかくだから作ってみた。ウミウシは形が練り切り向きな気がする。

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青い練り切り餡をつくり、こし餡を包む。食紅の青が鮮やかすぎてこわい。
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黄色い練り切り餡で縁取り、溝をほる→細長く伸ばした練り切り餡を埋める を繰り返す。
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触角とおしりのフサフサをつけたら完成!

これは……めちゃくちゃかわいいぞ……!

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海の生き物シリーズを並べてみた。なんと愛くるしいことか。

かわいすぎるという問題点

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餡子を練りはじめて、気がついたら半日が経過していた。本にならって作った伝統的な練り切りも、想像力がはたらくままに作った自由形の練り切りもどちらも楽しい。こんなに作る工程が楽しいお菓子があるのかと驚かされるばかりである。

さらにすごいことに、どんな形の完成物もほぼ餡子でできていて、おいしさが約束されているのだ。造形に失敗したなと思ったらその場で食べてしまえばいい。

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個人的なお気に入りは夫がこしらえていた明太子。「にゅのやつ」を駆使して作られたつぶつぶが卵にしか見えない。

頑張って作った練り切りをさっそくいただこう。

……

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食べるのか、この子たちを……

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……食べたらなくなるんだよな……

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それは……ちょっと……

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…………

はじめての練り切り体験だったが、造形に失敗しても絶対に美味しくいただけるお菓子ができることがわかり、ぐっとハードルが低くなった。特に練り切りとお茶があるおうち花見は最高だったため、ぜひお試しいただきたい。次回は餡子や着色料から自作してみよう。

※海のいきもの練り切りは、その後じっくり鑑賞してからいただいたが、丸一日くらい罪悪感に押しつぶされそうだった。あまりに好きすぎるものは作らない方がいいのかもしれない。

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