ふわふわとした根拠でのワクチンパスポート導入への疑義

アゴラ 言論プラットフォーム

新型コロナは現在、ワクチンの普及により重症者が減った一方、感染力が高いデルタ株の流行で第二フェーズに入った感がある。

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欧米中心に各国では、ワクチンパスポートの導入が図られており、フランス等では基本的にこれを提示しなければレストランでの食事が出来なくなっている。米国でも鬩ぎ合いながらも各州で導入が進む州が出ている。また、これに先んじて米軍や連邦政府ではワクチン接種が義務図けられつつある。(これらに於いて定期的な検査をワクチン接種の代替にする措置もあるが、有料になったり禁止になったりして来ている)

民間でも例えばCNNのような企業でワクチン未接種でのオフィス出勤者が実際に解雇されているのに加え、バイデン政権は、 9月9日に従業員100人以上の企業に対し、従業員のワクチン接種か毎週の検査を義務化する方針を示した。

日本でも経済活動再開のため、財界を含め各方面からワクチンパスポートの導入の声が上がって来ている。政府分科会は「ワクチン・検査パッケージ」を提唱し、定期的な検査でもワクチンの代替可と考えているようだが、検査が無料とならなければ実質的なワクチン義務化と地続きになるだろう。

一方、ワクチン自体の効果に関しては、学術的にはともかく少なくとも各国政府は感染予防効果が期待されるとして接種キャンペーンを始めたものの、デルタ株の影響等により接種者のブレークスルー感染が増えたためそれが怪しくなって来ている。今では「ワクチンは主に発症予防効果や重症予防効果のためのものだ」とし、ゴールポストがずらされた感もある。

もちろん、未知の新型コロナと戦うために急遽作ったワクチンなので、色々と状況変化が出て来るのは必然ではある。

感染予防効果は?

ブレークスルー感染は増加しているものの、感染予防効果は落ちてはいるが依然有意に残っているというのが、各国政府と主流の専門家の主張している所である。しかし、ワクチンの発症予防効果や重症予防効果で発症しなかった場合若しくは極軽症で済んだ場合には、そもそも医療機関に行かず従って検査を受ける事は少ないだろうから、実際には自覚の無い感染者はもっと多いのではないかと思われる。

米国マサチューセッツ州7月上旬に同州バーンスタブル郡内で複数の大規模な集会やイベントが開かれ、数千人の観光客が訪れた。その後に感染者が469人確認されたため、CDCが調査したところ、74%にあたる346人が、規定の回数のワクチン接種を終えていたことが判明したとの事である。そういった包括的な調査を行えば、同様な結果が出るのではないか?

もしそうであるなら、ワクチンパスポートの導入意義は基本的には根本から崩れる事となる。また、他者に感染させる二次感染防止効果を主張するなら、更に詳しい研究調査が必要であろう。

感染予防効果の調査対象群の細かい内訳は、少なくとも通常のニュースレベルでは報道される事が無いが、各国はワクチンパスポート導入議論の前提として明示すべきである。

「ワクチンのメリットは結局接種者個人に帰し、社会的な意義があるとすれば、それは重症化を防ぎ医療逼迫を避ける効果である」と実感から述べる臨床医も出ている。そうであるなら、各国政府の率直なアナウンスが望まれる。

ワクチンは、抗体減少やウイルス変異で3回目のブースター接種が必要とされつつあり、また特にm-RNAワクチンや、ウイルスベクターワクチン等の最新遺伝子工学を用いたものは、短期の副反応に加え、長期的副作用リスクが不明な上に、ウイルス耐性強毒化変異株の拡散を招く可能性もあり社会的にもリスクと隣り合わせである。

イスラエルは既にブースター接種に踏み切り、今後も収束しない限り継続的にワクチンを打ち続ける「ウイズ・ワクチン」に舵を切った感があるが、そうであるなら人体がそれに耐えられるのかを含め実験的な取り組みと言える。

これらを鑑み、今後コロナ対策の切り札は、変異への対応力があり、少なくとも遺伝子工学由来の副作用リスクは少ない治療薬へ移行する事となるだろうと筆者には思われる。

ワクチンパスポート導入は、必然的に社会分断と前述のワクチン自体に由来するリスクを伴う。であるなら、それを相応に上回る明確な感染予防効果と二次感染予防効果のメリットが必要であり、ふわふわとした根拠で国民を錯覚させたり誘導したりして進めるものであってはならないだろう。

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