論考12では、消防団による公金不正を阻む「3つの斥力」について確認しました。
しかし、そのような圧力により行政が消防団改革を渋ることができた期間が、本年4月13日に終わりを迎えたことを指摘しました。
(前回:防災と消防団⑫)
本連載の最終章である本稿では、消防団における公金不正に関する刑事事件を予見しつつ、「あなたの街の消防団」の在り方改革が「待ったなし」の状態にあることを指摘します。
国が本気を出した「消防団員の報酬等の基準」に関する消防庁長官文書
消防庁は、本年4月13日に、消防庁長官名義で「消防団員の報酬等の基準の策定等について」という文書(以下「長官文書」とする)を発出しました。
長官文書は、「消防団員の処遇等に関する検討会」の議論の結果作成された文書あり、2013年に作られた「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」の第13条「国及び地方公共団体は、消防団員の処遇の改善を図るため、出動、訓練その他の活動の実態に応じた適切な報酬及び費用弁償の支給がなされるよう、必要な措置を講ずるものとする」にもとづいて、より具体的な内容を規定したものです。
長官文書は、我が国の消防団改革の「肝」の一つである「消防団員の報酬」に関する国の指針であり、関係者なら最低一回は読んでおく必要があると思います。
(参照:消防団員の報酬等の基準の策定等について)
さて、長官文書の別紙2では、「非常勤消防団員の報酬等の基準に係る留意点について」を解説しています。少々長いですが、該当部分を記載します(太字は筆者)。
報酬及び費用弁償については、団員個人に直接支給すること。
団(分団・部等を含む。以下同じ。)経由で団員個人に支給することも、透明性の観点か
ら適切ではなく、団員個人に直接支給すること。一部の団員については個人に直接支給し、その他の団員については団に支給する等の方法
も、団員間の公平性の観点から適切ではなく、団員個人に直接支給すること。
以上の消防庁の「明確な意思表示」が意味するところを説明します。
行政改革の流れと「潜伏する不正」
消防庁では、多くの基礎自治体の消防団において「団員の報酬が正しく個人に支払われていない」ことを把握しています。また、それらの公金が不正に「団の宴会等の費用」として利用されている状況についても、認めてはいませんが理解していると考えて間違いありません。またその結果、先の私の論考のような、「我が国の消防団の弱体化」が進行しているという分析も完了しているはずです。
このように「不正が行政をゆがめている」ことが判明したとき国は何をするかというと
- 諮問機関を設け議論を重ね
- それを正す法律を作り
- その法律の取扱いに関する明確な意思表示としてのガイドライン等を発出する
という段取りを踏みます。ここまでが、「国の仕事」です。
それを受けて、地方行政は
- 国が発出した指針やガイドラインを元に規定や条例等を整備し
- その指針に沿った改革を実施する
ことになります。地方分権という流れの中で、このような流れに反発しようと考える自治体も出てくるかもしれませんが、反発できるのは「管轄官庁による口頭で行われた指導(お願い)」に対してまでであり、本件のように「法律に裏付けられた長官発出の指針文書」に対して牙をむく基礎自治体は、結果的には皆無になるはずです。
その意味で、現在「団員報酬まとめ払い」を続けている全国の約半数の基礎自治体では、遅くとも来年4月にはほぼ全てが「団員個人の口座払い」にかわるはずです。
本来であれば、ここで本件の改革は完了、「めでたしめでたし」となります。そこに、司法判断が入り込む余地はありません。
しかし、私がおそれているのは、ここから先に発生する「地下に潜った」あるいは「既に地下に潜っている」公金不正に対する刑事訴訟と、関係者の逮捕と実刑判決についてです。
次回最終稿では、すでに我が国の多くの基礎自治体の消防団を蝕んでいる「潜伏型横領」と、その行為継続が「犯罪として立件される」近未来を予見します。
次回:「防災と消防⑭」へ続く
【関連記事】
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・防災と消防団②:消防団と寄付
・防災と消防団③:消防団への寄付に関する論点
・防災と消防団④:消防団への寄付に関する論点
・防災と消防団⑤:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑥:消防団への寄付を存続するための試案
・防災と消防団⑦:消防団への寄付に関する法的整理
・防災と消防団⑧:改善を阻む地方議員
・防災と消防団⑨:公金横領の横行
・防災と消防団⑩:公金横領の一類型
・防災と消防団⑪:公金不正と消防団の弱体化
・防災と消防団⑫:公金不正の改善を阻む3つの力