存在感高まる吉村府知事の強み – NEWSポストセブン

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落選に追い込まれた辻元氏も維新の戦略を振り返る(時事通信フォト)

 総選挙で大躍進した「日本維新の会」。この選挙で名実ともに「維新の顔」となったのが副代表の吉村洋文・大阪府知事だ。いまや「岸田文雄・首相が最も恐れる男」と言っていい。

【写真】赤いドーナツ型に目のような物が5つの、万博キャラを胸に付けた吉村府知事。他、黒シャツ姿の橋下徹氏も

“なにわの風雲児”こと吉村氏は大阪府河内長野市生まれ。大阪の名門・府立生野高校から九州大学法学部を経て弁護士になり、大阪維新の会代表(当時)の橋下徹氏に請われて2011年の統一地方選で大阪市議に初当選、政界入りした。いわゆる維新の生え抜き組だ。

 その後も橋下氏や松井氏に引き立てられ、2014年総選挙で衆院議員に当選すると、在職わずか10か月で辞職して橋下氏の後継者として大阪市長に転じ、2019年には松井氏と入れ替わる形で大阪府知事に就任(当選)した。現在は橋下氏、松井氏に続く3代目の「大阪維新の会」(地域政党)代表を務めている。

 大阪では早くから「維新の次代を担うホープ」として注目されていた吉村氏だが、全国区の知名度を得るきっかけはコロナ禍だった。維新を取材し続けているジャーナリスト・吉富有治氏が語る。

「感染者が拡大する中、吉村知事は店舗などへの休業要請を解除する大阪独自の基準『大阪モデル』を策定するなど『先頭を切ってやっている』というイメージでマスコミにクローズアップされるようになった。そこからアイドル的な人気を博し、コロナ対策で目の下に隈を作った吉村知事の体調を気遣い、ツイッターでは『#吉村寝ろ』がトレンド1位になったほどです」

 昨年5月の世論調査では「新型コロナ対応で評価する政治家」で1位にもなっている。半面、失敗や勇み足も目立った。

「『うそのような本当の話をする』と緊急会見を開いて『イソジンでのうがい』を推奨したかと思うと、専門家の批判を浴びて翌日には『予防効果があるわけでもない』と撤回。『年内に10万~20万人に打つ』と目標に掲げた国産第1号になるはずの“大阪ワクチン”(大阪大発の製薬ベンチャー『アンジェス』のワクチン)は開発が遅れたうえ、最終的に『臨床試験で十分な効果が得られなかった』と開発断念に追い込まれている。大々的に花火をぶち上げるのは上手いが、内容がない。

 ただ、その後の批判があっても、まず『先頭を切ってやってる感』を出せば支持につながることを確信しているのだと思う」(同前)

 大阪は全国でもとくにコロナで甚大な被害を受けた。感染第4波で実質的な医療崩壊状態に陥り、入院できずに自宅療養中の死亡者が相次いだうえ、コロナ給付金や店舗への協力金の給付も遅れた。

 それでも、地元では、「吉村はん、ようやってはる」と支持が下がらなかったばかりか、前述のように総選挙の維新躍進の立役者となった。

 その秘訣は、有権者に「期待」を持たせ続けていることだ。立憲民主党の辻元清美氏(大阪10区)は総選挙前、「維新はローカル政党。眼中にない」と発言して維新の闘争心に火を付け、吉村氏に「眼中に入ってやる」と応戦されて落選に追い込まれた。辻元氏が語る。

「吉村知事や松井市長はとにかく『見せ方』を意識して動いている。コロナ対策で雨合羽の寄付を募ったり、感染者を1か所に集める野戦病院のような大規模医療施設を立ち上げるなど、いろんなアイデアを出し、常に何かやっていることを見せる。33万枚集まった雨合羽は結局使われたのか、野戦病院も必要な人数の看護師が集まるかなど疑問があるが、印象には残る。

 効果のほどは分からなくても、大阪はテレビのローカル番組が多く、お昼や夕方の情報番組やニュースに吉村知事が毎日出演してそれをアピールするわけです。そのうえ、維新の選挙戦術が半端じゃない。自分の所はもう勝てると踏んだ他選挙区の地方議員らが接戦区に入って、駅頭、街頭でビラを撒く。投票日2日前には吉村知事自身が公務そっちのけで一日中演説して回る。これで街の空気が一気に変わってしまう」

 実際、吉村氏はコロナ感染拡大以来、失敗しても新たなコロナ対策を打ち出し、選挙中を含めて連日のようにテレビなどメディアに登場して府民にアピールを続けた。

 それだけではない。これまで維新の創設メンバーの橋下氏や松井氏の“パペット”と見られていた吉村氏自身、選挙戦を通じて“大化け”し、維新の指導的政治家として独り立ちしてみせた。

 野党系無所属の渕上猛志・堺市議はそのプロセスを目の当たりにしたという。

「コロナ対応から府民の空気が変わり、年配層の女性などが吉村知事を熱心に応援するようになった。吉村さんはモノはハッキリ言うが、橋下さんや松井さんのようにコワモテではなく、どこかかわいげもある。そしてコロナで頑張っているように見えます。大阪のご婦人たちは彼を自分の息子のように感じていたんじゃないかと思う。少なからぬ失政があっても、自分の息子だから悪意のない失敗なら許し、支えようとするわけです」

 橋下氏が維新のカリスマなら、吉村氏は大阪のおばちゃんの“アイドル政治家”的な立ち位置を確立したという見方だ。

 前出の辻元氏もこう言う。

「橋下さんの場合は人気があるが、アンチも多かったのでは。好き嫌いがあるんですが、吉村さんの場合は嫌いという人が少ない。言っていることは橋下さんも吉村さんも同じでも、受け止められ方が随分違うように感じます」

 選挙区で維新に全敗した自民党候補たちも、「吉村氏1人に負けた」と受け止めている。

「維新の選挙事務所には大きく吉村知事の写真が掲げられ、地元のテレビにも朝昼晩、知事が出る。有権者は吉村さんに投票したいけど、できないから代わりに維新の候補に投票したわけです。私の得票や立憲民主、共産候補の得票は前回とほとんど変わらなかったのに、終わってみたら投票率が10ポイント上昇し、そのすべてが吉村支持票で維新候補に大差をつけられるという統計学的にあり得ないことが起きた」(自民党大阪府連幹部)

 相手に論戦を挑んでねじ伏せる“喧嘩上等”の橋下氏、松井氏が率いてきた維新は、“やってみせる政治家”吉村氏が率いる体制へと世代交代を果たしたと言える。

※週刊ポスト2021年12月3日号

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