炎上が別の新しい炎上で塗りつぶされる世の中だ。ひと騒ぎしたら忘れられるサイクル。私(中澤)は6年ウェブライターをやってきて、そのサイクルがどんどん短くなっているように感じている。
中には答えが出ない状態で話題を聞かなくなるニュースも少なくない。しかし、それはトレンド上のことで、現実はずっと続いているものだ。それどころか、話題になっていた頃とはずいぶん違う風向きになっていることも。2017年に大炎上した「JASRAC vs ヤマハ音楽教室」の今をお伝えしたい。
・炎上したキッカケ
ヤマハ音楽教室がJASRACの著作物使用料徴収に反発したことにより勃発したこの騒動。JASRACはヤマハ音楽振興会が中心となって結成された『音楽教育を守る会』に提訴されてしまう。
次に、JASRACが話題の表舞台に現れるのは訴訟の際の証人についてである。2年間、ヤマハ音楽教室に通ったJASRAC職員が出廷して証言したことについて「潜入調査」と再び炎上。
これが2019年7月だった。しかし、多くの人の注目はここで途切れていると思う。なぜならば、第一審でJASRACが勝訴したから。
・その後
ざっくり言うと、裁判所はJASRACの音楽教室に対する著作物使用料の請求を全面的に認めた。で、ヤマハ側は控訴。第二審でも、音楽教室側に著作物使用料の支払い義務があるという結論は変わらず。ただし、「生徒の演奏については著作権対象外」と一部変更されている。
これが2021年3月18日のことで、ヤマハもJASRACも上告。前述の通り、2021年9月現在、最高裁で「JASRAC vs ヤマハ音楽教室」は継続中だ。
・当人たちはどう思ってるのか
さて、ここまで読んだ人はこう思うかもしれない。「当人たちはどう思ってるんだ」と。JASRACはあくまで著作権管理の代行業者みたいなもので、ヤマハは曲を使用する立場。この場合の当人たち……すなわち、JASRACに著作権管理を任せている著作者たちは!
実は、そんな当人たちの集まりである日本で唯一の音楽作家団体連合FCA(一般社団法人日本音楽作家団体協議会)が2021年7月13日に本件についての意見表明を行っている。本件に関する部分を以下に引用すると……
「3.音楽教室での演奏利用について
音楽教室事業者は私たちが創作した音楽作品を講師や生徒に演奏利用させていますが、多くの事業者は私達の権利を認めようとしません。しかし我々音楽作家は、ビジネスでの音楽利用には音楽作家への正当な対価が必要であると考えます。」(「FCA(日本音楽作家団体協議会)が音楽作家への正当な対価を求める意見表明」より引用)
──簡単に言うと、音楽教室は著作物使用料を払うべきという趣旨である。
と、できるだけ客観的にお伝えするため裁判にかかわる事実だけを述べてみたが、これだとJASRACがド汚え手を裏から回してうまく支配しているようにも見えるかもしれない。しかし、話題が出る前から追ってみると、また違った事実が見えてくる。
・ことの発端
実は、ことの発端は1999年。この年、著作権法が改正されたことから始まる。法改正に沿って、JASRACが音楽教室に対し楽曲使用に関する協議をしようとしたところ、ヤマハの関連組織などが「音楽教室での演奏は公の演奏ではないから払う必要なし」と話し合いを拒否。そこから拒否し続けて今に至る。
今回の裁判も要は「音楽教室での演奏が公の演奏かどうか」の確認のためヤマハ側が訴えたものだ。話題になった部分だけを見ると、JASRACがいきなり著作権料の拡大をしようとしたみたいにも見えるが、実はもっと昔からの話で、しかも法改正を受けてのことである。
いやいや! 法律を無理に拡大解釈してJASRACがド汚え手を伸ばしてるに決まってるだろ!! と思う人もいるかもしれない。ヤマハ側の言い分がそれで、その確認のために裁判をしているわけだ。で、高裁までの判決はお伝えした通り。
・FCAの発表の意味
その状況を踏まえると、音楽で食っている音楽作家が上記のように反応する気持ちが、ミュージシャンでなくとも理解できるのではないだろうか。彼らの立場で言うと、もらえるはずの給料の一部が20年くらい突っぱねられてるようなものだと思う。
矢面に立っているのがJASRACなのでヤマハ音楽教室の方がジャスティスに見えるが、根幹にある構図は「音楽教室 vs 音楽家」なのである。そもそも、JASRACは音楽作家の集まりだ。会長も音楽作家だし、理事も音楽作家による選挙で選ばれている。
・JASRACが勝つと音楽の未来は衰退するか?
この問題が騒がれている時、「音楽の未来を衰退させる」というネットの声も多かった。しかし、15年以上、売れないミュージシャンを続けている私は、作り手がちゃんと利益を享受できることも文化の発展には重要だと思う。
ちなみに、混同するとややこしくなるため注釈しておくと、JASRACを訴えているのは学校法人ではなく商売としての音楽教室だ。学校法人の音楽の授業での演奏には権利が及ばない。
もちろん、ミュージシャンにもいろんな考え方の人がいるのも事実だ。JASRACのやり方を批判する人もいるだろう。しかし、これは強引に言うと、松屋の人と吉野家の人とすき家の人の考えが違うようなもんだ。あくまで牛丼屋同士の牛丼に対する考え方の違いなのである。
──というわけで、私なりにできる限り分かりやすくこの問題を解説してみたが、いかがだっただろうか。誤解して欲しくないのは、JASRACを擁護したいわけではないということ。
本当は事実のみ書くつもりだったが、それだとあまりに本質が見えてこないため、できる範囲で解説も入れてみた次第だ。この問題についてよく分からず批判していた人の新しい視点となれば幸いである。
参考リンク:FCA(日本音楽作家団体協議会)が音楽作家への正当な対価を求める意見表明
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.