メモ
デジタルステーブルコインのUSD Coin(USDC)の発行元として知られる暗号資産(仮想通貨)のCircleが、「国が支援するデジタル通貨を発行する銀行になるための我々の旅路」と題するブログを公開し、「USDCをアメリカ政府が支援するデジタル通貨とすることで、Circleを事実上のデジタル通貨の中央銀行とする」という意向を発表しました。
Our Journey to Become a National Digital Currency Bank
https://www.circle.com/blog/our-journey-to-become-a-national-digital-currency-bank
How crypto giant Circle could create a U.S.-backed digital currency – Axios
https://www.axios.com/circle-crypto-digital-currency-bank-48656581-84ce-4c9e-9ce0-0f44be20c9a3.html
「法定通貨とオープンなテクノロジーであるブロックチェーンを組み合わせることで、通貨摩擦がなく、ほぼ無料の支払いが即時可能な、オープンネットワーク上に構築された新しいデジタル通貨を作成する」という理念のもと、Circleは大手暗号資産取引所であるCoinbaseと提携し、Centreと呼ばれるコンソーシアムを設立し、アメリカにおける厳格な送金監督および規制基準に準拠する形で、USDCを設計しました。
2018年に発行開始となったUSDCは、過去3年間でデジタル通貨対応の金融システムにおける重要なインフラストラクチャーとして成長しており、その発行総額は2021年8月9日時点で275億ドル(約3兆円)を突破。ブロックチェーン上に記録される取引総額は9410億ドル(約100兆円)を超えています。
USDCの順調な成長について語ったのち、Circleは「連邦準備制度、アメリカ合衆国財務省、アメリカ合衆国通貨監査局(OCC)、連邦預金保険公社(FDIC)といった監査機関の監督のもと運営される、フルリザーブの国立商業銀行となることを目指しています。 デジタル通貨テクノロジーに基づいて構築されたフルリザーブ国立商業銀行は、根本的に効率的であるというだけでなく、より安全で回復力のある金融システムにつながると信じています」と述べ、ただのデジタル通貨の発行元ではなく、国立銀行となることが目標であると明かしました。
デジタル通貨の発行を行うCircleが国立銀行となった場合、政府機関の監視のもと、より厳格な規則や規制を順守していく必要があります。なお、記事作成時点ではデジタル通貨の発行元にすぎないため、Circleはアメリカにおける送金規制のみを順守している状況です。
CircleはUSDCの発行総額を今後数年間で数十兆円規模まで拡大し、低摩擦で信頼性の高いデジタル通貨として、金融サービスやeコマースアプリケーションでの普及を目指していくとのこと。加えて、「ドル建てデジタル通貨の国内規制基準を確立することは、デジタル通貨の可能性を実体経済で実現するため、さらに準備金の管理と構成に関する基準を定める上で非常に重要です」と語り、デジタル通貨関連規制の確立が今後のCircleにとって重要になるとしています。
そんなCircleの「デジタル通貨の中央銀行を目指す」宣言について報じた海外メディアのAxiosは、「Circleの夢はナロー・バンクになることです。部分準備銀行を避け、代わりにすべての預金を中央銀行に預ける形態の銀行を指します」と指摘。
Circleが銀行となった場合、預金者はUSDCの保有者であり、USDCを裏付ける担保は中央銀行にCircleが預けた資金となります。Circleが銀行になれば中央銀行で直接口座を開くことが可能となり、銀行準備金を中央銀行に預けることで、それに伴う利子を受け取ることができるようになるため、これがCircleの利益となるわけです。
この構造が実現すれば、Circleは事実上アメリカの中央銀行が支援するデジタル通貨を発行する銀行となります。そうなれば、これはもはやアメリカにとっての「デジタル通貨における中央銀行」と呼べてしまうわけです。
ただし、Axiosは「Circleが銀行となることを許可された場合、おそらく他のデジタル通貨発行元も銀行となるべく動くでしょう。そして、これらのデジタル通貨銀行は中央銀行に預ける銀行準備金と、それに伴う利益を奪い合うこととなるでしょう」と指摘しています。加えて、「Circleが銀行となれば、同社の発行するUSDCを購入することは、中央銀行に直接預金することと同じ意味合いを持つようになります」とも記しました。
なお、過去にTNBという銀行がアメリカでナロー・バンク論をベースに事業の確立を目指しましたが、連邦準備制度理事会はこのアイデアを好まなかったという事例が存在するため、Circleの描いた理想が実現せずに終わる可能性も十分に考えられます。
Circleの最高戦略責任者であるダンテ・ディスパルト氏は、Axiosに対して「銀行になるための申請プロセスは、まだ開始していない」と語っており、あくまでもそのための意図を発表したに過ぎないとしています。加えて、「政策立案者が望むことは何でも喜んで行う」とも語っており、法規制を順守しながら銀行になる道をたどるとしています。
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