いきなりだが、東京駅構内の床にポツリと不思議なマークが埋め込まれているのはご存知だろうか? 旅行者やビジネスマンなど大勢の通行人が行き交う駅構内において、その存在はあまりにも密やか……知らなければ気づくことはまずないだろう。
マークがあるのは2カ所。1つは丸の内南口の切符売り場付近(改札外)、もう1つは駅構内中央通路から新幹線改札口へと向かう階段手前にある。このマーク……実はある悲劇を忘れないために埋め込まれたものらしい。以下で詳しく説明しよう。
・2つのマーク
先に答えを言ってしまうと、東京駅の床にある2つのマークは……戦前に総理大臣が襲撃された地点を指している。多くの人が通り過ぎて行くが、どちらの場所にも、これまたさりげなく「事件の説明板」が設置されているのだ。実際に現場へ行ってみるぞ。
大正時代の姿がよみがえった東京駅丸の内駅舎。よく注意して南口の切符売り場に向かうと……
マークと説明板があることに気がつく。
円の内側に描かれているのは六角形……1921年(大正10年)11月4日に、原敬(はらたかし)首相が襲撃された現場だ。
短刀で右胸を刺された原首相は駅長室で手当を受けたが、ほぼ即死状態だったという。強引な政策に不満を抱いた青年による暗殺であった。
つづいて向かったのは、中央通路の階段手前。同じく注意しなければ見逃してしまうが……
同じく床面にマークが埋め込まれている。こちらは1930年(昭和5年)11月14日、いかつい見た目から「ライオン宰相」と呼ばれた浜口雄幸(はまぐちおさち)首相が銃撃された現場だ。
説明板は現場から少し離れた柱に設置してあるため、なかなか気づきにくい。しかし、軽い気持ちで読んだら衝撃的な内容にビビるはず。
「遭難現場」と書かれているため、首相がこのあたりで登山でもしたのだろうか……と勘違いしてしまいそうになる。もちろん違う。どうやら当時……
浜口雄幸首相は、岡山に向かう列車に乗り込もうとした際、右翼団体の構成員に至近距離から狙撃されたという。かけつけた医者によって応急手当が行われ、東京帝大病院で手術を受けて一命はとりとめたものの、翌年にこの怪我がもとで亡くなったそうだ。
・東京駅の秘密は他にも……
東京駅で首相が命を狙われた2つのテロ事件から、政治家への批判を「力こそ正義」で打開しようとする激動の時代が見えてきた。多くの人が行き交う東京駅、歴史ある巨大ターミナルには……まだまだ秘密が隠されているらしい。よし、調べておきます。