オフィス再開を控え、従業員の健康を優先する企業が増えている。そうした取り組みの一環が、フィットネスプログラムの導入だ。
たとえば、ウェイフェア(Wayfair)やサムスン(Samsung)、SAP、アクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive)、スカイ(Sky)などの企業は、ペロトン(Peloton)の新しい「コーポレートウェルネス」プログラムを導入している。これらの企業は、ペロトンのアプリやコネクテッドフィットネス製品の限定特典を従業員に提供することで、チームビルディングや健康的な習慣をサポートしようとしているのだ。
「パートナー企業から、現代の労働者たちの進化するニーズに対応できる、柔軟なウェルネスソリューションを必要としているという声を聞いた」と、ペロトンのコーポレートウェルネス担当 グローバルゼネラルマネージャーを務めるキャシディ・ラウス氏は述べている。「家にいても、外出先でも、オフィスにいても、自分のスケジュールに合わせて身体やメンタルのエクササイズを実践したり、同僚とチームを組んでモチベーションを高めあう機会が必要だ」。
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なかには、ペロトンの看板であるフィットネスバイクやテクノロジーを備えた専用スタジオを設置する企業まであるが、ハイブリッドな勤務形態を採用する企業が増えていることを考えると、この新しいプログラムのもっともタイムリーな特徴は、場所を問わず利用できることだろう。「我々は、働き方がこの先どう変化するかを考えることに多くの時間を費やした」とラウス氏。「より柔軟で、より動きに富んだものになることは間違いない。組織は、場所を問わず従業員のニーズを満たすウェルネスサービスを必要としている」。
その効果は体力向上だけにとどまらない。米国、英国、カナダ、ドイツの会員を対象とした調査では、ペロトン会員の83%が、ペロトンのプログラムによって仕事の達成感が増したと答え、また64%が、生産性が向上したと答えている。
ハイブリットワークに適している
現在、全世界で540万人の会員数を誇るペロトンのサービスを導入した企業の従業員は、ペロトンの会員権やコネクテッドフィットネス製品を購入する際に、補助を受けることができる。ペロトンはこのプログラムを、従業員の心身の健康増進手段としてだけでなく、雇用主が従業員のエンゲージメントと定着率を高めるツールとしても有用である点をアピールしている。
SAPノースアメリカ(SAP North America)の人事責任者であるダン・ヒーリー氏は、2020年におけるパンデミックの経験から、従業員のエンゲージメント、チームワーク、インスピレーションを高めるプログラムへの戦略的投資が、ハイブリッドワークが一般化しつつある昨今において、有益な結果をもたらすことがわかったと述べている。「当社が昨年に実施したペロトンのエクササイズキャンペーンの勢いに乗って、このほどペロトンのコーポレートウェルネスプログラムに参加することを決定したのは、この経験を踏まえてのことだ」。
またペロトンは、医療・保険会社のユナイテッドヘルスケア(UnitedHealthcare)と提携し、ユナイテッドの健康保険加入者向けに、ペロトンのアプリを通じて、数千ものライブおよびオンデマンドのフィットネスプログラムへのアクセスを提供する予定だ。これらは9月から利用可能で、最長1年間利用できるという。
企業全体にとって有益
フィットビット(Fitbit)もまた、企業と従業員とのつながりを構築しようとしているフィットネスブランドのひとつだ。同社の企業向け健康管理プラットフォーム、フィットビットケア(Fitbit Care)は、同社の看板であるパーソナルトラッカーや、対面式のコーチングを通じて、従業員に健康管理を促すものだ。
フィットビットの法人パートナーであるエモリー大学では、従業員の92%がこのサービスを利用することで、身体活動のモチベーションが上がったと回答している。また、同じく法人クライアントのバンゴー・セービング銀行(Bangor Savings Bank)のプレジデント兼CEOを務めるロバート・S・モンゴメリー・ライス氏は次のように述べている。
「従業員の健康維持は、彼ら個人にとっても企業全体にとってもメリットがある。健康維持によって彼らの生産性が向上すれば、チームメイトや顧客との関わりも、より深いものになるからだ」。
インフラ拡充に努める企業も
もちろん、GoogleやAppleのようなテック大手企業には、以前から職場にジムが併設されているし、ほかの企業でも、ヘルスクラブの会費に補助金が出るのは、従業員の福利厚生として定番となっている。しかし今回のオフィス再開では、オフィススペースを再構築するにあたり、ワークアウトルームやヨガスタジオ、ウォーキングコースなどのフィットネス施設を本社内に設置する企業が(Googleのような世界的企業に限らず)増えている。
たとえば、英国を拠点とするパフォーマンスマーケティングエージェンシー、ジャーニーファーザー(Journey Further)のCEO、ロビン・スキッドモア氏はコロナ禍以降、従業員の意見をもとに、フィットネスに特化した不動産を含め、3つのオフィスすべてに「大がかりな投資」を行ってきたと話す。「オフィスは当社の企業文化の重要な部分を占めている。そのため、オフィスに戻るときに備えて投資を続ける必要があるという意思を示すことが重要だった」と、クロ19(Clos19)やエアタスカー(Airtasker)といったクライアントと仕事をしてきたスキッドモア氏は述べている。同社は現在、ディープワーク、高強度インターバルトレーニング(HIIT)、ヨガクラス、ウェイトトレーニング用のスペースを備えている。
また、クリエイティブエージェンシーのビーリール(B-Reel)でグローバルコミュニケーションオフィサーを務めるグレイス・ロバーツ氏は、従業員のオフィス復帰を計画するにあたっては、彼らが心身の健康維持に注力できる空間を設けることが不可欠だと強調する。同社の新しいたフィットネス施設には、ヨガマット、ヨガホイールのほか、同社が開発した呼吸法アプリ「State(ステート)」へのアクセスなどが用意されている。
ナイキ(Nike)やH&Mを顧客にもつビーリールにとって、フィットネスへの取り組みはこれがはじめてではない。ビーリールでは以前から、ウェルネス・ウェンズデー(Wellness Wednesdays)なる従業員向けプログラムを導入しており、また従業員に毎月、英気を養い集中力を取り戻す健康増進活動のための手当を支給している。
TONY CASE(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:村上莞)