ホテルチェーン大手マリオット・ボンヴォイ(Marriott Bonvoy)は現在、アフターコロナの観光旅行者獲得を狙い、過去最大の広告キャンペーンを展開している。
マリオット・ボンヴォイは7月6日、ピンタレスト(Pinterest)との提携を発表した。これはマリオットの一大キャンペーン「ザ・パワー・オブ・トラベル(The Power of Travel)」の一環であり、同社は現在、HBO Max(エイチビーオー・マックス)やAmazon Fire(アマゾン・ファイア)、Disney+(ディズニープラス)といった動画配信プラットフォーム、TikTokやピンタレストをはじめとするソーシャルプラットフォーム、さらにはゲーミングプラットフォームのTwitch(ツイッチ)など、多岐にわたるプラットフォーム上で大々的に販促を展開している。
若い旅行客に照準
マリオットの狙いはほかでもない、アフターコロナの旅行需要だ。実際、航空旅行はすでにビフォアコロナの2019年のレベルに戻りつつあり、多くの国はコロナによる制限解除に向けて動いている。無論、空港や駅に戻る人の数が増すなか、マーケティング支出を大幅に拡大しているのは、マリオットだけではない。たとえば、米バッグブランドのアウェイ(Away)はこのほど、7月4日の米独立記念日に先立ち、海外旅行を勧める広告をニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に打った。
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ただ、マリオット・ボンヴォイが依然、様変わりした現状に対応しなければならない点は変わらない。この最新キャンペーンで同社が的を絞っているのは、中心的顧客だった出張客ではなく、観光を目的とする若年層の旅行者だ。
マリオット・ボンヴォイとピンタレストは今回、ピンタレストのトラベル関連データを紹介する屋外デジタル広告をNYソーホーの2店舗に掲示したほか、旅行者を夢の旅行に連れて行く4つのアプリ内クイズを制作した。この屋外広告は、人々がピンタレストで検索している旅行関連用語をリアルタイムで表示するとともに、消費者をピンタレストのモバイルアプリ内クイズに誘う。今回のパートナーシップは、ピンタレストのテクノロジーを屋外デジタル広告で利用した初の試みでもある。
「旅行を積極的に検討する際、79%の人々がピンタレストを利用しているが、その段階ではまだ何も決まっていない」と、ピンタレストの旅行関連ストラテジー&マーケティング部門グローバルヘッド、アシッシュ・アリャ氏は語る。「ピンタレスト利用者の大半は旅に行きたいと漠然と考えているが、具体的にはーー行き先も、利用するブランドも、どんな経験をしたいのかもーー決めておらず、言い換えれば、それらに関する提案を受け入れる余地が十二分にある。つまり、マリオットのようなブランドをピナー(ピンタレストユーザー)に紹介するのに、いまはもってこいのタイミングということだ」。
そうした消費者を取り込む動きは、マリオットの「過去最大」広告キャンペーン(同社は具体的な数字は明かさなかった)の一手であり、今回は旅行客に照準を合わせたと、マリオット・インターナショナル(Marriott International)グローバルマーケティング&メディア部門VPニコレット・ハーパー氏は語る。
「出張客は実際、我々のビジネスの中核だったのだが、いまは観光客を重視している」とハーパー氏。「もちろん、以前から旅行客にも素晴らしいホテルは用意していたが、その層に語りかける適切なメッセージとクリエイティブの制作に(中略)フォーカスはしていなかった」。
ゲーム業界にも進出
マリオットはこの2カ月間、さまざまなデジタルメディアに大型投資を行っている。Hulu Gateway Go(フールー・ゲートウェイ・ゴー)ではショッピングができるCTVを、TikTokでは、インフルエンサー27人がお気に入りの旅の思い出をシェアする大規模キャンペーンを、そしてAmazon Fire TVでは、マリオット・ボンヴォイの施設を宣伝するテイクオーバー広告を実施した。今後は、ゲーム内広告や、Twitchとの提携を通じてゲーム業界にも進出していくという。各プラットフォームに相応しいクリエイティブを創造していくのがマリオットの姿勢だと、ハーパー氏は語る。
「それぞれの環境に合うクリエイティブを構築すれば、無理強い感は出ない」とハーパー氏。「たとえば、テレビCMを短く切ってプラットフォームに押し込んだ、という印象を与えずに済む。それに、ほかの従来型広告と違い、観る者を引き込みやすい。消費者の声に耳を傾け、人々がそのチャンネルでメディアをどのように消費しているのかを十分に把握したうえで創るクリエイティブだからだ」。
また、こうしたプラットフォームは若年層の獲得にとりわけ有用でもある。ピンタレストはたとえば、Z世代の50%にリーチしていると、アリャ氏は断言する。さらに、Zおよびミレニアル世代はTVの動画配信サービスの契約数が世代別でトップであると同時に、Twitchにおける最大のオーディエンスでもある。
旅行に対する需要の変化
2021年度は、ビフォアコロナと同等数の人々が旅行を始めると思われる一方、旅行先での体験については、多くがこれまでと違うものを求めており、旅行計画を立てる際にも違うプラットフォームを利用しているーーそしてその傾向はマリオット同様、ほかの旅行ブランドもすでに掴んでいる。
たとえば旅行予約サイト、エクスペディア(Expedia)はプレスリリースによると、自社アプリおよびロイヤルティプログラムの再ローンチと、新たなブランディングである「コンパニオンシップ」の確立に「過去5年間で最大のマーケティング費」を投じている。同社シニアバイスプレジデント兼GMシヴ・シン氏は、消費者は「いま、かつてないほどサポートを求めている」と断言する。また、ホテル勢はアフターコロナの「スロートラベル」需要に応えるべく、注目度が高まりつつある長期滞在への割引サービスをはじめている。さらに、アラスカ航空(Alaska Airlines)はZ世代とベビーブーマー世代(日本における団塊世代)の両世代に同時に訴えかける戦略を展開するとともに、カリフォルニア州のリゾート地パームスプリングスに、ベビーブーマー世代がくつろぐためのハイプハウスを設け、TikTokコンテンツを制作している。
新たな消費者が旅行を始めようとしているいまは、まさしく革新の時だと、ハーパー氏は断言する。
「友人から、家族から、ほかの地域・国々から完全に孤立させられたことで(中略)、世界中の多くの人々がいま、旅行は生活に絶対に欠かせない必需品だったのだと、実感している。つまり、今回のグローバルキャンペーンは完璧に時宜を得たものだ」とハーパー氏。「実際、今がその時だとあらゆるデータが示していた。それが現実となったこの現況に、我々は大いに興奮している」。
[原文:Marriott is preparing for the return of travel with a new Pinterest partnership]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)