全5回にわたるこの連載では、自身も東京と長崎県・五島列島をほぼ毎月のように行き来しながら「申込者の約4割が組織の意思決定層」というワーケーション企画の運営に携わり続けている、一般社団法人みつめる旅・代表理事の鈴木円香が、ビジネスパーソンに向けた超入門編を解説していきます。
最終回は、人材育成や事業創造の面で企業が関心を寄せている「地域課題解決型ワーケーション」の意味や落とし穴についてです。
優秀なビジネスパーソンほど知っておきたい「日本の課題」
全5回の「ビジネスパーソンのためのワーケーション超入門」もこれが最終回となりました。ワーケーションとはそもそも何なのか?どんなワーケーションが「理想のワーケーション」なのか?逆にこれだけは避けたい「残念なワーケーション」とは何なのか?など、さまざまなトピックを取り上げてきました。
最後となる今回は、人材育成や事業創造につながるのではないかと、企業から注目されつつある「地域課題解決型」のワーケーションについて書きたいと思います。
都市部を離れ遠くまで出かけていってワーケーションをするのなら、観光スポットや各種アクティビティなどの「魅力」のほかに、ぜひ見ておきたいものがあります。それは、その地域の「課題」です。特に日本の地方には、都市部に住んでいては見えてこない課題、あるいは、あるとは理解はしていてもリアルに感じられない課題がたくさんあります。
たとえば、若い人が進学や就職のために出てしまい、お年寄りの比率がとても高くなってしまう「若年層の人口流出と高齢化」の問題、空き家が増えそのまま放置されている問題、子どもの数が少なくなり閉園する保育園や幼稚園、廃校が増えている問題、人口が減って下水道や交通などの公共インフラの維持・管理が難しくなる問題、介護や医療の担い手が都市部以上に深刻に不足している問題などなど、無数にあります。
そして、これからの課題は今後数十年のうちに都市部やその近郊でも、十分に起こりうるものばかりです。つまり「数十年先の未来」が、濃縮された形ですでに立ち現れているのが、日本の地方、とりわけ島や山間部といった過疎地域なのです。
「いま日本という国全体に、どんなことが起きようとしているのか?」ーーこの問いも、まさに未来を担うビジネスパーソンが向き合わざるをえないものです。日本の未来がどうなるか?未来の社会はどうあるべきか?いろいろな統計データや、それに基づいた予測と向き合いながら、商品やサービス、システムや制度を考える仕事に就く人は、ワーケーション実践者の中に大勢いるはずです。
日本の地方には、ビジネスパーソンこそ知っておきたい「課題」がたくさんある。その課題は未来を先取りしている。(撮影:廣瀬健司)
地方まで足を伸ばして目の当たりにする現実の「課題」には、統計データや予測をはるかに超えた、圧倒的なリアリティがあります。
車で1時間もあれば端から端まで行けるような小さな地域内に、廃校がいくつもある。どれも大きくて立派な校舎で、つい最近まで使われていた気配が感じられる学校さえある。しかも、地元の人いわく学校の統廃合はこれからもどんどん進むらしい……。ドライブをしながらふと目に飛び込んできたその光景からだけでも、日本でどれほど急速に少子化や、若年層の都市への流出が進んでいるかを肌でひしひしと感じます。都市部に暮らしていると、ニュースで時々耳にする「日本の課題」がここまで差し迫ったものとして実感できる機会はまずないでしょう。
「課題解決型ワーケーション」の落とし穴
最近では、研修に近いタイプのワーケーションとして、行政と企業がタッグを組んだ「地域課題解決型ワーケーション」というものもあります。
「公共交通が維持できず、お年寄りが買い物難民になっている」「漂着する大量の海ゴミを拾う人手が確保できない」といった、その地域特有の課題に対して、技術や知見をもつ企業がコミットするというものです。地方自治体にとってはノウハウや人材が足らずに取り組めていなかった課題に着手できるというメリットがありますし、企業にとっては社内の人材育成の機会や行政との協働事例となるというメリットがあるので、最近盛んになりつつあります。
ただし、筆者も過去に「地域課題解決型ワーケーション」の企画・運営をした立場から反省も踏まえて書くと、注意点は「地域課題の解決」が先に来てはうまくいかないことです。
特に都市部のビジネスパーソンは、普段から仕事で「課題の発見→解決」というプロセスを息を吸って吐くように自然に行なっているので、どこに行ってもすぐに「課題」が目についてしまいますし、見つけた以上「解決したい!」という衝動に駆られます。仕事ができる優秀な人ほど、その傾向があります。でも、ちょっと待っていただきたいのです。