ツール・ド・フランスを勝ち抜く選手はレース全体で何キロカロリー消費するのか?

GIGAZINE


by charel.irrthum

毎年7月にフランスで開催される自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」は、23日間の日程で全21ステージ、総距離3300km前後で高低差2000m以上という過酷なレースです。そんなツール・ド・フランスを勝ち抜く選手は、レース全体で膨大なカロリーを消費するとのことで、アメリカ・リンチバーグ大学で物理学教授を務めるジョン・エリック・ゴフ氏が総消費カロリーを推定しています。

Tour de France: How many calories will the winner burn?
https://theconversation.com/tour-de-france-how-many-calories-will-the-winner-burn-163043

ツール・ド・フランスは、常人では1つのステージを走破するだけでも大変なレースです。たとえば2021年の「ステージ17」は全長178.4kmのコースであり、スタートから113kmほどは比較的平らで標高も400m程度しか上がりませんが、オート=ピレネー山脈にさしかかると一気に勾配が激しくなります。標高600mほどの地点からペイルスルド峠を一気に標高1569mまで上り、その後は標高958m地点まで下りた後、再びヴァル・ルロン・アゼ峠を標高1580mまで上昇します。そして標高849m地点まで下ってから、最後にポルテ峠を標高2215m地点まで上ってフィニッシュです。

ゴフ氏は、「私の人生で最も調子がいい日でも、ステージ17を走りきることはできないかもしれません。ましてや、ステージ17の勝者が走破するのにかかる5時間程度の時間では、走りきるのは無理でしょう」と述べています。ツール・ド・フランスは全21ステージを23日間の日程で走りきるため、この過酷なステージ17ですら23日のうちの1日でしかありません。

by Michael Ziemann

スポーツの物理学を研究するゴフ氏は、地形データと物理法則を使用して、20年近くにわたってツール・ド・フランスをモデル化してきたとのこと。「ツール・ド・フランスの選手は自転車を動かすためのエネルギーを、筋肉から自転車を通り、地面を押し出すタイヤに伝えます。選手がエネルギーを早く放出できるほど、より力は大きくなります」と述べています。

自転車を動かす仕事率はワットで示すことが可能であり、ツール・ド・フランスの選手は一般の人と比較して、膨大なパワーを信じられないほどの長期間にわたって作り出せます。たとえば、健康なサイクリストは平均250~300ワットのエネルギーを約20分間にわたり生み出し続けることができますが、ツール・ド・フランスの選手は400ワット以上のエネルギーを同じ期間作り続けられるとのこと。また、急な上り坂を進む際などは、瞬間的に1000ワットものエネルギーを放出できるそうです。

以下のムービーでは、自転車競技の選手であるローベルト・フェルステマン氏が自転車をこいで発電し、700Wのトースターを稼働させてパンを焼く様子を見ることができます。

Olympic Cyclist Vs. Toaster: Can He Power It? – YouTube
[embedded content]

しかし、ツール・ド・フランスの選手が自転車に伝えるエネルギーの全てが前進に使われるのではなく、空気抵抗や道路との摩擦により、エネルギーは失われます。また、下り坂では重力の助けを得られますが、反対に上り坂では重力に逆らって自転車を前に進めなければなりません。

ゴフ氏はツール・ド・フランスのコースにおける重力、空気抵抗、摩擦の影響を組み込んだモデルを作成して、走破に必要なエネルギーを計算しました。その結果、典型的なツール・ド・フランスの勝者は、約80時間のレース全体で平均325ワットのエネルギーを出力する必要があるとのこと。普通の健康的なサイクリストにとっては、20分間にわたり300ワット作ることができれば上出来である点を考えると、これは膨大なエネルギーだといえます。

選手はこれらのエネルギーを食物から得ていますが、筋肉は食物から摂取したカロリーを100%エネルギーに変換して出力することはできません。ゴフ氏は平均的なエネルギー効率を「20%」と見積もり、ツール・ド・フランスの選手が必要とする摂取カロリーを算出しました。

ゴフ氏の計算では、全21ステージを走破した選手はレース中に12万キロカロリー、つまりステージ平均で6000キロカロリーを消費するとのこと。また、ステージ17のように険しい山道を走るステージでは、消費カロリーが8000kcal近くなるそうです。このばく大なエネルギー損失を補うために、選手は走りながらエネルギーバーやジャムを挟んだパンなどを食べています。


なお、2020年のツール・ド・フランスで総合優勝を果たしたタデイ・ポガチャル氏の体重はわずか146ポンド(約66kg)とのこと。ツール・ド・フランスに出場する選手は基本的に脂肪が少ないため、超人的な速度を出し続けるには、食べ物を食べ続けなければならないとゴフ氏は述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

タイトルとURLをコピーしました