五輪の陰で追い出される被災者 – 鈴木博喜 (「民の声新聞」発行人)

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福島県内だけで38人が亡くなり、1万3000棟以上の住宅が全半壊した2019年10月の台風19号水害で、災害救助法に基づき〝みなし応急仮設住宅〟として民間借り上げ住宅を無償提供されている被災者たちが今秋、入居期限を迎える。福島県の集計では今なお1250世帯が入居しているが、早ければ10月から明け渡しを求められる。福島県の担当者は「多くの入居者は新たな住まいは決まっている」と話すが、制度からこぼれてしまう人は救済されるのか。多額の予算が注ぎ込まれる五輪の陰で水害被災者の追い出しが始まっている。

【1250世帯が入居中】

 福島県の情報公開制度で建築指導課が開示した文書によると、台風19号水害で被災し、応急仮設住宅として民間借り上げ住宅に入居している被災者は1250世帯(6月1日現在)。市町村別では、いわき市が最も多くて673世帯(53・8%)、次いで郡山市の366世帯、本宮市の84世帯。須賀川市、伊達市、福島市でも入居世帯は2ケタある。最大で1900世帯が入居していたが、自宅の修繕が済んだなどで650世帯が退去。それでも依然として多くの世帯が制度を利用している。

 民間借り上げ住宅は、原則として家賃6万円までの物件を被災者が探し、福島県が借主となって家主と契約。2年を限度に被災者に無償提供する制度。県が支払った家賃は、一部を国が補てんする。

 原発事故で政府の避難指示が出されなかった区域から避難した区域外避難者(いわゆる〝自主避難者〟)にも同様の制度が適用され、1年ずつの延長を経て2017年3月末で無償提供が打ち切られた。今回は二本松市、鏡石町、只見町の計8世帯のみ「特例延長」が国に認められたが、1242世帯については延長されない。早ければ今年10月、一番遅い世帯でも来年7月には無償提供が終了する。退去するか自費での入居を続けるかの判断を迫られる。

 自力で生活を再建できる被災者は前を向いて歩ける。しかし、それが難しい人もいる。仮に1割としても125世帯が路頭に迷うことになってしまう。

 建築指導課の担当者は「今は県が家賃を支払っていますが、無償提供が終了した後も契約せず住み続けていると、嫌な表現ですが『ただで居座っている』という形になってしまいます。不法占拠ですよね。一方、県は家賃支払いはなくなりますが家主に明け渡さなければいけませんから、その状態は『明け渡し債務の不履行』ということになってしまいます。そういう事態にならないように個々の事情を伺いながら取り組んでいます」と話している。


(上)「令和元年台風第 19 号に伴う災害に係る福島県借上げ住宅実施要綱」には「2年間を限度として」と明記されている(赤線は筆者)
(下)情報公開制度で入手した一覧表。いわき市、郡山市を中心に依然として1250世帯が制度を利用している

【いわき市議「延長すべき」】

 福島県内で最も多くの被災者が民間借り上げ住宅に入居しているいわき市では、今年6月15日の市議会本会議でこの問題が取り上げられた。鈴木さおり市議(いわき市議会創世会)が「県の事業は最長で2年間となっており、民間借り上げ住宅の入居者のなかには今年の秋ごろに期間が終わってしまう人もいます。働き盛りの人ならともかく、年金生活の高齢者には2年で住宅を再建することが難しい人もいます」として市当局の姿勢を質した。都市建設部長が次のように答弁している。

 「災害救助法に基づく応急仮設住宅として、県が一時的に民間賃貸住宅を借り上げて提供致します民間賃貸住宅借り上げ制度を活用された被災者の方は1030世帯となっております。このうち、住宅再建などにより制度の活用を終了し退去された方は5月末時点で355世帯。主な理由は住宅の修理が完了し自宅に戻られた方が163世帯と最も多く、新たに住宅を購入して転居された方が83世帯。公営住宅へ転居された方が43世帯などとなっております」

 そして、住まいの確保に関する市の支援策については、清水敏男市長が答弁に立った。

 「民間借り上げ住宅に入居されている方々が早期に住宅の再建ができるよう、低額の家賃で入居できる公営住宅の案内や住宅再建に関する補助制度を紹介するなど住宅再建の支援を行ってきたところです。住宅の確保に困窮している場合には、個別に電話による相談に対応するとともに自宅訪問を実施するなど住宅確保に向けたきめ細やかな支援を行ってまいりたいと考えております」

 鈴木市議は「住むべき家があるというのは何よりの安心です。高齢になってからの度重なる転居や住まい探しの不安などは傍で感じるよりずっと大きなストレスです。心身への影響が心配される場合もあります」として無償提供を延長するべきだと訴えた。これに対し、清水市長は延長も視野に入れていることを示していた。

 「市と致しましては入居されている方の意向などを個別に確認し入居期間終了後の住宅確保へ向けた支援を行うとともに、被災された方々の住宅再建の状況をふまえながら必要に応じ入居期間の延長について県へ働きかけてまいりたいと考えております」

 しかし、延長はされない。県の担当者は「国が認めなかった」と話す。


(上)一帯が水没した郡山市水門町では、多くの家屋が泥水に浸かった
(下)自動販売機も倒すほどの水の勢いに、水門町の住民たちは「まるで津波のようだった」と語った

【「国が延長認めない」】

 福島県災害対策課が取材に応じた。

 「原則、延長はありません。延長されるのは、あくまで特例です。今回で言いますと、1市2町のなかで例えば再建しようとした場所が自治体の災害復旧工事などのコースにひっかかってしまうような場合です。家計が苦しいなどで再建方法が定まっていない場合についての延長は認められないと国(内閣府)から言われております。国の制度なので、協議をして国がOKしないと延長できません。最終的に決めるのは国なのです」

 原発事故に伴う区域外避難者については、早々に打ち切られたとはいえ延長された。なぜ今回は延長されないのか。

 「原発事故での避難者に対する延長は、例外中の例外だと思います。あれが例外であって、基本は2年間なんです。ですので、早い方だと今年10月に期限を迎えます」

 災害対策課が昨年8月から今年4月にかけて実施した「意向確認」によると、無償提供終了後の「再建方法が決まっている」と回答した世帯は42%にとどまった。そもそも回答していない世帯が33%あり、回答のなかには既に退去した世帯も含まれている。改めて調査を進めており、今月中にも結果がまとまるという。

 「まだ取りまとめ中ですが、再建の方法が確定している方は増えています。いずれにしても県の公費負担はなくなりますので、それぞれの事情を伺いながら利用できそうな既存の制度(公営住宅や福祉制度)をご紹介することもやっています」

 「福祉部門につなぐ」というのは原発避難者への対応と同じだ。打ち切り方針は変わらず、期限を区切った自立の強制が始まっている。

 「延長はありません。それは間違いないです。内閣府から、経済的に苦しい方々の延長はないといわれておりますので…。退去しないと不法占拠になってしまいます。そうならないようにご事情を聴きながら支援制度を紹介していくとしか申し上げられません。市町村や社協が戸別訪問しているケースもあります」

 ある県職員は、発災翌日に水害の現場に入った。「今でもあの時の光景が思い出されます。何とかならないものかと私も思いますが、国が延長を認めない以上、どうしようもない。財源の問題が大きいのでしょう」と語った。多額の予算を食い潰す五輪が間もなく始まる。一方で、水害被災者は追い出される。

(了)