腸内細菌は人間の気分や食べ物の好み、持久力などさまざまな面に影響を及ぼしていることが知られており、腸は「第2の脳」とも呼ばれています。ノースカロライナ大学の研究チームが新たに発表した論文では、乳児の「恐怖に対する反応」も腸内細菌によって左右されている可能性が示唆されています。
Infant gut microbiome composition is associated with non-social fear behavior in a pilot study | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-23281-y
Bacteria are connected to how babies experience fear | MSUToday | Michigan State University
https://msutoday.msu.edu/news/2021/bacteria-connected-to-how-babies-experience-fear
Fear Response in Babies May Be Shaped by Their Gut Microbiome, Study Reveals
https://www.sciencealert.com/fear-in-babies-is-shaped-by-the-microbiome-inside-them-study-reveals
近年の研究により、腸内細菌が人間のさまざまな側面に影響を与えていることが判明しています。そこでミシガン州立大学のレベッカ・ニックマイヤー准教授が率いる研究チームは、生まれたばかりの乳児を生後1カ月~1年にわたり追跡調査し、腸内細菌叢と「恐怖への反応」を分析する研究を行いました。
今回の研究に参加した34人の乳児は、いずれも帝王切開ではなく産道を経由して生まれ、抗生物質を与えられておらず、少なくとも生後1カ月までは母乳で育てられていないという条件で集められました。これは、可能な限り腸内細菌叢に与える影響を小さくするためだったと研究チームは述べています。
研究チームは生後1カ月と生後1年の時点で乳児の腸内細菌叢を分析し、どのような細菌が含まれているのかや全体的なバランスについて評価しました。また、生後1年の時点で「ハロウィーンの仮面をかぶった人が部屋に入ってくる」という簡単なテストを行い、乳児の表情や声、体の動き、逃避行動、驚きなどを元に、どれほど恐怖に反応したのかを測定しました。なお、この時は乳児のすぐそばに親がいる状態であり、怖がった乳児は親にあやしてもらうことができたとのこと。
全てのデータをまとめたところ、研究チームは腸内細菌叢と恐怖への反応の強さに有意な関連があることを確認しました。具体的には、腸内細菌叢に占めるバクテロイデス属の割合が少なく、ベイロネラ属・ディアリスター属・ビフィズス菌・ラクトバシラス属・クロストリジウム目の一種などの割合が多い乳児では、恐怖反応が強い傾向が見られたとのこと。また、生後1カ月時点における腸内細菌叢のバランスが悪く、微生物の構成が不均一だった乳児も、1歳の時点で強い恐怖反応を見せたそうです。
また、研究チームはマスクを着用しない状態で見知らぬ人が部屋に入ってきた場合の乳児の反応も観察しましたが、こちらは腸内細菌叢との関連が見られなかったとのこと。この点についてニックマイヤー氏は、「見知らぬ人には『社会的な要素』が感じられます。子どもたちは社会的な警戒心を持っていたかもしれませんが、見知らぬ人を差し迫った脅威とは認識していません。子どもたちがマスクを見た時、そこには社会的な要素が感じられません」と述べ、マスクをかぶった人は恐怖の対象として脳内で処理されると指摘しました。
ニックマイヤー氏が「恐怖反応は子どもの発達における正常な部分です」と述べる通り、必ずしも乳児の恐怖反応が強かったからといって、それが悪いというわけではありません。しかし、成長するにつれて恐怖をコントロールすることはメンタルヘルスにとって重要であり、過剰な恐怖心を持ち続けていると、やがて不安障害やうつ病を発症するリスクが高まる可能性があるとのこと。
さらに研究チームが乳児の脳をMRIでスキャンしたところ、1歳時点における腸内細菌叢の構成が扁桃体の大きさと関連している可能性も示唆されました。扁桃体は恐怖を含む感情的反応の処理で重要な役割を果たすため、腸内細菌叢が扁桃体の発達と機能に影響を与えた結果、恐怖反応が変化した可能性があるとのこと。しかし、この点を確かめるにはさらなる研究が必要だそうです。
ニックマイヤー氏は、「発達の初期段階は、健康な脳の発達を促すための機会が豊富にあります。腸内細菌叢は、子どもの脳の発達を促すために使用されうる、新しく刺激的な研究対象です」と述べています。
なお、今回の研究は少数の乳児を対象にした予備的なものであり、研究チームは「これらの調査結果は再現されるまで注意して扱う必要があります」と指摘しました。
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