タリバン猛攻と米軍撤退で転換期 – 六辻彰二/MUTSUJI Shoji

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  • アフガニスタンは米軍撤退とタリバンの猛攻により、9.11以来の大転換を迎えている。
  • タリバンの大攻勢は米軍撤退だけでなく、これを食い止めるべきアフガニスタン政府・軍の無気力・無力によっても加速してきた。
  • さらに、タリバンが経済的に自立したことで、外部から影響を受けにくくなったことも、大攻勢につながっている。

 アフガニスタン軍より兵力に劣るはずのタリバンは、なぜ各地の主要都市を次々と制圧できたのか。そこには大きく3つの理由があげられる。

カタストロフの淵へ

 タリバンは8月15日、ついに首都カブールを包囲し、アフガニスタン政府と権力の委譲について交渉を始めた。アフガニスタンは今、対テロ戦争が始まった2001年以来の大変動を迎えている。

 イスラーム武装組織タリバンは各地の主要都市を次々と制圧し、今やアフガニスタンの3分の2はタリバンの支配下にあるといわれる。

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 戦闘が激化するなか、国外脱出を目指す人々がカブール国際空港に押し寄せている他、各国の大使館に難民申請をするために詰めかけている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、アフガンでは昨年暮れまでに290万人が避難民になっていたが、今年の初めからの戦闘でさらに40万人増えた。

 こうした状況にグテーレス事務総長は13日、アフガニスタンが「制御を失っている」と表現して戦火の拡大に懸念を示し、「真剣な交渉を行なうべき時」と指摘した。欧米メディアではタリバン大攻勢でカタストロフ(崩壊)が近いという論調が目立つ。

「もはやテロリストではない」

 タリバン兵の総数はおよそ6万人、それに協力する民兵を含めても20万人程度と推計され、アフガニスタン軍の30万人より少ないと見積もられている。

 それにもかかわらず、なぜタリバンはアフガン全土を掌中に収めつつあるのか。そこには大きく3つの理由がある。

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 第一に、アメリカ撤退による勢いだ。

 昨年3月、当時のトランプ政権はタリバンとの間で和平合意を締結した。ここでは戦闘停止、タリバンが国家再建についてアフガニスタン政府と交渉することなどの条件と引き換えに、米軍の撤退が約束された。

 2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件とそれを契機としたアフガニスタン侵攻の後、米軍はアフガニスタンの政府・軍を支援しながら、タリバン掃討作戦を続けてきた。しかし、地方に根を張ったタリバンのテロ攻撃に手を焼いた米軍は、結局撤退に追い込まれたのである。

 これはタリバンにとって事実上の勝利だ。そればかりか、「テロリストとは交渉しない」と言い張り続けてきたアメリカがタリバンと対等の交渉に臨んだことは、「タリバンはテロリストではない」とアメリカが認めたことにもなる

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 「アメリカに勝った」高揚感に包まれるタリバンが、その目に「アメリカの傀儡」と映るアフガニスタン政府とまともに交渉する気がなくても不思議ではない。

 各地を次々と制圧するタリバンに対して、米軍は一部で空爆などを行なっている。しかし、バイデン大統領は同時多発テロ事件の記念日に当たる9月11日を目前に控えた8月一杯で撤退を完了させる方針を変えていない。

 撤退を優先させる米軍の姿勢は、タリバン大攻勢の引き金になったといえる。

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