オリンピックとコロナは本当に関係ないのか

アゴラ 言論プラットフォーム

オリンピック開催中にコロナの感染者が急増し、現在も増えている。

そうした中で、丸川珠代オリンピック担当大臣は「オリンピックの開催は感染拡大の原因にはなっていないものと考えている」とコメントしたと報道されている。

オリンピック閉会式 首相官邸HPより

また、加藤勝信官房長官も「政府としては、(五輪が)現在の下線拡大の直接の原因になっているわけではない」とコメントしたと報道されている。

確かに、オリンピック開催が、直接の原因になっているわけではないのだろう。感染力の強いデルタ株に置き換わったことで、これまでと明らかにフェーズが変わっているとは思う。

1.オリンピック開催に関するメッセージ

直接的な原因かどうかはともかく、オリンピック開催に伴う首相の発言を振り返ると、やはり緊急事態宣言下での国民への感染防止のメッセージは、非常に伝わりにくくなったように感じる。

そもそも、オリンピックを開催する必要性について、首相は次のように説明を繰り返した。

コロナに勝った証しとしてオリンピックを開催したい

現実には緊急事態宣言が出ていたし、感染は拡大し続けたのだから、「勝った証し」も何もないだろう。

また、非常に危機感が伝わらない状況になってしまったのは、首相がオリンピックを開催するのかと聞かれた時に、「人流は減っている。心配ない。」と説明したことだ。

オリンピックを開催しても大丈夫という説明をしたかったのだろうが、これでは、どうしても「コロナについても、人流が減っているので、それほど心配ない」というメッセージとして、伝わってしまうと感じた。

2.よりよいメッセージはあるか

では、(開催自体に賛否はあったが、開催するとして)オリンピック開催に当たっては、どのようなメッセージを発したらよかったのだろうか。

僕なりに考えてみると、以下のようなメッセージを発した方がよかったのではないかと思うが、いかがだろうか。

■ コロナ禍の中で、国民の皆さんや世界の皆さんに明るく元気になるスポーツの祭典を届けたい。もちろんオリンピックの感染対策には、万全を期する。

■ 国民の皆さんにおかれては、感染が拡大する中で、苦しい状況が続くが、感染対策を徹底し、極力外出を避け、ぜひテレビでオリンピックを楽しんでいただきたい。

3.政治家は「情と理と利」のバランス

強制的な措置ではなく、お願いベースのコロナ対策を選択している日本では、トップのメッセージが国民に共感を持って受け止められるかが非常に大事だ。しかしながら、菅さんは自分の言葉で共感を持ってもらって人を動かすことが苦手な政治家だと思う。論理的な説明も得意ではない。コロナについての説明は、かなり尾身先生に任せているように見受けられる。

僕は、政治家は「情と理と利」のバランスでできていて、このバランスが政治家によって随分と違うと思っている。

「情」は、困っている人を救いたいなどという思いを持っていて、共感を得て政策を進めていく姿勢。

「理」は、政策を考える時や説明の際に、論理的に考えたり説明したりすることを重視する姿勢のことだ。

「利」は、直接的な利益を重視する姿勢だ。

4.菅さんは「利」の人

菅さんは、「利」が強い人だと思う。首相になる時に掲げた政策も「携帯電話の値下げ」「不妊治療の保険適用」など、国民に分かりやすい経済的なメリットのある政策が並んだ。また、政策の実現のために官僚の人事権を使う点も、官僚に対する直接的な利益をコントロールして従わせる手法だ。

菅さんの強みは、人の意見を丁寧に聴いたり、共感を呼ぶ言葉で人の行動を促したりすることではなく、直接国民に分かりやすいメリットが届く結果を出すことだと思う。ワクチン接種が好例であるが、1日100万回という目標を立てて、実務的な困難を指摘する声もあったが、耳を貸さずに、ぶれずに進めている。この点は、菅さんならではだと思う。

ワクチン一本足打法を取っているのも、自分の強みは直接国民にメリットを届かせるという結果を出すことしかないと理解しているからだろう。

平時において、規制改革や社会保障などの制度改革を進めるのであれば、菅さんの強みが活かされたと思うが、お願いベースのコロナ対策を進めないといけない時期に首相になってしまったのは、タイミングが悪かったように思う。

しかし、菅さんではなくて「この人が首相になれば、コロナ対策が急にうまくいく」と思える人がいるかというと、誰がやっても政府の対策そのものが劇的に変わるわけではないと思う。また、この難しいタイミングで、あえて火中の栗を拾いに行く総理候補がいるのかも疑問だ。

5.今、こころがけたいこと

高齢者の感染はワクチンの効果で減っているが、中年や若い人の感染が増えている。東京では、もはや感染しても入院が難しい状況になってしまっている。自宅療養中の急変に酸素吸入などの必要な医療が受けられるのかも不安だ。これまでに経験したことのない危機と思う。

感染して入院した若い人の話を聞くと、死なないかもしれないが、本当につらく、絶対にかからない方がよいと口々に言う。自宅療養となれば、家族への感染拡大も心配だ。

宿泊療養や往診の体制整備は重要なので進めてほしいが、医療サイドにも既に相当な負荷がかかっているので、大きな余力はないかもしれない。

我々一人ひとりが、最大限の警戒をして自らと家族を守ることを、改めて強く考えないといけないと感じている。

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~現場の声を政策につなげるために~|千正 康裕@千正組|note
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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年8月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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