会長・政治評論家 屋山 太郎
新聞各社の内閣支持率を見ると、6月20日の日経新聞が60%、6月6日の読売新聞が64%と高水準を維持している。朝日・産経も同程度を維持しており、内閣支持率の平均値は60%程度と見てよいのではないか。
安倍内閣時代は30%台と低迷し、安倍氏は「安保法制なんていう、国民に嫌われている仕事をやっているせいだ」とボヤいたものだ。岸信介氏の安保法が日本を救っているという自覚が安倍氏を突き動かしていたのだろう。
防衛費の増加は安倍内閣以来の懸案である。日本はGDPの1%という“定規”のようなものを掲げて、それを守るのが政治家の役割だと言わんばかりの風潮だった。中曽根康弘首相は米ソ冷戦時代、「1%枠を外す」という言質を米国のレーガン大統領に与えた。「1%枠を外す」と言っても、当時のソ連がビビル訳もない。だが日本も軍事費を増やすという話は、米側の軍事関係者を喜ばせることにもつながった。
中曽根氏は当時、総務会長だった宮澤喜一氏を呼んで「1%枠外し」の話を持ちかけたが、宮沢氏は「私は乗りません」の一点張りである。こういう時、中曽根氏ならどういう手を打つのだろうと見守っていたところ、旬日を経ずして手管が判明した。宮沢氏を財務(大蔵)大臣に抜擢したのだ。宮沢氏は大蔵省出身。出身省の大臣に成り上がったのだから、これ以上の名誉はない。
こういう昔の状況をなぞらえて考えると、今回の防衛費を「GDP比2%以上に」というのは、千載一遇の好機だ。私は元々、軍備は国際標準の2%程度はなければ「戦えない」「守ってもらえない」と信じてきた。
戦後、憲法9条を元に非武装論、外交的中立論が常識のように言われてきた。実際、食糧にありつくためには、社会主義が良いのか民主主義が良いのか、迷うような時代だった。
そういう時代に伊ローマに特派員として送り込まれて驚いたのは、同僚のイタリア人達がお互いを全く信用していないことだった。電話で商品に関するアンケートに私が答えたら「それは身元調査に違いない」と、ほぼ全員が言ったのには驚いた。こういう社会では、政党支持について正直に答える訳がない。能天気に「自民です」「立憲です」と皆が皆、正直に答える国など日本ぐらいのものだろう。
安倍政権下に安保法案で10%は減っていた内閣支持率が今、「GDP比2%の防衛費」という言葉が出てきたにも関わらず60%台を維持している。それだけ人々の防衛意識が高まったということだろう。
現在、自衛隊のあり様は極めて明瞭である。敵は中国である。その中国の陰に隠れてウクライナに戦争を仕掛けているのはロシアである。このロシア・中国に対抗し、こちら側が組んでいるのは米国を始めとした全NATO同盟国である。我々が守ろうとしているのは自由主義的価値観である。東欧諸国に自由を分配したばかりに、我々は専制主義に酷い目に合わされた。あとは一致団結して対抗するだけだ。
(令和4年6月22日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2022年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。