甘い生地を丸めて揚げて作ったドーナツを、そのまま食べずにどうするか。
答えは「シロップに一晩漬ける」である。
このおそろしいお菓子は、世界一甘いとも言われるインドのグラブジャムンだ。
当サイトではたびたびその甘さにおそれおののいてきたが、最近ハラルフードを扱うお店でそのグラブジャムンに並んで「カラジャムン」というお菓子が売られているのを見た。
ネットで日本語で検索をかけても、ひっかかってこない。
グラブブジャンの「親戚みたいなもの」
ネイティブの方らしき店員さんに、グラブジャムンは知っているのですが、カラジャムンというのはどういう食べ物なんでしょうかと伺うと「親戚みたいなものですね」とのこと。
それは例えば「プリッツ」にサラダとローストがあるような、味付けが違うということだろうか。
「きのこの山」と「たけのこの里」のように世界観が統一されてはいるが内実はかなり違う、的なことも考えられる。
お店の方は食べて確かめてみて、という雰囲気で、よしと目を見てうなずいた。思い切ってグラブジャムンも合わせて両方買った。
1缶がでかい
もうちょっとコンパクトな商品があればよかったのだがサイズ展開はLL一択のストロングスタイル。850g入りのみ。
逆に言えば、グラブジャムン文化圏の方々としてはこれくらいはぜったいに要る、ということなんだろう。200gなんかじゃ足りないのだ。
パッケージがらして、グラムジャムンはもちろんカラジャムンも「はちゃめちゃ甘い」というのは確実視される。
激甘合計1.7キロを背負い帰る。リュックのひもの食い込みそのものが今日はロマンだ。
より長く揚げる……?
試食には、2010年におそらくは日本のインターネットでもかなり早い段階でグラブジャムンを紹介する記事を書き、「今まで気づかなかった虫歯が見つかるくらい甘い」という名言をこの世に送り出した当サイト編集部の石川をアサインした。
石川はエスニック料理が好きでその文化にも詳しい。ただ、やはり聞いてみるとカラジャムンについては知らないという。
では石川にはブラインドで試食してもらうことにしつつ、私はカラジャムンの正体を先に調べてしまおう。
アルファベット表記で検索してたどり着いたのはインド料理の指南動画だ。
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これによると、どうもカラジャムンというのは原材料や調理工程のほとんどがグラブジャムンと同じらしい。
では何が違うかというとこれがめっちゃくちゃに意外だった。
なんと、グラブジャムンよりも長時間、表面が真っ黒になるまで揚げる、ということらしいのだ。
数本動画を見たが、グラブジャムンだったら約10分揚げるところカラジャムンは15分揚げるというのがおおむねの定番のようだった。
そんなバリエーションのつけ方、ある???????
あれか、レア・ミディアム・ウェルダンみたいなことか。いやしかし、そこを名前を変えて別料理とする発想はなかった。
異文化の興奮が極まる。「クゥ~」と声が出た。たまんねえな。
動画を見ると、なるほどこれは炭なのかな? というくらい真っ黒に揚げている。箱根の黒たまごくらいしっかり黒い。
Google翻訳によるとヒンドゥー語でgulabは「甘い」、kalaは「黒い」と出て、なるほど……。
※なお、Jamunはそういう名前の果物があるらしく、丸いドーナツの形がその果物に似ている……というのが由来のようです。
動画ではとにかくギー(油)をたくさん使うようにと教えるものが多かった。シロップへの漬け込みは2時間でもいいけど一晩寝かすとよく生地に染みこみ甘くなりおすすめだという。シロップで体積がやや増えるくらいが良いらしい。
全体にトゥーマッチを良しとする豪快な心意気。胸がすく。
甘さの現地解散
ではいよいよ、石川を呼びおごそかに試食しよう。
まずはグラブジャムンだ。以前べつやくれいさんの記事の撮影でも食べたことがある。
久しぶりに食べて、やはり本当に甘い。すごみはシロップの浸透だろう。ドーナツの細胞のひとつひとつにシロップが滲入しきっている。
形状は保っているが、口に入れると球形は一気に崩壊、細胞壁としてのドーナツと内液であるシロップががどっぱんと口に漏れあふれ出て、出るやいなやこんどは口内の細胞に滲み入らんとアタックしてくる。
シロップがめちゃくちゃにアクティブだ。
「甘さが口の中で現地解散しますね」と石川。
ただ、石川は慣れたもので「久しぶりだな」「こんなもんだ」みたいな態度でおり、そういう鍛錬があるのだなと思わされる。
「ブランデーケーキの延長にあると思うと存在が意味としてとらえられる」と言っていて。なるほど……。
カラジャムンは現地解散前にちょっと猶予がある
続いて問題の(いや問題じゃないんだけども)のカラジャムン。
なるほど、よく揚げてあるだけに、界壁がグラブジャムンよりもやや硬い。
歯ごたえが生まれることにより、口内で一気に崩壊せず、甘みがあふれる出すのに時間的猶予がある。
噛んで崩壊させてしまえばあとはおおむねグラブジャムンと同じ味わいなのだけど、この崩壊までの時間の猶予が甘さを感じさせるうえでかなり違う。
カラジャムンのほうがややマイルドに感じるのだ。
食べる前はココア味なのでは、などフレーバーの違いを予想していた石川も、食べることでほぼ同じ味だということにはすぐに気づいた。
とはいえさすがに「より長時間揚げる」という回答にはたどりつけず。
カラジャムンの正体は、なかなかないタイプの予想外だった。
物事は、知ってしまえば恐るるに足りないことが多いものだが、こと異国の文化については知ることによりいよいよ畏れが増し、尊重の、リスペクトの気持ちがわくものだ。