舞台の国はどこにあるのか
西村:
『魔女の宅急便』を改めて見直してみると、気象現象を描写したシーンが多いなと感じましてですね、プレゼン資料を作ってまいりました。
まず、大前提として、舞台は架空の国や町であるということはあるんですが、作品内で描写される気象現象を見ていくと、そこがどんな気候なのかがわかるかと思いました。で、オープニングです。
冒頭のシーン:
キキは、原っぱに寝転んで天気予報を聞いている。
めちゃくちゃ天気がいいけど風がつよい。風が冷たそう。雲の位置が低い?(西村さんの推察)
増田:
花が咲いてるから春~初夏。おそらく半袖なので、そうすると初夏の陽気ですね。雲は積雲ですね。綿雲。春によく出ます。
西村:
ハチが飛んでいます。春なんですよね。
増田:
春にしては気温が高い日ですね。半袖だから。仮にヨーロッパのようなところだったらカラッとしてるはずなので、20℃なら半袖だとひんやり。と考えると、25℃ぐらいあると思うんですね。
西村:
そこまで!
増田:
しゃべりすぎました。たぶん春ですね。
西村:
天気がいいんだけど、風が強くて風が冷たそうだな。春なのかなってところですよね。で、主人公のキキが天気予報を聞いているんですよ。
(ラジオの天気予報)
西北カリキア地方の天気予報をお送りします。大陸から張り出した高気圧によって天気は全体に回復に向かっています。今夕は西北の風。風力は3。晴れ。すばらしい満月の夜になるでしょう。明日は晴れでしょう。明後日は晴れでしょう。
西村:
風力3ぐらい。
林:
西北の風って北風?
増田:
天気予報的に言うと北西の風、北西から吹いてくる風ですね。風力3というのは、風速でいうと3.4m〜5.4mだから、まさにこのシーンで吹いてるような風ですよね。木の葉が絶えず動く。ところどころ海面だと白波が立つ。
西村:
現実とは言い方が違うよねっていうのはありますよね。
増田:
大陸から高気圧が張り出して天気が回復に向かうということは、大陸より東側に位置している場所になるんですよね。おそらく、モデルになったのはヨーロッパのように見えますけど天気予報は日本ぽい感じかなあ。北西の風というのは。
増田:
高気圧は西からやってきます。高気圧からは時計回りに風が吹き出す。やってくる前に吹く風が北西の風ということは日本の天気予報っぽいんです。
増田:
風力3くらいの北西の風が吹いて、晴れ、明日も晴れ、明後日も晴れというのはよくあるパターンなんですけど、ひとつ気になるのは、やっぱり大陸から張り出した高気圧か〜。大陸の東側にあることになるんだよなぁ。
林:
南米大陸という可能性はあります?
増田:
南米になると今度は高気圧から吹き出す風が…逆になりますね。南半球は反時計回り。そうすると前後の予報文としっくりこないんですよね。
林:
ないですね。ニュージャージーとか。
増田:
自分が大陸の上にいる場合、大陸から張り出したって日本語おかしくないですか。大陸よりもちょっと離れた東側にいなければいけないわけですよね。どこだろう。
小林:
このシーンだけで。
西村:
大陸が向き合ってるかもしれない。
西村:
カリキア地方の近くに大陸があって、天気に影響を与えている。少なくともそういうことはわかる。
いずれにせよ、天気予報がいきなり最初から出てくるから『魔女の宅急便』は天気アニメといっていいと思います。
晴れから急に雷雨になることはあるのか
夜、飛んでいると先輩の魔女に出会うシーン:
西村さんの疑問)晴れているのに、雷雨が急に降り出す。なぜ天気予報は外したのだろう。
西村:
で、出発して先輩魔女と空で出会うという。
増田:
星は出てますよね。
西村:
さっきの天気予報を聞いて、晴れた満月の夜に飛ぶシーンなんですね。
増田:
湿度は低いはずなんです。こんなに夜景と星空がキレイだから。
林:
あんなに天気が良かったのに急に雨になりました。
西村:
「急にこんな!あの天気予報は!」って言ってますよ。
林:
これは雲に突っ込んだんですか。
増田:
なかなかこれはレアなケースじゃないですか。あれだけクリアに晴れてるところから。ひとつ考えられるとしたら、キキが飛んでるスピードが相当早い。
西村:
ものすごいスピードで空を飛んでると(笑)
増田:
あんなに湿度が低い状態だと、急に雲が湧いて雷雨って考えづらいから、可能性としては、この街の上空で先輩魔女と別れた後にすごいスピードで飛んでて、晴天のところをあっという間に通り過ぎて雷雲の下にいっちゃった。
西村:
先輩魔女が去ったらものすごいスピードで移動して。飛ばした。
増田:
なので、ここの地域の天気予報は、晴れで当たっていたのかもしれない。
この作品が作られたのが1980年代ですよね。この時代の映画とかドラマって、なんだよ天気予報外れやがってって表現が多い。
その時代に比べて適中率は圧倒的に上がってるので、今後魔女デビューする人は大丈夫。
西村:
精度が上がってるから。
増田:
今のスパコンで。
西村:
アメッシュとかありますからね。
増田:
アメッシュ見て、飛ぶのやめとこうって。レーダーで雲出てる、やめとこうってできますから大丈夫です。
林:
ラジオですからね。
突然の上昇気流は小さい前線の通過だった?
突風にあおられるシーン:
雁の群れに混じって飛んでいると、左手から突風が吹いてきて雁が急上昇する。
西村さんの疑問)これは上昇気流?もしそうなら、上昇気流ってこんなに強い風?
西村:
雁の群れに混じって飛んでいると。左手から突風が吹いて、雁が急上昇するわけですね。これは上昇気流ということになるんですかね。
増田:
上昇気流ではあんなに吹き飛ばされるのはあんまりないかな。
西村:
あの突風ってなんなんだろう。
増田:
突風が起こりやすい気象条件ではない日ですよね。綿雲が浮かんでる典型的な穏やかな日。考えられるとしたら天気図にも書かれないような、ちっちゃいスケールの弱い前線が一瞬通過した。雨雲もほとんど伴わない、そんなのが通過した時にバッてなった。
小林:
晴天乱気流というのは。
増田:
もっと高いところですね。
林:
飛行機事故のドキュメンタリーで登場するダウンバーストは?
増田:
それは積乱雲の下ですね。主に。飛行機が離着陸するときに、積乱雲があって、その下の話です。
西村:
さっきのような天気ではなかなかないわけですね。
増田:
背景を見る限りでは積乱雲があるとは考えづらいので、その可能性は排除できると思います。
西村:
こんなに天気がいいのに、そんなに強い突風が吹くことあるのかなとはちょっと感じたんですけど、雁がぶわーっと上空に巻き上がって行く描写は、めちゃくちゃリアルですごい迫力なんですよね。
増田:
あとは、ちょっと高さがはっきりわからないですけど、高さによって風が違うというのはありますからね。高さによって風が違って、ずっと同じところを飛んでると思ったら、ちょっと上に上がってたり、ちょっと下に下がってたり、自分が違う風のほうに入っちゃったとかもあるかもしれませんね。
西村:
今の話、ラピュタでもそんなシーンありましたね。向こう側と逆の風が吹いてる!っていう。ジブリアニメというか、宮崎駿が飛行機が好きみたいで、天気の描写が妙にリアルなところがありますね。
小林:
飛行機が好きなんですね。『風立ちぬ』とかも。
積乱雲の下を通ったので風邪をひいた
ニシンのパイを配達するシーン
6時ごろ、本当はまだ明るいぐらいだけど、分厚い雨雲(雷雲)が垂れ込めてきて、真っ暗になって雨が降る様子。
林:
老婦人の依頼でニシンのパイを運ぶシーンです。
西村:
これは天気悪いですよ。夏の日の夕立というか、あの感じなんですよね。たぶん夜になると雨が止んじゃうぐらいかもしれないけど。夕方6時。
増田:
日本だったら、春から初夏にかけてでしょうね。
西村:
ほんとはまだちょっと明るいぐらいだけど分厚い雨雲が垂れ込めてきて真っ暗になって雨が降る。
増田:
完全に積乱雲の下にいる状態。
西村:
積乱雲ってカミナリ雲ですよね。そのなか飛ぶの危ないですよね。
増田:
気象情報がまだ発達してない時代ですからね。
西村:
雷に打たれる可能性ありますよね。
増田:
今後の魔女は気象情報をもっと手に入れてから飛ばないとだめ。飛行機とか飛ぶものって詳細な気象情報を入手して飛んでいます。これからの魔女は細かいピンポイントの情報だけじゃなくて、さらに地上だけじゃなく上空の天気図とか、大気の安定度とか、どこで積乱雲ができやすいとか。そのへんまで把握してからじゃないと飛んじゃだめですね。
西村:
天気と飛行って切っても切れないですね。
増田:
これ真っ暗になってるから、そうとう分厚い積乱雲だと思うんですよね。かなり発達した。だからザーッと強く雨が降るし、雷も起こる。
このあとキキは風邪ひきますよね。袖が短い服を着てるぐらいだから日中は暖かいか暑いぐらいだったんでしょうけど、雷雨の後って気温が5~10分で急に下がったりしますからね。たぶん気温が二十数℃だったのが、このあと一気に10℃かそれ以上も下降して濡れちゃったから風邪ひいたんじゃないかな。
西村:
それで体調崩す。
増田:
これは的確だと思います。
林:
前回か前々回、雨が降って上の冷たい空気が降りてくるという話がありましたね。
西村:
積乱雲が来てる時冷たい風が吹くことがあります。
増田:
上空は氷の粒があるような寒さ。それが降りて来ているので初夏と言えどもヒヤッと急にする。
西村:
ヨーロッパでもこういう夕立みたいなものはありえる?
増田:
日本ほどではないですけど、あります。舞台がヨーロッパかどこかわからないですけどね。
飛行船が飛ばされたのはガストフロントか
飛行船をふっとばす突風が吹くシーン:
・「夏に時々こういう風が吹く」というセリフ
・海岸に近い場所のほうが風が強い
・海岸から住宅街まで突風が届くのに少し時間がかかる
林:
最後、飛行船が風で飛ばされてます。
西村:
突風に吹かれて飛行船が操縦不能になってしまったという事件が実際にあったらしくて。その事故をモチーフにしているという。
増田:
操縦不能になっちゃってましたね。
西村:
老婦人が「夏に時々こういう風が吹く」と言っていて、海岸に近い場所のほうが風が強いんですね。飛行船がひっくり返るぐらいだから。海岸から住宅街まで風が来るのにちょっと時間がかかっている。こういう突風ってあるんでしょうか。
増田:
うーん。ガストフロント…? かなり晴れてるから仮説ですが、積乱雲があってそこの下は当然雨とか雷雨になってますけど、そこから落ちてきた冷たい空気が地面にぶつかって横に広がるんですよね。その風かな。
事故現場と、ちょっと離れたところ、両方で吹いてるということは広がりがある。局地的にそこだけ吹いてることはないっぽい。
西村:
うつってはないけど、どっかに積乱雲が発達しているかもしれない。
増田:
というのがひとつの可能性かな。
西村:
夏に時々こういう風が吹くっていうのがヒントになってるのかなと思ったんですけど。
増田:
夏なら前線が通過して風が吹くことはあまりないと思うんですよね。
増田:
最初に飛行船を見た時に、白黒の映像、おばあちゃんたちが見ていた時に、後ろがけっこう砂嵐っぽくなっていたので、つむじ風かなと思ったんですよ。
小林:
運動会の。
増田:
運動会でよくあるやつ。あれって数十m~100mぐらいの高さとかまで成長するのがあったりするんですよ。
西村:
旋風が。
増田:
ただ、つむじ風はかなり狭い範囲ですし、その後の風の広がりって考えるとガストフロントかなと思ったんですよね。
西村:
つむじ風は夏に起こりやすいとかそういうことはあるんですか。季節的に。
増田:
つむじ風は春から初夏。初夏が一番起こりやすいかな。秋も起こるんですけど。
西村:
さっきのガストフロントは?
増田:
夏が比較的多いですね。
西村:
突風は海の近くだからというわけでもないんですね。
増田:
突風は海の近くでも起こりますし、内陸でも起こりますね。ただ、海は摩擦が少ないので風が強まりやすい一方、陸に風が来ると陸って凸凹していて摩擦が大きいので風に急ブレーキがかかる。そのため、沿岸部は上昇気流が起こったりとか、風が複雑になりやすい場所ではありますね。
西村:
摩擦が起きるんだ。
西岸海洋性気候ではないか
西村さんの考察:
・海の近く
・暑くもなく寒くもない、少し涼しいぐらい?
・急激な天候の変化がよくある
・(たぶん)海流や大陸からの空気に影響されやすい
→ 北西カリキア地方は、西岸海洋性気候
西村:
どんな気候なのかなというのを想像するんですけど、海の近くで、暑くもなく少し涼しい。急激な天候の変化はよくある。大陸からの空気に影響されやすい、冷たい空気とか海流で冷やされている。西岸海洋性気候なのかなと。
林:
ヨーロッパはだいたい西岸海洋性気候に当てはまるんですね。
増田:
気象予報士目線で見ると、この話は日本をイメージした天気が目立ちますね。なんとなくですけどね。大陸の東にありそうな。
西村:
想像するとあんな感じかなっていう。海流が流れているんでしょうね。
増田:
暖流でしょうかね。
西村:
結論としては、『魔女の宅急便』は、風がよく見えるアニメだと思います。初夏の爽やかな風を感じながら見ると、また違った印象を受けるんじゃないかなと思いました。
次に魔女の宅急便を見るかたは雲に注目です。今月天気クイズはこちら!ヒントは昨日掲載のその1にあります!
「寒の戻りがあるかもしれないけどラップを巻けば大丈夫! ~月一天気 2022年4月号 その1~」
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