ウクライナ軍兵士はロシア軍の砲声・銃声が近づいてくる方角に自動小銃を構えた。マスコミのように作り込んだ絵柄ではない。=13日、イルピン 撮影:田中龍作=
開戦から18日目、3月13日。
現場に入る直前から悪い予感がした。ロシア軍とウクライナ軍が激突する最前線の街イルピンからキエフ市側に向けてジャーリストたちが続々と引き返して来たからだ。
田中は構わずに進みイルピン川を渡った。思った以上に戦況は悪化していた。
2日前に来た時と比べると、砲声がはるかに大きくなり、近くなっているのだ。最前線がキエフ市側に接近していることが分かる。
「パーン」…弾けるような音は対戦車ミサイルだろうか。応戦する戦車は砲声を轟かせた。機関砲の発射音も交じる。
白兵戦が繰り広げられていることだけは確かなようだ。
取り残された住民の救出に向かうウクライナ軍兵士。=13日、イルピン 撮影:田中龍作=
避難途中の住民は軍に制止された。ウクライナ軍兵士はロシア軍の銃声が近づいてくる方角に自動小銃を構えた。
現場が混乱する中だった。男性が担架に乗せられていた。ピクリとも動かない。息絶えていることは確かだった。
ウクライナ軍の兵士に聞くと「(死亡した男性は)ジャーナリスト。どこの国かはまだ分からない」と答えた。
命を落とした男性はNYタイムズの契約カメラマンだったブレント・ルノー(51歳)だった。それはホテルに帰って知った。
イルピンはキエフ市に隣り合う。大統領府や国会議事堂などがある国家中枢までは約30㎞あるが、キエフの街中までは15~20㎞しかない。
イルピンが落ちたら、ロシア軍は一気に首都中心部に戦車のキャタピラを軋ませながら進撃してくる。
イルピンの攻防は今回の戦争のターニングポイントとして歴史に刻まれるだろう。ブレント・ルノー記者は、命と引き換えに現代史を記録した。合掌。
キエフ市境まで数十メートルの地点に爆撃は及んでいる。=13日、イルピン 撮影:田中龍作=
~終わり~
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