食卓が変わる、食材の進化

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商社マンと酒を飲んだ時、同社が推進する養殖サーモンの話に及びました。カナダは遡上するサーモンで有名だけにここでも養殖するのか、というやや驚きもありました。ところが今、日本におけるサーモンは少なくない比率が陸上育ちです。

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私の記憶ではサーモンを寿司ネタとして食べた記憶がありません。また私の親せきは四国の高松ですが、そちらでは瀬戸内海の豊富な魚種のおかげもあり、サーモンを食べる習慣がなく、両親が暮れになると珍しいこともあり、塩鮭を一匹単位で歳暮として送っていたのをよく覚えています。

ところがいつの間にか、サーモンが回転ずしの寿司ネタとして人気トップに躍り出るようになり、サーモンの消費量は飛躍的に伸びます。50年間でそれはほぼ3倍にまで膨れ上がり、当然ながら国内自給できず、輸入に頼るようになります。一方、昨今の人件費高騰でサーモンもカナダですら高級魚的な存在です。私もたまに購入しますが、買うときは一番割安な「一本買い」をして、家で捌き、冷凍保存しておきます。日本のような三枚おろしにせず、縦にブツ切りで問題ないので極めて簡単です。魚屋で捌いているのを買えば一本モノより5割増しの価格を払わねばならないでしょう。

サーモンに限らず、魚は食文化が進めば必ず消費量が爆発的に増大します。中国や北朝鮮、韓国が他国地域まで侵入して根こそぎとっていくという報道を目にしますが、健康志向やSDGsの観点から牛肉が嫌われれば魚の選択肢はナチュラルです。そこでカナダでは「オーシャンワイズ」という海の生態系を考慮したうえで計画的に捕獲されたものだけにつけられるマークを提示することで魚類との共存を打ち出しています。

とはいえ、中国などが爆買いすればその供給量は絶対に追いつかず、漁場も荒らされ放題になります。更に温暖化で漁場そのものが動き、日本近海でもごく普通に取れたニシンは見ることもなく、サンマも漁獲量が減る一方です。

日本の養殖産業は欧州に比べればスタートは遅かったものの魚が日本の食文化を支えていることもあり、その技術は急速に展開してきました。日経ビジネスには「トマト、マダイ、トラフグ……ゲノム編集で品種改良し市場へ」という記事があります。要は食物の素材のゲノム編集をしてよりおいしく、栄養価を強化し、かつ太らせるなどを人為的に行うことで効率性と採算性を重視するビジネス展開が進んでいると報じています。

正直、この記事の内容に否定的な意見を持つ方もかなりいらっしゃると思います。なぜなら人工的に今までとはかなり違う動植物を作り出し、それを人間が食するという行為が社会正義に反していないか、という議論が起こりうるからです。「可食部増量のマダイ」、要は自然界では存在しえないデブなマダイが養殖場に無数にいて我々がそれを喜んで食べるのに議論はないのか、といえば世界の共通のコンセンサスなどありません。

例えば食用のゲノム編集はアメリカでは植物のみ許され、欧州ではゲノム編集は遺伝子組み換えの一種と捉えられています。よってこれを積極的に口にできるのは日本だけなのかもしれません。ある意味、先端を走っているともいえそうです。

地球上の人口増加に伴う食糧不足という課題には有効でしょう。考えてみれば家畜という考えのもと牛、鶏、豚はとさつを許します。アメリカでは大豆やとうもろこしの遺伝子組み換えを進め、大議論を経ながらも日本で使用される大豆の75%、とうもろこしの80%が遺伝子組み換えとされます。よってこのゲノム編集も議論を経て、世界の食卓に並ぶ日もあるのでしょう。

考えてみれば食物工場は今やかなりのペースで増え、寒冷地で新鮮な野菜を食べられることで多少価格が高くても喜ばれています。

かつては天然ものと養殖ものといった差別化が当たり前だったこともありましたが、そのうち、天然ものを口にすることが珍しいことになる時代が来るのかもしれません。そして熊本であった大掛かりな産地偽造のアサリ問題などが今後、当たり前のように発覚し、人々は産地の定義を改めて見直す時が来ると思います。なぜ、国産なら価値が高いのか、食の安全と言われながら実際には知らないで外国産を口にしているだけだとしたらそもそも産地なんて知らない方がよいと考えてしまいます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年2月28日の記事より転載させていただきました。

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