切り崩される社会保障制度の土台

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日本の社会保険は「保険」なのか?

日本の社会保障制度は、「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保健医療・公衆衛生」から成り立っている。

「社会保険」とは、わたしたちが病気やけが、出産、死亡、老齢、障害、失業など生活を送る上で直面するさまざまなリスク(保険事故)に遭遇した場合に一定の給付を行い、わたしたちの生活を安定させることを目的とした、強制加入の保険制度であり、公的医療保険、公的年金保険、雇用保険、労災保険がある。

「社会福祉」とは、障害者、母子家庭など社会生活を送る上で様々なハンディキャップを負っている人々が、そのハンディキャップを克服して安心して社会生活を営めるよう、公的な支援を行う制度であり、保育・児童福祉、母子・寡婦福祉、高齢者福祉、障碍者福祉がある。

「公的扶助」とは、生活に困窮する人々に対して最低限度の生活を保障し、自立を助けようとする制度であり、生活保護が対応する。

「保健医療・公衆衛生」とは、人々が健康に生活できるよう様々な事項についての予防、衛生のための制度であり、医師その他の医療従事者や病院などが提供する医療サービス、疾病予防、健康づくりなどの保健事業、食品や医薬品の安全性を確保する公衆衛生などがある。

なお、社会保険は原則保険加入者が支払う保険料から財源が賄われるが、その他の制度の財源は税金となっている。もっとも、社会保険にしても税(及び赤字国債)負担が全体の4割にも及ぶ現状を果たして社会「保険」と呼んでもいいのかという疑問がわいてくるのは当然であろう。

時代に応じて社会保障の適用範囲は変化する

社会保障制度は、その時々の経済、社会情勢によって、その理念やカバーする範囲、あり方も変化する。今後はかつてほど高い経済成長率が望めないのであれば、社会保障の役割は大きくなることはあっても小さくなることはないとの立場もあり得るだろう。

したがって、低賃金化、非正規社員化の進行で困窮化する現役世代が過度に不利になり、高齢世代が有利になるような不公平な社会保障制度であっては、将来にわたって皆保険・皆年金を維持していくことは難しく、現役・引退世代間の社会保障給付・負担のバランスについては、社会保障を構成する各制度の理念と目的に照らし合わせて不断の見直しが必要となってくる。

そういう意味では、このまま少子化が続けば日本の経済・社会を維持できなくなるリスクが高くなるので、少子化対策を社会保険の対象とするのも政策的には十分考えられる。

矛盾する社会保険

これまで、日本の社会保障制度は、経済も人口も右肩上がりの高度成長期の真っただ中の1961年に実現された国民皆保険・皆年金を中核とし、公的年金や医療、介護など主に保険料で財源を賄う社会保険と税金で財源を賄う公的扶助(生活保護)を組み合わせることで、少子高齢化時代にあっても、個人が抱えきれないリスクを社会全体で管理し、なんとかサービスを提供し続けている。

一方で、社会保障制度は矛盾の塊ともいえる。「医療保険」は医療サービスが受けられなければ亡くなっていた人を長生きさせる「長生きできないリスク」をカバーし、「年金保険」は「医療保険」が助けた人の「長生きするリスク」をカバーするという、真逆のリスクを補い合っているからだ。つまり、医療保険及び公的年金保険のダブルで国民負担が増す構造だ。特に、少子化、高齢化が進むほどこの二重の負担が現役世代に重くのしかかる。

こうした矛盾するリスクを補うことで、現役世代の負担を重くし、結果的に全世代型社会保障という全世代型負担増に導く悪循環から抜け出すには、超長寿化社会に見合った社会保障制度への転換が喫緊の課題といえる。

社会保障の自己崩壊性

社会保障制度が整備されていけば、特定の個人や集団に頼らなくても、政府が提供する公的扶助や社会保険を後ろ盾として一人で生きていくことができるので、非婚化や少子化、さらには社会との関係性の希薄化が進行する。こうした社会的連帯からの隔絶は、政府に対する過大な要求を生みやすくもなる。

社会保障制度は、一旦導入され充実していくと、少子化を進行させ、政治過程を介して一層肥大していくため、少子化によって少なくなった社会保障の支え手の生活を危うくし、さらに将来の支え手を減少させることで、自らの財政基盤を切り崩し崩壊していく特徴を持つ。実は、日本の社会保障制度は自己崩壊過程の真っただ中にある。

いま、社会保障の充実が出生率を低下させているのかを確かめるために、出生率と一人当たり社会保障給付額を使って推計したところ、確かに、社会保障の充実が出生率の低下をもたらすことが確認できた。

図1 社会保障の自己破壊性
出典:島澤諭『教養としての財政問題』ウェッジ

社会保障の充実が少子化をもたらすということは、裏を返せば、社会保障を削減すれば子供が増えるということでもある。

いま、出生率と社会保障の充実度の関係式を使って機械的に計算するならば、仮にいま一人当たり社会保障給付額50%削減すれば、出生率を6.3‰から9‰程度にまで回復させ、出生数は40.8万人増え、117万人程度と1990年代後半の水準に近くなる。

ただし、出生率が回復するからといって単に総額にキャップをはめて社会保障給付を機械的に削減するだけならば、経済的・身体的「弱者」が路頭に迷うことになにもなってしまうので、社会保障制度の大きさと経済・社会の最適解を見つけ、その最適規模に向けて社会保障をスリム化していく努力が必要であろう。

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