国税庁は毎年、個人事業者を対象に行った所得税・消費税の税務調査の結果を公表している。税務調査とは、国税局や税務署が、納税者の税務申告が正しいかどうかをチェックするために行う調査だ。税務署が行う任意調査と、国税局査察部が行う強制調査がある。「令和3事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」の「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位 10 業種」では、1件当たりの申告漏れ所得金額で「経営コンサルタント」が初めて1位にランクインした(令和3事務年度は2021年7月~22年6月)。
1位:経営コンサルタント
2位:システムエンジニア
3位:ブリーダー
4位:商工業デザイナー
5位:不動産代理仲介
6位:外構工事
7位:型枠工事
8位:機械部品受託加工
9位:一般貨物自動車運送
10位:司法書士・行政書士
ここ数年、上位の顔ぶれに大きな変動があるのだが、その理由について元国税調査官の根本和彦氏に聞いた。
「新型コロナの影響が大きい。前年まで7位だった経営コンサルタントが1位になっているが、それまで上位だった風俗店や飲食店関係がコロナで儲からなくなってしまったので、他の業種が浮上してきた」
比較のために、前年度と前々年度を記載する。
【令和2事務年度】
1位 プログラマー
2位 畜産農業(肉用牛)
3位 内科医
4位 キャバクラ
5位 太陽光発電
【令和元事務年度】
1位 風俗業
2位 経営コンサルタント
3位 キャバクラ
4位 太陽光発電
5位 システムエンジニア
なお、これより前の事務年度では、1位と2位はすべて風俗業かキャバクラ(キャバレー)になっている。1回目の緊急事態宣言が発出されたのは2020(令和2)年4月7日であり、この国税庁の調査では「令和2事務年度」も大きな影響を受けていることになる。
「参考までにいうと、法人税の申告漏れ調査でも例年、水商売・飲食店(バーやクラブ、外国料理店)が上位だが、やはりコロナの影響で順位がちょっと乱れている。法人税のほうは直近の結果だと運送業がトップ。前年は全然順位に入っていなかった。あとは医療関係、ワクチンとかコロナの関係だが、それが上がってきたりしており、これまでとは違う順位になっている」(根本氏)
コロナ禍でDX推進が加速、IT系業種が上位に
今回1位の経営コンサルタントは「令和元事務年度」でも2位に入っているが、根本氏はこう話す。
「1件あたりで2000万円を超えているので、売上だとおそらく5000~6000万円とか、あるいは1億円を超えるようなコンサルタントもいるだろう。大口の契約とか成果報酬型で契約するコンサルタントとか、そういう人たちが今回たまたま浮き上がってきた。例えば、M&Aのコンサルだと成果報酬が高額だったり、IT関係でアプリの開発や暗号資産関係なども成果報酬が大きい」
今回2位は「システムエンジニア」で、前年度1位は「プログラマー」だ。コロナ禍がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速させた影響である。
「この業種目というのは、区分けが結構いいかげん。もともとシステムエンジニアとプログラマーの線引きは曖昧だし、システムエンジニアでもコンサル的なことをやっていれば経営コンサルタントにカウントされているかもしれない。コロナ禍でDX推進により、IT系の仕事は需要が急増し、そういう切迫した需給関係で報酬もかなり上がったのではないか。4位の商工業デザイナーにしても、推測でしかないが、DX化に関わる仕事やウェブサイトのデザインなども含まれているのだろう。それから、3位のブリーダーも、コロナ禍でペットを飼う人が増えたといわれているので、その影響かもしれない。ブリーダーは前年も8位に入っている」(根本氏)
業種別公表は申告漏れ・脱税を防ぐため
国税庁が業種別の結果を毎年公表している狙いについて、根本氏がこう語る。
「簡単にいうと牽制効果。あなた方の業種はしっかり見ているので脱税しないようにと牽制するのが一番の理由だ。もう一つは、国税庁も当然国家公務員なので税金で運営されており、ちゃんと仕事をしていますよというPRにもなる」
国税局や税務署のマンパワーには限りがあるので、税務調査は申告漏れの可能性が高い業種をターゲットに行われている。今回の報告書の「トピックス(主な取組)」にもあるが、国税庁はインターネット取引を行っている個人に対して、積極的に調査を実施している。シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に関わる取引を行っている個人に対する調査結果を見ると、調査件数は839件。新しいビジネスモデルに関する調査を強化している様子がうかがえる。
(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=根本和彦/元国税調査官)