【買い物山脈】23年前のバイノーラル録音対応スピーカーを魔改造して、流行りのASMR音源を愉しむ

PC Watch

「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです

 エイプリルなのでASMRである。

 ASMR(エーエスエムアール)というワードを最近よく耳にするようになった読者も多いことだろう。

 ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response」の略で、これを翻訳すると「自律感覚経絡反応」となる。なんとなくニュアンスは分かるがまだ難しい。

 Wikipediaによると、「人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よい、脳がゾワゾワするといった反応・感覚」とのことだ。わりと抽象的な感じだが現状これ以上の表現も思いつかないのも事実だろう。

 さて、このなんとも表現しがたいASMRだが、録音方法として「バイノーラル録音」と呼ばれる手法が多く用いられる。

 バイノーラル録音は一例としてマネキンのような頭パーツの耳部分に特殊なマイクを埋め込む(ダミー・ヘッド・マイクと呼ばれる)ことで、音が耳まで届く間に作用する空間の情報も含めることができる。結果、まるでその場にいるような音が録音できるものだ。

 とりあえず最近の音声作品の流行でもあるNEUMANN KU100の商品画像をみればイメージしやすいだろう。

プレゼントをおねだりするならGeForce RTX 4090よりもKU100の方がおすすめだ

 耳の部分で録音するということは、再生する場所もマイクと同じ位置である必要がある。そのためバイノーラル録音の再生についてはスピーカーではなくヘッドフォンやイヤフォンが一般的だ。

 ということは例外もあるのでは? と思った読者は鋭い。

 そろそろ本題に入ろう。今回はバイノーラル録音された音源に対応したスピーカーを紹介したい。

アイ・オー・データ機器「P2DiPOLE」

バイノーラル音源の再生に対応するP2DiPOLE

 P2DiPOLEは、PC周辺機器メーカーのアイ・オー・データ機器から2000年に発売されたスピーカーだ。

 執筆時点で23年前に発売された製品となる。

 2000年のこの時期といえば、PlayStation 2(以下PS2)の登場のタイミングで、ちょうどDVDビデオが普及し出す頃である。このP2DiPOLEとPS2は同じ2000年3月4日に発売したことから、組み合わせて使うことを狙った製品だったことは間違いない。本体のカラーリングにもPS2っぽさが反映されている。

 一方でPS2以外のユーザーからはデザインで敬遠するユーザーも多かった。

 技術はダイマジック、製造はCreative Technology、販売・マーケティングはアイ・オー・データ機器という顔ぶれだ。通常このような製品はわざわざ製造元を明かすことはないのだが、本製品がかなり力を入れたプロジェクトだったことが想像できる。

P2DiPOLEの外装箱

21世紀の音という表現が前世紀の製品ということを匂わせる

筆者は当時近所のゲームショップにて5,980円で購入していたようだ。

3Dサラウンド技術DiMAGIC VX

 本製品の特徴は左右のスピーカーの間隔を小さくしたStereo DiPOLE技術をベースにダイマジックが開発した3Dサラウンド技術「DiMAGIC VX(DiMAGIC Virtualizer Xの略)」が使われている。

 ステレオ2チャンネルで3Dサラウンドというのは今ではよく見かける技術だが、DiMAGIC VX は「バーチャルドルビーデジタル」の製品としては本製品が世界初の認定品となった。

 このDiMAGIC VXは今後別のスピーカーや携帯電話(フィーチャーフォン)などに採用されていくのだが、執筆時点でダイマジックという会社は残念ながら表舞台から姿を消してしまっている。

バイノーラルソースの再生ができる「ディメンション」

 P2DiPOLEにはディメンションという音響設定が存在している。これによりバイノーラル録音された音源もスピーカーで聴けるようになっているのだ。

 しかし、本製品の開発背景を考えると、主なユーザーはPS2をDVDプレーヤーとして使うユーザーがほとんど。結局、DiMAGIC VX技術を使った機器ではこの初号機とも言えるP2DiPOLEのみがバイノーラルソースの再生に対応することとなった。

 このディメンションモードに入るには

  1. 電源をオン(かなり大きい音でオープニングサウンドが流れる)
  2. 入力選択ボタン1回(入力がデジタルの場合。アナログの場合は操作不要)
  3. 機能選択ボタン4回

 を背面の操作パネルから毎回操作する必要がある。

 1度選択したら設定は記憶されるべきだと筆者は思うが、こちらもやはりユーザーには不評だったようだ。まぁ筆者の場合は長年の鍛錬により操作が苦になることはないのだが……。

 P2DiPOLEがバイノーラルソースに対応している記述はこちらから確認できる。

実際にASMR音源を聴いてみる

 聴く前にP2DiPOLEの再生環境を紹介しよう。

 P2DiPOLEは光デジタル(S/PDIF)とアナログの2系統の入力端子を持っている。

 ただ、このアナログについては待機時の「サー」というホワイトノイズが気になるため筆者は光デジタル接続を主に使っている。

 筆者のPC環境では光デジタルの出力を持った製品がないため、EDIROL(ローランド)製のUA-5というUSBオーディオインターフェイスを経由している(UA-5自体も2001年発売のためこちらも骨董品に近い)。

テスト環境

 まずはYouTubeで位置関係が把握しやすい動画から確認していこう。

[embedded content]

 こちらの動画だが、3Dio Free Space(いわゆる白耳)の上に傘を設置して指でタップしたり、画筆でなぞったりとさまざまな音が楽しめる内容となっている。

 本来ではヘッドフォンやイヤフォンで聴くべきものなのだが、P2DiPOLEで再生すると目の前のスピーカー離れたところから音が鳴っているように聴こえた。

 ただ、後ろからの音声については、後ろというより少し下から聴こえるところがあり、360度全方位からの音に対応しているとは言えなさそうだ。

 続いて筆者手持ちのASMR音源でいくつか試してみる。

【ブルーアーカイブ】ユウカASMR~頑張るあなたのすぐそばに~

 ブルーアーカイブというスマホゲームのTVCM効果もあり、多くの健全な人をASMR沼に突き落としていると思われる音源がこのユウカASMRだ。2022年7月17日から発売されている作品だが、DLsiteでの販売数4万7千(執筆時点)という大ヒット作となっている。

 先日のブルーアーカイブ2周年の時に星3排出率2倍にもかかわらずピックアップの聖園ミカを天井した筆者だが、当然ASMR音声についても発売日に購入している。

 内容としては作業通話や作業中の環境音、近距離での会話がメインの内容となっている。

 トラック02の「作業通話、しますか?」では3:07あたりで意図的に立体的な音に切り替わるシーンがあるため、効果を感じやすい。また、全体を通してキーボードのタイプ音のような環境音や吐息などが再現されるためまるで1m先にユウカが居るような感覚になる。

 ただ、ASMR感を強くするために音量を上げてしまうためか肝心な声の部分に関しては音が割れ気味になってしまう。完璧とは言えない結果だ。

 ということで1度テストを中断し、P2DiPOLE側に手を加えようと思う。

 なお、ここからは改造となるためメーカーの保証外となる。とはいえ、23年前の製品をどう保証するかという話だが……。

P2DiPOLEのスピーカーユニットを交換する

 さて、筆者は比較的簡単に改造が行なえそうなスピーカーユニットを探しに秋葉原へやってきた。

 P2DiPOLEは仕様を見る限り10Wクラスのフルレンジスピーカーユニットを搭載していることまでは把握できている。あとはサイズだろう。多少サイズが合わなくても似たような外径のものを選べばなんとか固定できる想定だ。

 聞くところによると、今回筆者が今回取り上げているような市販品については、スピーカーにあわせて回路が設計されているのでうまく鳴るかは分からないとのことだ。

 これは筆者もその通りだと思う。

 そして、スピーカーの形状やネジ穴についてはそれぞれ異なるため市販品に合うものはないとのことだ。

 こちらもその通りだと思う……。

すまさ「あっ!」

店「なんか合いました……ね」

 本当に偶然なのだろうが、SPK Audioの5cmフルレンジ「FR02C」とP2DiPOLEは外径とネジ穴に互換性があることが分かった(兄弟モデルのFR02Aも対応だろう)。

FR02Cの外装箱

P2DiPOLE のスピーカーユニットとFR02C

 おそらく全世界で筆者くらいしか喜ばないムダ知識なのは間違いない。

 ここまでピッタリとはまるスピーカーユニットが目の前にあるのに手ぶらで帰るのはもったいないと思い、買ってから考えることにした。

 万が一うまくいかなかった場合でも後日ハウジングも買って自作スピーカーを作れば良いだけだ。言い換えれば負けたらスピーカー沼へ一直線。負けられない戦いがここにあった。

 なお、P2DiPOLEの購入金額よりもスピーカーユニット2つの方が高いことは見なかったことにする。

P2DiPOLEのスピーカーはハンダ付けされているので取り外し、FR02Cに取り替え再びハンダ付け。極性(プラス・マイナス)に気をつける

 最後にネジで締めれば完成だ。FR02Cには前面グリルがあるため、P2DiPOLEに取り付けられていたスピーカーグリルは不要になった。PS2っぽさというかおもちゃ感はかなり抜けたように見える。

左がFR02Cに取り替えたP2DiPOLE、右がノーマルのP2DiPOLE。なんで2台あるのかは聞かないでほしい

続、実際にASMR音源を聴いてみる

 P2DiPOLEのスピーカーユニットを交換したのでもう1度ユウカASMRを聴いてみる。

 交換前に問題があった音の割れについては解消され、声がクッキリと聞こえるようになった。全体的に細かい音も聞こえるようになったため、より「そこにいる感」が増したように思える。改造の効果はあったと断言できる。

 内容は最高だった。

【ブルーアーカイブ】ノノミASMR~ほのかな体温を感じる距離~

 続いて同じくブルーアーカイブのノノミASMRだ。こちらは2022年1月22日に発売し2万2千(執筆時点)ダウンロードされているこちらも大ヒット作だ。

 先ほどのユウカASMRよりも全体的に距離感が近く、ささやき声を使ったトラックが多い。

 ただ、距離感という面で言えばスピーカーの限界が見えてくる結果となった。

 例えばトラック05の『膝枕でお耳掃除はいかがですか』では耳の産毛を剃られる内容があるのだが、筆者の耳から斜め前30cm程度離れたところで行なわれているように聴こえたからだ。ヘッドフォンやイヤフォンであれば真横からほぼゼロ距離で聴こえるところなので違和感がある。ここで頭の位置を少し動かし横から聞こえるようにはできるが、距離を詰めることは厳しかった。

 また、そもそも膝枕なのに完全に椅子で座った状態で聴くことになるため、リスニングの姿勢としては制約があると言って良いだろう。

 内容は最高だった。

【ASMR】VTuberに転声してみた ~上田麗奈→リリア・フランジオ~【超ウィスパー・耳かき・耳吹き】

 こちらは声優・小岩井ことりさんがプロデュースするASMRレーベル「kotoneiro」の作品だ。人気声優の起用はもちろん、プライベートスタジオでの収録やNEUMANN KU100を使用するなどかなり力が入っている。

 こちらの作品は、環境音系のトラックから耳かき、シャンプーや耳かきなど耳元に近いトラックまで一通り網羅しておりテストには最適だ。キングベヒーモスになりきって聴いてほしい。

 さて、先ほどあまり芳しくない結果となった耳元に近い場所からの声を多様するトラックについては

  • 02【ASMR】さ、リリアの膝枕へどうぞ?【耳かき・超ウィスパー】
  • 03【ASMR】リリアがキレイキレイしてあげます【全身洗い・シャンプー】
  • 06【ASMR】色んな耳かき、お試しタイムです♪【綿棒・梵天・耳吹き・超ウィスパー】

が当てはまる。実際にこちらも試してみたが、やはり耳かきなどが斜め前30cm程度離れたところから聴こえるため今1つなのは変わらない。シャンプーのトラックでは後ろからの声もあるのだが、冒頭で試したとおり後ろからの声という印象は感じられない。こういうものと割り切れば聴けるのだがそれは人それぞれだろう。

また、

  • 04【ASMR】あの…! 図書館デート、しませんか…? 図書館・読書】
  • 05【ASMR】私、雨の音って好きなんです。【雨音・シチュエーションボイス】

については環境音がメインで、声についても近くに居る程度の距離感だ。

 こういった内容はやはりP2DiPOLEが得意な領域のようで悪くない。

 内容は最高だった。

登場が20年早かった? 個性的なスピーカー

 P2DiPOLEについては耳元でのささやき声など不得意な場面こそあるが、現代のバイノーラルソースもそれなりに再生できることは確認できた。もしこの23年の間に着々と進化していた世界線があったらどうなっていたのだろうと思わずにはいられない。

 DiMAGIC VXを使った製品は今後出てくる見通しもないため、ロストテクノロジーのような状態となっているわけだが、その一方で最近はスピーカーでも空間オーディオを再生できる製品が登場してきている。そもそもASMRをスピーカーで聴いて恥ずかしくないのかという事実は見なかったことにして、今後のASMR特化を待ちたいところだ。

 これまで有象無象の製品が登場しては消えて今があるのだが、単に時代が追いついてこなくて消えていった製品も多々あると思う。読者の皆さんも、1度そういった製品を振り返ってみてはどうだろうか。

Source

コメント

タイトルとURLをコピーしました