中国国家自然科学基金委員会(NSFC)が、長期的に軌道上にとどまり宇宙探査を支援する「キロメートルクラスの超大型宇宙船」の建造について調査する研究プロジェクトを発表しました。全幅110メートルの国際宇宙ステーション(ISS)でさえ莫大な費用と長期にわたる建造期間を要したことから、1キロメートルを超える巨大構造物が実現するかどうかには疑問を呈する声がある一方、十分可能だとする意見もあります。
国家自然科学基金委员会关于发布“十四五”第一批重大项目指南及申请注意事项的通告
http://www.nsfc.gov.cn/publish/portal0/tab442/info81561.htm
China wants to build a mega spaceship that’s nearly a mile long | Live Science
https://www.livescience.com/mega-spaceship-china-proposal.html
China eyes ‘ultra-large spacecraft’ spanning miles in US$2.3m crewed mission push | South China Morning Post
https://www.scmp.com/news/china/science/article/3146224/china-eyes-ultra-large-spacecraft-spanning-miles-us23m-crewed
NSFCは2021年8月5日に、9つの科学部門にまたがる78の主要プロジェクトの第1弾を発表しました。そのうち、数理・物理科学部門が策定した10の研究プロジェクトの1つが、「超大型宇宙構造物」の実現可能性について研究するプロジェクトです。このプロジェクトは特に、打ち上げ回数や建造コストを削減するため、宇宙船の重量を最小限に抑えることを目標としているとのこと。
NSFCはこのプロジェクトの目的となる宇宙船を、「キロメートルサイズの超大型宇宙船は、将来の宇宙資源の利用や宇宙の神秘の解明、軌道上での長期滞在のための戦略的な宇宙船です」と位置づけています。なお、予算は5年で1500万元(約2億5000万円)です。
官民のさまざまな宇宙プロジェクトに携わってきた経歴を持つイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のマイケル・レンベック教授は、科学系ニュースサイト・Livescienceに対し、キロメートル級の超巨大な宇宙船は現代の技術では不可能だと述べています。レンベック教授によると、ISSに宇宙飛行士を運ぶのに必要なカプセルの開発でさえ、30億ドル(約3300億円)の予算がかかったとのこと。比較すると、今回のプロジェクトの予算は宇宙計画としては少額であることから、このプロジェクトは「ごく基本的な枠組みを策定し、必要なる技術のハードルの高さを確認するための小規模な研究」に過ぎないと、レンベック教授は指摘します。
その上でレンベック教授は、「数キロメートルサイズの巨大宇宙船についての計画は、SFテレビドラマ『スタートレック』に登場するエンタープライズ号について語るようなものです。空想するのは楽しいことですが、コストを考えると現実的ではありません」と結論づけました。
一方、コーネル大学の航空宇宙工学の研究者で、NASAで主任技術者を務めた経験もあるメイソン・ペック教授は、十分実現可能との立場です。ペック教授によると、最大の課題は宇宙に材料を打ち上げるための莫大なコストだとのこと。NASAの発表では、全幅約110メートルのISSでさえ建造には1000億ドル(約11兆円)のコストがかかっていることが分かっています。しかし、地上で作った部品を軌道上で組み立てる従来のやり方ではなく、地上から打ち上げた原料を3Dプリント技術を使って宇宙で部品に加工すれば、打ち上げコストを大きく削減することができるそうです。
また別の案は、月から材料を調達する方法です。月は地球より格段に重力が小さいため、月面から材料を宇宙に打ち上げるのは非常に簡単だと、ペック教授は述べています。ただし、この案の実現には月面に打ち上げインフラを構築する必要があるため、すぐには実現しないとのこと。
コストや予算の課題を乗り越えれば実現も視野に入ることから、ペック教授は巨大宇宙船について、「問題は、乗り越えられない障害にぶつかることではなく、スケールの問題だと言えます」と述べました。
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