死んだ鳥や動物の皮を剥いで、中に詰め物をしたものを剥製という。博物館で標本として展示されていたり、はたまた旅館のロビーに飾られていたりするアレである。
そんな剥製技術の本場といえば、やはり欧米であろう。そして、そのヨーロッパでだいたい2年に一度開催される剥製の祭典ともいえるイベントが、European Taxidermy Championships(ヨーロッパ剥製大会、略してETC) なのだ。
はたして、ワタクシごときが参加してよいものだろうか?
人に剥製の話をすると
「あー、とっくりを持ったタヌキとかのあれね。かわいいよね」
という答えが返ってくることがある。
たしかに手にとっくりを持ち頭に番傘をかぶったタヌキは立派な剥製だが、この記事で取り上げたいのはそういう民芸調のやつらではない。
そこで、話を始める前に、参考までに今回の剥製コンテストで出品された作品をいくつか見ていただきたい。
話は数か月前にさかのぼる。
オーストリアのザルツブルクで来年2月にETCが開催されるらしい。
私がこのことをTwitterで知ったのは、2022年の11月末頃のことだった。
ETCとはEuropean Taxidermy Championshipsを略したもので、アメリカで開催されるWTC(World Taxidermy Championships)と双璧をなす権威ある剥製大会である。私は自分でも剥製を作るので、どちらの大会も以前から存在は知っていたものの、なかなか自分が参加しようとは思わなかった。
なんといっても剥製の本場、欧米の世界大会だ。上の写真で見ていただいた通り、出品される作品も当然ハイクオリティのものばかり。そんなところにのこのこ出て行ったところで、自分も剥製もすみの方で小さくなっているほかないと思っていたのである。
でも、やはり興味はあったので公式サイトを覗いてみた。
すると以下の2点が判明した。
・とりあえず参加費さえ払えば誰でも出品することができる。なんなら、作品の出品はせずに観覧とセミナー受講だけの参加も歓迎。
・ビギナー部門がある。
なんと、意外にも参加のハードルは低いではないか。
それでも、やはりすぐに参加しようとはならなかった。なによりお金がかかる。
作品一点ごとに審査料がかかるし、せっかくだから連日開講されるセミナーだって聴講したい。そうすると参加費だけで最低でも300ユーロほど見ておかねばなるまい。さらに戦争や円安の影響で航空券や滞在費も軒並み高騰していた。
そんなこんなで迷っているうちに、割増料金なしでエントリーできる12月27日をすぎて正月を迎えてしまった。
「まあ、次の機会でいいかな」
そう思いながら未練がましくホームページを開いてみて驚いた。
「クリスマス休暇の期間中でエントリーし忘れた人が多かったから」と書かれていたが、うがった見方をするならこれは建前であろう。
後から知ったことだが、今年は例年に比べて参加者が少なかったようだ。例年まとまった人数で参加していたロシアチームが制裁の影響で来られなかったことや、中国チームがコロナウイルス対策を目的とした中国政府の方針で同じく参加できなかったことが理由である。
大会の運営としてはできるだけ参加者を集めたかったにちがいない。
ともあれ、この時点ではそんなこととは露とも知らない私はまんまとお年玉気分でこの申し出に飛びついた。