“県境のある”橋の長さを調べました
県境を越える橋で、日本最長と最短のものはいったいどれでしょうか? 調べてみました。
県境のある日本最長の橋
県境マニアにとって、橋やトンネルには、県境があったりなかったりして、たいへん気になる存在です。
日本にある道路橋のうち、途中に県境がある橋はどれぐらいあるでしょうか? たぶん数え切れないほどあると思いますが、そのなかでも長いものからトップ10をまとめてみました。
いちおう、日本で一番長い道路橋は、アクアラインのアクアブリッジということになっています。が、千葉神奈川の県境は「川崎市側の浮島ICを起点として約7.2kmの位置」の、東京湾アクアトンネル中にあるようです。
東京湾アクアトンネル内の県境に関しては、はまれぽのこちらの記事「東京湾に神奈川と千葉の県境ってあるの?」が詳しく取材していますが、この東京湾に限らず、基本的に海上には県境が設定されてないケースがほとんどです。
瀬戸内海など、一部例外はありますが、海上には県境は設定されていません。したがって、海上や海底にある橋やトンネルの県境は、あくまで施設の管轄区分をわけるラインを実質的な県境とみなしている……という例が多いようです。
一方、川や湖沼といったいわゆる内水面には県境が決められている場合がほとんどです。一部、十和田湖や中海のように、県境が決まってなかったところもありますが、今はどちらも水面上に県境が決められました。
話が脱線しました。
というわけなので、アクアラインの橋は日本で一番長い橋ではありますが、橋上に県境はないものとして、除外します。
となると、日本で一番長い県境のある橋は、大鳴門橋。ということになります。
大鳴門橋の上に、県境を示すような看板やプレートなどは無いようですが、管理用の通路に県境を示すラインが引いてあり、特別に橋を徒歩で見学できるイベント時だけに、それを見ることができるという、善光寺の御開帳スタイルになっております。
将来的に、本州から明石海峡と淡路島を経由して四国に至る新幹線を通すつもりで、鉄道用のスペースも設けて建設された大鳴門橋ですが、明石海峡大橋が道路専用橋となってしまったため、四国に新幹線を通すことができなくなり、鉄道用スペースは無用の長物となってしまいました。
ただし、その鉄道用スペースは、自転車道として整備する計画が現在進んでいます。
ちなみに、大鳴門橋が県境の橋となったのは、ひとえに淡路島が兵庫県であるのが原因ですが、実は淡路島は江戸時代まで徳島藩、蜂須賀家の領地でした。ではなぜ、淡路島が兵庫県となっているのか。それは明治時代に起こった庚午事変(稲田騒動)という徳島藩の内紛が原因です。
この内紛が発生しなければ、兵庫徳島の県境は、明石海峡大橋だったかもしれません。
閑話休題。
ところで、歩道があり、県境の表記がある場所の近くまで歩いて近づける橋で最長のものはどれでしょうか?
ランキング2位の銚子大橋は、歩道はあるようですが、県境付近に、境界を示すラインのようなものは無いようです。
その次、広島愛媛県境の多々羅大橋。これはしまなみ海道の橋のひとつですが、基本的に高速道路の橋となっています。
しかし、多々羅大橋は歩行者、自転車、ミニバイクなどが通行可能な通路が併設されており、県境付近に県境を示す立派な表示がされています。
多々羅大橋からは、前回の記事でもお伝えした、日本最短県境がある瓢箪島を望むこともできます。
広島と愛媛は、多々羅大橋、岡村大橋、瓢箪島の3ヶ所でつながっており、瓢箪島には陸上の県境が約50m〜80m程度あり、それが陸上の最短県境となっているわけです。(※境界線の長さの定義は前回記事を御覧ください。なお、鳶の小島(鳶ノ小島)にも広島愛媛の県境があるとする資料もありますが、鳶の小島の県境は水面上にあるものとして陸上の県境にカウントしていません)
ところで、岡村大橋は、日本唯一の農道の海上橋です。県境のある農道の海上橋としては日本唯一ということになるのですが、条件が狭すぎてなかなか「へー」という感じにはならないかもしれません。
ですが、岡村大橋に関してはひとつ、おもしろいはなしがあります。
岡村大橋によって本土の広島県とつながっている岡村島ですが、島全体は愛媛県今治市となっています。
つまり、愛媛県今治市の岡村島から同じ市内にある今治市役所まで船を使わず自動車で行く場合、橋を使っていったん広島県まで出て、呉、竹原、三原、尾道を経てしまなみ海道を南下し、今治に向かうしか方法がありません。海上橋だけでも17本の橋を渡る必要があります。(川の橋も含めるとそれ以上)
岡村島と今治市の間には、自動車も搬送できるフェリー航路があるので、日常生活でそんなめんどくさい遠回りするひとは実際いないとは思いますが、上記の船を使わないルートだと、片道4時間以上はかかるようです。
県境のある日本最短の橋は?
さて一方、県境のある短い橋ということになると、これがかなり難しい。そもそも「短い橋」を定義するのが困難です。
そこらへんの側溝に渡してある鉄板も、橋といえば橋になるわけですが、自治体は長さが2メートル以上の橋しか管理しておらず、それ以下のものは橋ではなく構造物という扱いで、データが無いそうです。※『読売新聞』日本一短い橋?兵庫県姫路市の「境橋」、広島県福山市の「ささやき橋」
長さ2メートル以下の側溝に渡してあるような鉄板も含めて、橋とした場合、そのなかで県境のある橋は、それこそ日本全国に無数にあります。
田んぼの水路が県境となっているような場所には、トラクターを渡すためのコンクリート製の「橋」みたいなものがあったりしますから「これが県境のある橋の日本最短だ」というふうに断定するのはちょっと難しいでしょう。
県境のある日本最短の橋を決めるのはあきらめるしかないか、とおもうところなんですが……ここで「長さ2メートル以上の橋のうち、県境があり、かつ県境を示す看板やラインがある」と範囲を限定するとどうでしょうか。
上記の条件だったら、かなり有力な「県境のある日本最短の橋」の候補をぼくは知っています。それは、神奈川静岡県境にあるニューウェルシティ湯河原の橋です。
この橋は、湯河原温泉を二つにわける県境の川、千歳川にかかる橋ですが、ホテルの入り口につながっている私道となっています。その長さは約20m強。
私道なので、ホテルに宿泊しない場合は外側から眺めるしかありませんが、かなりしっかりと県境の表記がしてあるので、その様子は外からも伺えます。
湯河原温泉は、谷の底になっている千歳川が県境となっており、静岡県側にも温泉施設がけっこうあります。これは、戦国時代からの経緯がありこのようになっているのですが、本稿の趣旨ではないので省きます。
短い橋情報募集します
というわけで、暫定的に「県境表記のある日本最短の橋」は、ニューウェルシティ湯河原の私道の橋。ということにしておきます。
「公道で県境表記のある日本最短の橋」は、ちょっと調査する余力がありませんでしたので、どなたか、その存在をご存知の道路マニアの方がいらっしゃれば、優しくご教示いただけるとさいわいです。
「全国Q地図」というサイトには日本全国の橋が網羅されておりますので、これをひとつづつ丹念に調べれば「公道で県境表記のある最短の橋」が見つかると思います。
問題提議だけして、解決は人に投げっぱなしという、フェルマーの最終定理みたいな話になってますが、よろしくおねがいします。
お願いついでにもう一つ、2月20日に日本の県境のおもしろいところを100個集めた本『地図でめぐる日本の県境100』(天夢人)が出版されます!
上記では詳細を省いた淡路島や湯河原の県境の話も掲載されておりますので、ぜひお手にとってお読みいただけると助かります! 重版されてほしい! 頼む!