シンガポール政府は、「ChatGPT」のような人工知能(AI)ツールの学校での利用を後押するが、同時に、学生がAIに依存しすぎることなく、そのような技術の限界を理解するよう促したいとの意向を示した。
Chan Chun Sing教育相は、AIツールが登場して普及が進むなか、学校や高等教育機関(IHL)は、これらのツールを効果的に活用することで、学習効果の向上につなげなくてはならないと述べた。教育省はすでに、そのための「指針とリソース」を教育関係者に提供しているという。
Chan氏は現地時間2月6日、国会で国会議員の質問に答えて次のように語った。「あらゆるテクノロジーと同様に、ChatGPTや類似の生成AIツールは、ユーザーに機会と課題の両方をもたらす。教育現場での利用を検討するため、わが国の教育者の間では専門的な討論会が開かれている。それと同時に、教育者は今後も引き続き、学生が基本的概念を理解するように教育を行い、テクノロジーツールに過剰に依存しないよう指導していくことになる」
Chan氏は、ChatGPTを計算機に例え、計算機は数学の学習に役立つが、それでも学生がまず基本の数学演算を習得する必要性がなくなるわけではないと述べた。
「ChatGPTが学習に役立つルールとなりうるのは、学生が基本的概念と思考力をすでに身につけている場合に限られる。しかしわれわれはまた、より不確実な世界にあって、計算機の(生み出す)ような決定論的な結果を超えるさまざまな結果が生じうる新常態の中で、ツールを受け入れ、活用していくことを学ぶよう学生を指導しなければならない」(Chan氏)
議員らは、ChatGPTが悪用されたりカンニングに使われたりすることへの懸念を示し、盗用などのリスクを減らすための予防策の有無について尋ねた。
Chan氏はこの質問に対し、誠実であることの必要性と盗用がもたらす結果を学生に認識させるようにしていると回答した。また、学校もテクノロジーの悪用を検知するために、さまざまな手続きを採用していると指摘した。例えば、学生の習熟度を評価したり、AIによって生成された可能性がある特徴のない答案を見つけ出したりするといった方法だ。
IHLでは、学生の能力を評価するにあたって、プレゼンテーションや試験などさまざまな手段を利用することで、AIによる答案の生成を難しくしてきた。
また、AIツールを利用して、学生の答案や提出物に盗用があるかどうかのチェックに役立ててきた。
さらにChan氏は、テクノロジーが時代とともに進化する中で、学校がChatGPTのようなAIツールの仕組みを学生に理解させる必要があるとした。例えば、AIアプリケーションは、分析したデータの種類によって、不正確なレポートやバイアスのかかったレポートを生成する可能性がある。したがって、学生はChatGPTによって生成された結果を吟味できるだけの判断力を持つ必要があるという。
シンガポール政府は、AIの採用を継続してそのメリットを最大限に享受するには、AIの「責任ある」使用によって信頼を築くことが重要になるとたびたび強調してきた。2020年には、「AI Ethics & Governance Body of Knowledge」(AIの倫理と管理に関する知識体系)と呼ばれるリファレンスガイドを公開し、地元の企業やIT専門家がAIテクノロジーの開発や配備に関する倫理的側面について学べるようにしている。このガイドは、2019年に公開されたシンガポールの「Model AI Governance Framework」(モデルAI管理フレームワーク)を基に制作されたものだ。
また、2022年5月には「A.I. Verify」と呼ばれるAIガバナンスのテスト用フレームワークとツールキットを公開し、組織が適切にAIを活用していることを「客観的かつ検証可能な」方法で示せるようにしている。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。