このブログをお読みの方にはあまり縁がないかもしれません。Shein(シーイン)は中国発のファストファッションブランドですが、ほぼ輸出専用会社と言ってよいでしょう。中国国内では手に入りません。しかし、その企業価値は14兆円を超えるとされ、ユニクロどころか、ZaraとH&Mを足してもまだ追い付かないという規模です。大阪以外に最近、東京の原宿に常設店が出来たのでメディアのカバーも増えていると思います。しかし、この常設店に行っても商品は買えません。オンライン注文のみで常設店は一種のアンテナショップです。
なぜ爆発的人気が出たか、といえばその驚きの価格です。基本は女性用の服やアクセサリーが中心でそれ以外に一般雑貨やペット関係、多少男性物もあります。女性用のアウターは2-300円からでアクセサリーは100円以下から、靴は500円程度からといった具合で一般的な物価の1/5-1/10ぐらいの金額で提供されています。なので、女性が頭の上からつま先まで全部そろえても1万円で十分おつりがくるということになります。
同社の売り上げは本年度は240億㌦、つまり3兆円越えの水準になりそうだとされ、そのうち1/3がアメリカ向けとなっています。購入層は中高生から20代全般のヤングアダルトの女性が主軸です。
なぜ、破竹の勢いで伸びているのでしょうか?売り方が非常に上手なのだとみています。例えば大阪や東京の常設店はそこで販売しないのですが、来た客が見て触るだけではなく、インスタ映えする展示をしているので友達拡散をして口コミ営業をします。自社工場はもたず、製造ロットは100と極小なので在庫が生まれません。全品、中国で作り、中国から発送しますので管理は楽。ファストファッションは通常のルートだと船便を使ったりして2か月はかかったりするところ、作り立ての製品が消費者の手に2週間で着く点も今までの常識を覆しています。
これに対して異論もあるでしょう。あんなペラペラな服、着られんわ、と。そりゃ、何万円もするアウターを着ているマチュアな方からすれば恥ずかしいぐらいの商品でもヤングアダルトや学生にとっては「洋服、アクセサリーの100均」という位置づけだとみています。つまり2-3回使ったらポイ、いや、下手したら一度も使わないこともあるでしょう。若い女性の心理はお金を使うことでストレス発散をします。そうショッピングなのです。1万円も使えば5-6点は買えるのです。これは楽しいし、毎日、3-5千アイテムも新作が出るのです。ECサイトで同じものは二度と買えないわけで女性が大好きなウィンドウショッピング更に購入を急がせる心理作戦も上手です。
ブルームバーグは同社の製品に新疆ウィグルの製品が使われている可能性が高いものの、これがアメリカで取り締まれないと報じています。理由はBtoBの輸入ではなく、BtoCの小ロットの個人輸入なのでアメリカが課す中国制裁のルールに引っかからないのです。
アメリカ人も中国に厳しい姿勢と言いながら結局、同社の製品を年間1兆円もお買い上げになっているのです。日韓問題で政府レベルでもめているのに若い日本人女性は韓国大好きの人で溢れかえっているのとまったく同じ構図です。
中国と言えば最近はハイテクやEV自動車が注目されがちです。2001年、WTOで中国製のアパレルが世を席捲した後、アパレルの名はあまり聞きませんでした。もちろん、市場はしっかり築いていたのですが、ベトナムやバングラディッシュなどへ生産拠点を移行した企業も多く、目線に入らなかったということでしょう。その点では不意を突かれたのかもしれません。
実は私はミンソウの株を少しだけ持っています。あの100均と無印良品を足して2で割ったようなコンセプト店で典型的な中国クオリティの雑貨チェーンです。あの会社の話だけでもこのブログ一本書けると思いますが、私が着目したのは出店店舗数が破竹の勢いだからなのです。カナダでも今やどこにでもあるし、名前が浸透したこともあり、10年前に比べ、客がしっかり入っているのです。それをみて純粋にビジネスモデルをもう少し検証したく、投資をしながら行方を追っているのです。ちなみにゴールドマンサックス証券のイチオシ企業の一つです。
中国にはこのような爆発的パワーを持つ会社がいくつもあります。日経には「点検 世界シェア56品目IT・供給網、中国依存根強く 21品目でシェア拡大」とあり日本がトップを取ったのは7品目のみと報じられています。私は日本が「良い、悪い」、という議論ではなくてすっかり「よい子」になったのだと考えています。
昨日、インフルエンザの注射を受けに行ったら注射をしてくれた若い中国系の女性の方が「あなた、日本人ね、日本の経済は今でも悪いの?」と単刀直入に聞くのです。グサッと来たのは注射針ではなく、日本経済は悪いと先入観を持たれていることが心に刺さりました。
タイトルの「話題の中国Sheinはアパレルの覇者になれるのか?」はアパレルの全く違うマーケットセグメントを開拓した点に於いてこの会社はまだまだ突っ走るのではないかという気がしています。マチュアな方は「あんな安物」というと思いますが、中国の会社は必ず改善してきたのが歴史です。私がミンソウというパチモンまがいの会社の株を買ったのもその変貌を研究したかったからです。
世界の政治と流行は別物だということも言えるのでしょう。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年11月25日の記事より転載させていただきました。