【Hothotレビュー】毎日装着する意味が高まった「Apple Watch Series 8」。皮膚温センサーと衝突事故検出機能に価値を見いだせるか

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Apple Watch Series 8

 Appleは、同社のスマートウォッチ「Apple Watch」の最新モデル「Apple Watch Series 8」(以下S8)を9月16日に発売した。同時に発表されたハイエンドモデル「Apple Watch Ultra」(Ultra)、機能を絞って価格を抑えた「Apple Watch SE」第2世代(SE2)の中間に位置するスタンダードモデルだ。

 画面を大型化した前モデル「Series 7」(S7)の特徴を引き継ぎ、41mmと45mmの2サイズで展開するほか、両サイズともにGPSモデルに加えてセルラーモデルをラインアップ。価格はGPSモデルが5万9,800円から、セルラーモデルが7万4,800円からとなっている。

 今回はApple Watch Series 8を借用したので、こちらをレビューしていきたい。

右側面にリュウズとボタン。セルラーモデルはリュウズが赤色になっている

watchOS 9による新機能

 Apple Watchの新たな特徴の1つはwatchOS 9で搭載された低電力モードによるバッテリ駆動時間の長時間化。いくつかの機能やセンサーをオフにすることでバッテリ駆動時間を延ばすことができる。同機能はS8以外のApple WatchでもwatchOS 9にアップデートすると利用できるが、S8の場合は通常18時間のバッテリ駆動時間を36時間まで延ばすことができるという。

 また、手首皮膚温を測定して女性の月経周期や排卵日の通知を受け取れる機能や、衝突事故を検知して自動で緊急通報サービスに発信する機能も搭載されている。

 ハードウェアのスペックとしては新たにIP6X等級の防塵性能を搭載したほか、セルラーモデルは国際ローミングにも対応した。

 低電力モード同様、watchOS 9の新機能にも対応。薬やサプリメントを飲む時間を通知する機能や、より詳しい睡眠情報を確認できる睡眠ステージ機能、日本語キーボードなどの機能が加わった。このほかワークアウトモードの機能拡充、文字盤のデザイン追加などもwatchOS 9で行われている。watchOS 9の詳細は別記事を参照して欲しい。

薬の服薬時間を通知する機能

低電力モードでバッテリ駆動時間を長時間化

 Apple Watchではこれまでバッテリを節約する機能として省電力モードが搭載されていたが、これは時計以外の機能をほぼすべてオフにすることでバッテリ駆動時間を延ばす機能だった。これに対してwatchOS 9で新たに搭載された低電力モードは、Apple Watchの基本機能をできるだけ損なうことなくバッテリの駆動時間を延ばす点が違いだ。

 低電力モードはディスプレイを下から上にスワイプし、バッテリ表示をタッチするとオンにできる。低電力モードがオンの場合は画面上部に黄色い丸が表示され、一目でモードが分かるようになっている。なお、バッテリが100%まで充電されると低電力モードは自動で解除されるため、常に低電力モードで使うためには都度手動でオンにする必要がある。

低電力モード

低電力モードオン時は画面上に黄色い丸が表示される

 低電力モードオン時には画面の常時表示が利用できなくなるほか、心拍数と血中酸素のバックグラウンド測定、心拍数の通知、ワークアウト開始のリマインダーが利用できなくなる。また、アプリのバックグラウンド更新の頻度が遅くなる、電話の発信やSiriのリクエスト処理に時間がかかるといった影響も出るという。

 心拍数や血中酸素、ワークアウトは自動での計測や通知が行なわれなくなるだけで、手動操作であれば通常通り利用できる。アプリのバックグラウンド更新の頻度が低くなるということで各種アプリの通知も時間が遅れるのでは、という点が気になっていたが、実際に使ってみるとメールやSNSの通知もほぼ時間差なく受け取ることができた。

手動での心拍数や血中酸素の計測、ワークアウトの記録は可能

 バッテリ駆動時間がどれだけ変わるのか、常時表示モードオンとオフ、そして低電力モードで実際に測定した。日によってアプリの通知頻度やディスプレイの表示回数も異なるため厳密な比較はできないが、バッテリ残量は常時表示モードオンが24時間後に約30%、常時表示モードオフが24時間後に約50%だったのに対して、低電力モードは36時間経過しても約40%近くバッテリが残っていた。使用頻度にもよるが、低電力モードなら2日間くらいのバッテリ持ちは期待できそうだ。

 常時表示モードをオフにした場合、手首を返した時に画面表示をオンにできるが、レスポンスも非常に早く、時間を確認したいときにもほとんどストレスを感じない。心拍数や血中酸素も計測できなくなるわけではないため、バッテリ優先として割り切る機能としてはバランスの良い仕上がりと感じた。

手首皮膚温の自動計測で月経周期や排卵日を把握。利用には事前設定が必要

 S8の完全な新機能である手首皮膚温の計測機能は、前述の通り女性の月経周期や排卵日を把握するためのもので、いわゆる体温計のように体温を測るものではない。Appleによれば手首の皮膚温は全身の体温の指標となりうる測定値であり、就寝時に手首皮膚温を計測、日々の温度変化を把握することで、月経周期や排卵日の予測を行なうという。

 この機能を利用する場合はApple Watchアプリの「睡眠」設定から、「Apple Watchで睡眠時間を記録」をオンにした上で、睡眠とき集中モードを毎晩4時間以上オンにし、さらにiPhoneアプリの「ヘルスケア」「周期記録」から月経の予測や妊娠可能期間の推定をオンにしておく必要がある。手順がやや煩雑なので、同機能を利用したい場合は設定をしっかり確認しよう。なお、集中モードはスケジュール設定で自動的にオンにすることも可能だ。

「Apple Watchで睡眠時間を記録」をオン

「睡眠スケジュール」は自動でオンにできる

月経の予測や妊娠可能期間の推定をオン

 上記設定を行なった上で5日間が経過するとiPhoneアプリで手首皮膚温の変化がグラフで確認できるようになるほか、iPhoneアプリやApple Watchアプリで月経や妊娠可能期間の予想日が表示される。また、月経や性行為、排卵検査結果、妊娠検査結果などの情報を手動で登録することもでき、これら手動データも予測に活用されるという。

記録のサンプル

手動での記録も可能

 残念ながら筆者は男性のため同機能は実際に体験できていないが、毎日装着するスマートウォッチの機能として、同機能はとても魅力的だと感じた。

 スマートウォッチはほかにも心拍や睡眠時間も測定できるが、何度か計測して数値や傾向を把握してしまうと新鮮味もなくなってしまい、その後はほとんど数値を気にしなくなってしまいがちだ。しかし、月経周期や排卵日など、数値が変わらなくても毎日きちんと測定する必要がある情報を自動的に記録してくれるというのは、普段身につけるスマートウォッチとしては非常に有用な機能だ。

 本機能の予測結果は月単位でのデータとなるため、この機能がどのくらい有効なのかのフィードバックを知るには数カ月近く必要になり、実際の精度などはまだ分からない。だが、毎日の計測を生活に役立てるという点では非常に興味深い機能であり、利用者の今後の反応が気になるところだ。

自動車事故に遭ったときに自動で緊急先に連絡

 S8で新たに搭載された衝突事故検出機能は、激しい自動車衝突事故に遭ったときのための機能。激しい衝突を検知すると画面に通知を表示するとともにチャイム音やバイブレーションで通知する。

衝突事故検出機能は初期設定でオンになっている

 Apple Watchに連携したiPhoneを所持しているか、またはセルラーモデルの場合は、通知のキャンセル操作を行なわないと自動で119へ発信してオーディオメッセージを再生。あわせて緊急連絡先に登録した相手に対し、事故に遭った旨に加えて現在の位置情報を伝え、メディカルIDを設定している場合は画面に表示し、救急隊員が持ち主の医療情報を確認できるという。

 同機能は標準でオンになっており、緊急連絡先やメディカルIDはヘルスケアアプリから登録できる。

「ヘルスケア」アプリからメディカルIDを設定

緊急連絡先はメディカルID内で設定できる

 この機能も実際に試すことはできなかったのだが、いざという時に自分の身を守る機能としては非常に重要な機能だ。衝突事故はどんなに気をつけていても完全に防ぐことはできないだけに、いざというときに備えて緊急連絡先やメディカルIDを登録しておくといいだろう。

Ultra、SE第2世代と機能を比較。SE第2世代は非常に機能が近い

 ここまでS8の新機能を中心に紹介してきたが、同時に発表されたUltra、SE2でも同機能を搭載していることもあり、3モデルの違いも触れておきたい。

 新機能のうち、衝突事故検出機能は3モデルすべてがサポート。皮膚温センサーとIP6X等級の防塵性能はS8とUltraが対応している。また、前述の通り低電力モードはwatchOS 9搭載のApple Watchであれば利用可能だ。

 新機能以外の違いとしては、Ultraが49mmのケースサイズによる大画面や100mまでの耐水性能、MIL-STD 810H準拠の耐久性、カスタマイズ可能なアクションボタン、高精度のGPS、最大36時間のバッテリという特徴がある。また、Oceanic+アプリをインストールすることで、ダイビング中に利用するダイブコンピュータとしても利用可能。高機能な分、価格も12万4,800円とほか2モデルに比べて圧倒的に高い。

 一方、SE2はケースサイズが44mmまたは40mmと、S8よりも若干小型なほか、血中酸素や心電図の測定機能、そして前述の皮膚温センサーに非対応な点が違い。また、高速充電もSE2は対応していない。細かな点では画面サイズが小さいため、watchOS 9の日本語キーボードはSE2では利用できない。その分価格はGPSモデルが3万7,800円から、セルラーモデルが4万5,800円からと、S8に比べて2~3万円近く安価だ。

S8は日本語キーボードを利用できる

スマートウォッチを「毎日装着」する必然性が向上

 スマートウォッチの定番として街で見かけることもめずらしくなくなったApple Watch。これまではアプリの通知や非接触決済など便利な機能が充実していたが、最近では睡眠や血中酸素、心電図など健康面に注力した機能が増えており、自分の身を守る、健康を維持するという方向性が強化されている。

 今回搭載された皮膚温センサーによる月経周期や排卵日の通知機能、および衝突事故検出機能は、こうした健康や身の安全という点では重要な機能であり、毎日装着するからこそ意味がある機能でもある。そして毎日装着するからこそいざというときに動作しないということのないよう、ほとんどの機能を動作させたままバッテリ消費を抑える低電力モードを搭載するなど、アップデートの方向性としては地味ながらも正統な進化だと言えるだろう。

 新機能というわけではないが、充実した非接触決済もApple Watchの魅力。先日発表されたGoogleのスマートウォッチ「Pixel Watch」もFeliCaを搭載するが、利用できるのがSuicaのみなのに対し、Apple WatchはSuicaやPASMO、iD、QUICPay、WAON、nanacoなどFelica系の非接触決済はほぼサポートしている。

 毎日装着するスマートウォッチだからこそ、手ぶらで乗車や買い物ができる非接触決済もApple Watchの大きな魅力だ。こうしたスマートウォッチそのものの魅力については以前の記事も参照して欲しい。

 なお、すでにAppleの直販サイトではS7の販売が終了しているほか、量販店などで販売されているS7の価格はS8とほとんど変わらないため、購入するのであればS7との差分を考える必要はあまりない。

 そのため購入の際に検討するのは同時発売のUltraとSE2との比較になるが、Ultraは価格やケースサイズ、ダイブコンピュータなど違いが分かりやすい。Series 8とSE 第2世代との違いである血中酸素や心電図、皮膚温センサーといった計測機能に対し、魅力に感じるかどうかが選択の分かれ目だろう。

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