ウェッブ宇宙望遠鏡、これまで観測されたなかで最も遠い「渦巻銀河」をとらえる

2021年12月に打ち上げられたウェッブ宇宙望遠鏡。地球から約160万km離れたところにあります。そして最近、そこからさらに離れた2つの壮大な渦巻銀河が撮影されました。

そのうちのひとつは、これまで観測されたものの中で最も遠い渦巻銀河のようです。

これが古代の銀河か…

撮影された2つの銀河は、プレプリントサーバー、arXivで公開されています。ちなみに画像の色は取得時に使用されたフィルターによって着色されているため、実際に人の目でこのように見えるわけではありません。

A2744-GDSp-z4 の合成画像。Image: Jain et al., 2024

発見された銀河のうちひとつは「A2744-GDSp-z4」と名付けられました。質量は太陽の約140億倍。ビッグバンからわずか15億年後に形成されたと考えられています。宇宙の規模で考えると15億年はまだまだ生まれたてなんですね。そしてこの銀河の存在は、宇宙の初期において研究者が予想していたよりはるかに銀河が成熟していたことを明らかにしました。

もうひとつは、さらに遠くにある銀河で、中国神話の赤い龍神にちなんで「Zhúlóng」と呼ばれています。

今回、新たに観測された2つの渦巻銀河は、グランドデザイン渦巻銀河と呼ばれるもの。渦巻きから腕のようなものが伸びているタイプです。腕があまり明確でない渦巻銀河は、綿状渦巻銀河と呼ばれています。ちなみに、地球がある天の川銀河は棒渦巻銀河ですが、研究者らは棒渦巻銀河の正確な構造と、もっとふさわしい名前を引き続き調査しているとのこと。

論文によると、Zhúlóngはこれまでに知られている渦巻きの腕を持つ銀河の中で最も遠いところにあるようです。その質量は天の川銀河と同程度(初期の銀河としては平均以上)で、星形成率は比較的低め。今回の発見と、古代の銀河は金属が少なくガスが非常に多かったことを示す以前のウェッブ宇宙望遠鏡のデータと合わせると興味深いです。おそらく、Zhúlóngはその大きさにもかかわらず、星形成率を高めるための適切な要素を欠いていたのだと考えられます。

そもそも、ウェッブ宇宙望遠鏡がなぜそれほど遠くの物体を観測できるのかというと、重力レンズを利用しているから。重力レンズとは、非常に強い重力を持つ時空領域で、重力場が凸レンズのようにはたらくことから名付けられました。非常に強い重力によって、光を曲げてその背後にある物体を見ることができる。そして光が曲がると、ウェッブのような望遠鏡では光が再び焦点を合わせられ拡大される、という仕組みのようです。

これまでの宇宙モデルが覆るかも

Zhúlóngは非常に遠くにあるため、望遠鏡の画像ではピクセル化されて見えますが、ウェッブ宇宙望遠鏡がとらえた近くにある他の銀河は、より鮮明で美しく撮影されています。

上の画像はウェッブの近赤外線カメラ「NIRCam」で撮影された別の渦巻銀河。

そしてこちらは、同じ渦巻銀河をウェッブ望遠鏡の中間赤外線装置「MIRI」で撮影されたものです。

NIRCamは新しく形成された星からの暖かい光をとらえていますが、MIRIは冷たい塵とガスの粒子から来る銀河の光をとらえています。この銀河は距離がわずか2700万光年とはるかに近いため、鮮明に見ることができます。

ウェッブ望遠鏡は、優れた知覚力によって通常であればかすかな遠方の光を遮る巨大なガス雲を見通すことができるため、初期宇宙の物体の撮影が可能になりました。過去2年間で、ビッグバンからわずか数億年後に形成された銀河をいくつも撮影し、それらの構造が長い時間をかけてどのように展開したかという新たな疑問を提起しました。これは、宇宙に関するこれまでのモデルや、暗黒物質(ダークマター)が初期の銀河形成にどのような影響を与えたかという認識を根底から覆すものになるかもしれません。