ヘリテージ財団といえば、気候変動否定で有名なあのシンクタンクですよね。
人類の知恵の宝庫であるWikipedia(ウィキペディア)は、匿名のボランティア編集者たちに支えられて成り立っています。彼らは自分の時間を犠牲にして内容を修正したり、互いに議論をたたかわせたりしながら、オンラインで真実を明らかにするために努力しています。
そんな中、ちょっとびっくりな情報が。Forwardが入手した漏えい文書によると、ヘリテージ財団が匿名編集者たちを「特定してターゲットにする」計画を立てているとのことです。
保守系シンクタンク、Wikipedia編集者の身元にロックオン
保守系シンクタンクのヘリテージ財団は、昨年の大統領選で話題になったProject 2025(規制緩和や保守的な価値観を推進する900ページに及ぶ詳細な政策集)の立案者でもあります。
ヘリテージ財団は、反ユダヤ主義とたたかうという名目で、Wikipediaの編集者の身元を特定して、その情報をユダヤ系財団に提供するつもりみたいですよ。計画を詳細に記したプレゼン資料まで作って送付しちゃっています。本気出すところを間違ってませんか。
プレゼン資料はページ数少なめで一見するとささいな問題に思えるかもですけど、なんとも嫌な感じです。目標として、「データ侵害分析、ユーザー認識情報、HUMINT(人との接触によって得られる情報)、技術的目標を駆使して、文章パターン、ユーザー名、技術データを分析することで、立場を乱用しているWikipedia編集者を特定し、標的にする」と2枚目のスライド(タイトルの次のスライド)に書かれています。
ヘリテージ財団の計画は本気度が高くて、さまざまな方法を使ってWikipediaの編集者をあぶり出し、彼らのリアルな身元を特定することを想定しています。
ヘリテージ財団は「厳選したなりすましアカウントを駆使して編集者のパターンを明らかにし、リアクションを引き出して情報開示を行なう」と共に、「特定のトピックを積極的に取り上げて、より多くの身元関連の詳細を明らかにする」としています。まるで諜報(ちょうほう)機関みたい。
プレゼンのスライドでは、ヘリテージ財団の工作員がWikipediaの編集者とやり取りするために偽アカウントを作る方法が説明されています。また、「神経言語プログラミング」を用いて「書き方のくせや繰り返されるフレーズ、内容のパターンを特定する」とも書かれています。
そこまでやるかって感じですけど、他のサイトでの活動とも照らし合わせて編集者の正体を暴くつもりみたいです。なんだかすごく執着してますよね。やりすぎ感満載です。
ちなみに米Gizmodoが両者にコメントを求めたそうですが、ヘリテージ財団もウィキメディア財団も沈黙を貫いているとのこと。
争点はイスラエルによるガザ地区攻撃
最近のWikipediaは、保守派にとって目の上のたんこぶみたいな存在になっているらしくて、「反ユダヤ主義だ」とか「意識高すぎ(too woke)」とか、いろんな非難を受けています。
イスラエルの支持者たちは、ガザ地区での出来事をWikipediaどう扱うかにすごく敏感になっていて、複数のユダヤ系メディアからはWikipediaを「反ユダヤ主義だ」と批判する声も。
この問題は何年も続いている複雑なトピックなんですけど、最近は「ジェノサイド」の法的定義と、ガザ地区におけるイスラエルの行為をWikipediaがどのように表現しているかが議論の中心になっています。
また、Wikipediaの編集者たちは、名誉毀損防止組合(ADL)を紛争に関する情報源として信頼できないとしていることについても批判されているようです。ホロコーストの専門家からも「悲劇の記憶を歪めている」と指摘されています。
保守は寄付金の使途を攻撃
Wikipediaに対する保守派の攻撃がヒートアップしたのは、クリスマスの2日前のこと。きっかけは、Libs of TikTokがX(旧Twitter)で「Wikipediaが『公平性(equity)』にお金を使い過ぎ」と騒いだことでした。
寄付金で運営しているWikipediaは、毎年財務状況を公開しています。それによると、財団は「公平性」に3,120万ドル(約49億円)も費やしています。Libs of TikTokとイーロン・マスクがこの額を多すぎるとして、Wikipediaへの寄付をやめるよう呼びかける事態に発展しました。
Wikipediaがその3,120万ドルを何に使ったのかというと、多くは助成金として拠出されているみたいです。
中東では、アラブ諸国におけるジャーナリストの育成を支援するArab Reports for Investigative Journalism(調査報道のためのアラブ記者ネットワーク)に資金を提供しています。
ブラジルでは、国内の人種格差とインターネットアクセスに関する調査を行なうInternetLabに、北米では地域のニュース収集に資金援助を行なうRacial Equity in Journalism Fundに助成金を拠出しています。
Wikipediaの編集はいつも戦場みたいなもので、ボランティアの編集者は足並みを揃えて動くのではなく、常に微調整を行ない、議論し、真実のあり方について議論しています。
事実上、Wikipediaは人類のあらゆる知識に関する巨大な「コミュニティノート」なんです。XのCEOが大好きで、Metaも今後取り入れる予定の、あの「コミュニティノート」です。あれ?
Wikipediaでは、すべての項目に関する編集や議論の履歴も管理されています。ときには、項目そのものよりも議論のほうがおもしろいことさえあります。
イスラエルとパレスチナの紛争に関しては、その歴史があまりに長すぎるために専用の項目がつくられて、編集、議論、論争の複雑で広範にわたる独自の歴史がびっしりと詰め込まれています。
結局のところ、客観的事実に基づいて議論するんじゃなくて「身元を特定する」なんて言い出すあたり、事実が自分たちの味方にならないと告白しているようなものじゃんって思っちゃいます。