太陽系で最も探査が進んでいなかった水星への近接フライバイを終えた、国際水星探査計画「ベピ・コロンボ」。
命名されたばかりの衝突クレーターを初めて捉えた画像などが公開されました。
日本時間の9月5日(木)に4回目となる水星フライバイに成功したベピ・コロンボは、午前6時48分には惑星のデコボコとした地表から約165kmにまで最接近。同探査機がフライバイ時に撮影した画像の数々は、水星のユニークな特徴を写し出していました。
初撮影のクレーターに迫る
ベピ・コロンボは搭載されている3台のモニタリングカメラを利用し、3つの異なるアングルから水星の地表を撮影しました。最接近から約4分後、見えてきたのは水星の謎めいたクレーターたちでした。その1つは今回のフライバイを記念して命名されたクレーターで、幅はおよそ155kmあります。
今回のフライバイを計画していた時に、このクレーターが見えるとわかり、今後ベピ・コロンボに携わる科学者たちの興味の対象となりそうなので名を付ける価値があるだろうと判断しました。
と、英国オープン大学の惑星地球科学の教授でベピ・コロンボM-CAM撮像チームの一員であるDavid Rothery氏は、ESAのリリースの中で語っています。
国際天文学連合はこのクレーターに、花々の絵画で有名なニュージーランドの画家マーガレット・ストッダートに因んで「ストッダート」という名称をつけました。
水星の衝突クレーターはピークリング盆地とも呼ばれていて、この小さな惑星に小惑星か彗星が激突して形成されたものです。その多くは、最初の衝突のずっと後に火山の溶岩流で氾濫していたそう。同氏はこう説明しています。
水星のピークリング盆地は、その形成過程のあらゆる面が依然として謎に包まれており、興味深いんです。
リング状に盛り上がった部分は衝突時の何らかの反動から生じたと思われますが、それらがどれほどの深さから持ち上げられたのかは、いまだにわかっていません。
ベピ・コロンボが水星の夜側から接近し、通過するとともにクレーターだらけの地表はますます太陽に照らされていきました。これにより探査機は、太陽系の最も内側にある水星の進化を物語る、地表面に散らばった46億年分の傷跡の最も鮮明な光景を撮ることができたのです。
フライバイの主な目的はベピ・コロンボの太陽に対する速度を落とし、同機の太陽を周る公転周期を、水星の公転周期にかなり近い88日間にすることでした。
と、ベピ・コロンボの飛行力学マネージャーのFrank Budnik氏はリリースの中で言っていました。
この点に関しては大成功で、私たちは今まさに望んでいたところにいます。それだけでなく、ひとたび軌道に入ったら到達できない場所と視点から写真の撮影と科学観測を行なう機会もくれました。
2018年10月に打ち上げられたベピ・コロンボは、欧州宇宙機関(ESA)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同ミッションです。それぞれ水星の地表と内部構造、そして磁気圏を調べる探査機を提供しています。
ESAの水星表面探査衛星(MPO)とJAXAの水星磁気圏探査衛星(MMO)は連結されて単体の探査機として打ち上げられ、水星を周回する各々の軌道に投入されるよう設計されています。
電気系統のトラブルで、水星到着は約1年遅れに
ミッションは予定どおり進んでいて、2025年12月に水星軌道投入となるはずでした。しかし4月に予定されていたマヌーバを前に、探査機の電気推進モジュールがスラスタに十分な電力を供給できなくなったのです。ベピ・コロンボが確実に水星にたどり着けるよう、ミッションチームは低下した推力を活用できる新たな軌道を検討し、水星への到着を2026年11月へと遅らせました。
ESA研究員でM-CAM撮像チームのコーディネーターJack Wright氏は、リリースにてこう述べていました。
ベピ・コロンボは水星を訪れるたった3つ目の宇宙ミッションで、水星はたどり着くのがとても難しいこともあって内太陽系の中で最も探査の進んでいない惑星となっています。
「極端で矛盾に満ちた世界ですから、かつて『太陽系の問題児』というあだ名を付けたことがある」とのこと。
2011年3月18日に水星を周回する極楕円軌道に入ったNASAの探査機「メッセンジャー」は、水星の上空約200kmまで接近していました。そんなメッセンジャーが持っていた水星最接近の記録を、今ではベピ・コロンボがさらに近いフライバイでもって更新し、水星の荒れた地形のさらに詳細な画像を提供してくれているのです。