見るだけじゃない。一緒に「つくる」コンサート。
音楽産業に本気で脱炭素を広げようとしている世界的な人気バンド、コールドプレイが、世界ツアーのCO2排出量を目標以上に削減できたと報告しています。
CO2排出量を59%削減
コールドプレイはX(旧Twitter)で、2022年から始まった世界ツアーにおけるCO2排出量削減を含むサステナビリティへの取り組みに関する情報がアップデートされたとファンに報告しました。
ツアーが始まる前の目標として、今ツアーにおける最初の2年間におけるコンサート制作、輸送、メンバーやスタッフの移動などの直接的なCO2排出量を、2016年から17年に行なったスタジアムツアー比で50%削減させると表明していました。
それから2年後。公演ごとの排出量を比較した結果、掲げた目標を上回る59%の削減に成功したそうです。なお、排出量はマサチューセッツ工科大学のEnvironmental Solutions Initiativeによって検証されています。
報告の中でコールドプレイは、排出量削減に貢献してくれたファンに感謝を述べています。
何よりも、ショーに足を運んで、発電自転車や(ダンスやジャンプのエネルギーを電力に変換する)kinetic dance floorsで蓄電バッテリーに充電してくださったみなさん、徒歩や自転車、ライドシェア、公共交通機関で会場へお越しくださったみなさん、マイボトルを持参してくださったみなさん、LEDリストバンドをリサイクルのために返却してくださったみなさん、そしてチケットを購入して700万本の植樹に貢献してくださったすべてのみなさんに感謝します。
踊って、漕いで、ジャンプして発電
踊って、跳んで発電って、いったいどうなってんのと思ったら、44枚のタイルが敷き詰められている円形のステージで曲にあわせてファンが踊ったりジャンプしたりすると、その動的エネルギーがタイルの下にあるコイルを通して電力に変換され、蓄電バッテリーに送られる仕組みになっているそうです。見た目もちゃんとコンサートのステージセッティングにあわせてあるのだとか。
特注品のタイルの表面は再生プラスチックでできていて、4年にわたる世界ツアーに耐えられるそうです。こだわっています。
また、ファンは各公演に少なくとも15台設置されている自転車をひたすらこぐだけで、持続可能なコンサートの作り手として参加できます。
これらの設備と、会場に設置された太陽光パネルによって、公演ごとの平均で17kWhを発電。サークルステージ(メインステージから延びた花道の先、アリーナのまん中にある小さなステージ)で使用するエネルギーをすべての公演で確保できたといいます。
「あそこでパフォーマンスする分のエネルギーの一部は、自分が踊って(自転車こいで)作った」って思えると、より強く深く記憶に残るような気がしますね。
CO2だけじゃない
目標を大きく上回るCO2排出量削減とセルフ発電だけではありません。環境に配慮しているバンドとしても常に先を行くコールドプレイだけあって、他にもさまざまな取り組みをしています。
・2023年に開催した18回の公演で消費した電力を、BMW特注のリサイクル蓄電バッテリーで供給
・23団体と提携した専用アプリを利用し、ファンの移動を低炭素化。ファンの1/3が公共交通機関を利用するなど、排出量が前回のツアー比で48%削減。ファンの4%は徒歩か自転車で公演会場へ
・チケット売り上げの一部を用いて、世界24カ国で700万本を植樹。100平方キロの土地で緑を回復
・グッズとして生分解と再利用、リサイクル可能なプラントベースのLEDリストバンドを使用。返却・再利用率は86%を達成
・すべての公演に無料給水所を設置
・再利用、リサイクル、生分解によって廃棄されるごみを72%削減
・バンドメンバーやスタッフの飛行機移動で持続可能な航空燃料(バイオ燃料)を使用し、CO2換算で3000トンの温室効果ガス排出量を削減
・ツアーの食事や備品を廃棄せず、フードバンクなどを通じてホームレスに9625食と90キロの洗面用具を寄付
・DHLとの提携でツアー機材などの輸送による排出量を33%削減
お見事。2019年に「持続可能なコンサートができるようになるまでツアーを保留する」と宣言しただけのことはあります。
なお、削減した排出量にカーボンオフセット(排出量を気候や環境に良いとされるアクションなどを通じて相殺)は含まれていません。気候変動の影響はオフセットできないので、妥当だと思います。
批判にはゼロ釈明
それでも、排出量が多い飛行機でのメンバーや機材の移動を批判する声は聞こえてきます。ボーカルのクリス・マーティンは、「指摘はその通り」と言い訳はせず、それでも、「バンドにとってファンと直接つながれるコンサートは必要」として、ライブツアーを限りなく持続可能なものにするためにベストを尽くすと話しています。
演奏する側も見る側も、あの熱気や高揚はライブでしか得られませんものね。
コールドプレイのような大きなファンベースと影響力を持つ世界的なバンドだからできること、そして、そんな彼らでもできないことを発表する意味は大きいと思います。必要な速さで変化は起こっていないかもしれません。でも、変化の過程を透明化すれば、加速度的な変化の礎になるはずです。
音楽産業の排出量削減
イギリスの音楽産業による温室効果ガス排出量は、CO2換算で年間約54万トンとされており、そのうち75%がコンサートによるものとされています。2022年の日本におけるエネルギー部門の一世帯あたりの年間排出量(電気、ガス、灯油の合計)が2.57トンなので、およそ21万世帯分。結構派手に排出していますね。
このままではいけないということで、近年は音楽産業も排出量削減に本腰を入れ始めています。Universal Music GroupやSony Music Entertainment、Warner Music Groupの大手3社に中小レーベルも参加して、2030年までに50%の排出量削減を目指すと宣言しています。
気候変動について積極的に発信しているビリー・アイリッシュも、ツアーの排出量削減や環境への影響を抑えるための努力を行なっています。他にも、The 1975、U2、P!nk、ハリー・スタイルズ、レディオヘッドなども排出量削減に取り組んでいます。
今後、コールドプレイやビリー・アイリッシュたちに続くバンドやミュージシャンも出てくるでしょう。音楽産業やショービジネス全体、他の業界にも脱炭素、低炭素化の動きが波及すれば、ファンの間でも気候変動や環境問題への意識が高まるんじゃないでしょうか。
Source: Coldplay Official Website
Reference: Coldplay / X (Twitter), LX News /YouTube, Energy Floors, BBC, Independent, Brennan, M (2020), 環境省, Billboard, Context, REVERB