夜空に浮かぶ謎の紫、オーロラではない“なにか”の正体

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夜空にかかる紫や緑の光はオーロラだけかと思いきや、違うタイプの現象もあるみたいです。アマチュア観測グループが2016年、空に紫と緑の大きな帯が出現する現象を発見し、「STEVE(スティーヴ)」と名付けました。

STEVEの成り立ちはまだ完全にはわかっていないんですが、過去のデータを分析した結果、ますます興味深いことがわかりました。STEVEには、ESA(欧州宇宙機関)の言葉を借りると、「生き別れの双子のような相方がいる」らしいんです。

学術誌「Earth, Planets and Space」に掲載された論文によれば、ノルウェーのラムフィヨルドモーエン研究ステーションの全天デジタルカメラのデータから、STEVEの相方がノルウェーの北極圏の上に出現していたことが明らかになりました。

そもそもSTEVEとは?

夜空に浮かぶ謎の紫の帯STEVEを初めて撮影したのは、アマチュアのオーロラ写真家が集うFacebookグループ「Alberta Aurora Chasers」でした。STEVEという名前はキッズ映画『Over the Hedge』が元ネタで、映画の中でキャラクターが謎の物体に付けた適当な名前が「STEVE」だったんです。

その後、「STEVE」が略語になるようなカッコいい名前、「Strong Thermal Emission Velocity Enhancement(直訳:強い熱放出の速度拡張)」も付けられました。

STEVEが出現するのはオーロラとだいたい同じタイミングですが、その色はオーロラによくある緑や青、赤といった色とはちょっと違います。またオーロラが数時間続くのに対し、STEVEは短時間で消えてしまいます

カナダ・マニトバ州のチャイルズ湖にかかるSTEVEと天の川。(Image: Krista Trinder/ESA)

Alberta Aurora Chasersによる発見には研究者も惹きつけられ、調査が始まりました。分析の結果、「サブオーロラ帯イオンドリフト(SAID)」と呼ばれる、非常に高温の気体が高速で流れる現象がSTEVEの正体だと考えられています。

オーロラは、太陽風が地球に吹き付ける粒子が地球の南北の極に流れ込むことで生まれます。太陽風に運ばれた粒子が上空の大気中で窒素や酸素の原子と衝突し、緑や赤の光を生み出します。STEVEも同じプロセスが引き起こしていますが、オーロラとは違う磁力線に従って動きます。そのため、STEVEはオーロラより緯度の低い場所にも出現しています。

地球の裏側に相方を発見

STEVEの興味深い点は、それだけではありません。STEVEが見えるのは夜の0時より前で、高温のガスが西向きに吹いています。そこで研究者たちは、STEVEには地球の反対側、つまり夜の0時より後の位置に相方が存在して、ガスが東向きに吹いているのではないかと考えたのです。

そこで電気通信大学・スウェーデン宇宙物理研究所などによる研究チームは、過去のデータを分析することにしました。ラムフィヨルドモーエン研究ステーションの全天デジタルカメラで撮った画像からオーロラ画像を収集するアプリを開発し、アマチュア研究者も参加して分析していったのです。その結果、アマチュア研究者でオーロラ写真家のGabriel Arne Hofstra氏が、2021年12月28日の画像からSTEVEの相方を発見しました。

STEVEの相方は深夜0時のちょっと後、緑のオーロラの北極寄りに、幅600マイル(約1,000km)にわたるアーチを描いていました。

アマチュアと研究機関が協力

「新たなサイエンスに貢献できたこと、研究者がこの現象について明らかにして手助けができたことは素晴らしいです」とHofstra氏はESAのプレスリリースで言っています。「これによって、我々市民も科学者に協力することで、我々が住む世界の理解に貢献できるという証明ができたと思います」。

研究チームはさらに、3基セットのESAの衛星Swarmが取得したデータから、STEVEの相方の画像が撮影されたときの磁場のデータを収集しました。この当時STEVEの描く弧の中を直接通過していた衛星はありませんでしたが、3基のうち2基の衛星が、STEVEが起こる前から収束後まで、紫野部分の状態を測定していました。このデータによって紫の領域から東向きに飛ぶイオンを捉えることができたのです。

STEVEもオーロラも、普段目に見えない何かが存在することを思い出させてくれます。そしてそんな何かを解明すべく、専門家とアマチュアが垣根を超えて協力できるのは、なんだかうれしくなります。