森のお医者さん。オランウータンは傷に薬草を塗って自分で治療する

どうやってその方法を知ったんでしょう?すごい!

人間だけでなく、類人猿も薬草を使って傷を癒すことがあるようです。今日発表された新しい論文で、薬用植物の特性を利用して、自分の顔の傷を治癒しようとしたオランウータンのオスの様子が記録されています。動物が野生の薬草を使う様子は他でも報告されていますが、動物が植物を傷に塗布剤のように使用したのは、今回の研究が初めてです。

この行為は、霊長類研究者のIsabelle Laumer博士率いる研究チームによって目撃されたものです。1994年以来、研究チームはインドネシアの保護区熱帯雨林に生息する約150頭のスマトラオランウータンを調査してきました。

生々しい傷に植物を塗りつけた

2022年6月下旬、いつもの観察調査中、研究チームはオスの「ラクス」に出会いました。ラクスは右側の頬の上のあたりに痛そうな深い傷があり、おそらく別のオスとの喧嘩で怪我してしまったもののようでした。

その傷ができてから3日後、ラクスは研究チームが今まで見たことがない行動をしました。近くの植物を食べ、噛み、吐き出し、そしてその植物のかすを傷に塗りつけたのです。

研究チームが収集したすべての証拠と経過が、ジャーナル誌「Scientific Reports」に掲載されていますが、ラクスは自分がやっていることをしっかりと理解していたと考えていいようです。

Photo: Laumer et al/Scientific Reports

傷の部分にだけ塗っていた

ラクスが植物を傷の部分のみ塗り付け、体の他の部分には塗らなかったことから、意図的な行動だったことがうかがえます。また、7分間かけて十分な量の植物のかすを作り、ていねいに傷全体を覆うようにしたことも、単なる偶然ではなさそうです。さらに、翌日も同じ植物を食べていたことから、その植物の効能を知っていたのかもしれません。

ラクスが傷に塗っていたのは、フィブラウレア・ティンクトリアと呼ばれる植物で、その地域の人々が長年にわたりさまざまな病気の伝統療法に使ってきたものです。研究でも、この植物に抗菌、抗炎症、抗真菌作用などの有用な薬理作用があることが確認されています。そしてその証拠に、ラクスがこの植物を使った後、著しく早く傷が癒えているのです。5日後には傷が塞がり、8月後半にはほとんど見えなくなっています。

野生の動物による自己治療行動の報告例は他にもあります。例えば2022年の研究では、チンパンジーが空を飛んでいる虫を捕まえ、噛んで傷や集団の仲間の傷に塗り付ける様子が記録されています。また、鎮痛や治癒作用のある植物を食べる動物もいます。しかし、論文の著者によると、活性のある薬用植物を新しい傷に直接塗布する動物の例は、今回が初めての報告だそうです。

どうやってこの方法を学んだのか?

このラクスの発見には、いまだにたくさんの疑問が残っています。ラクスがどのようにして最初に治療する方法を学んだのかが最も興味深いところです。この植物はその地域のオランウータンにはあまり食べられていないようで、研究チームが長年観察してきた中でも、他のケガをしたオランウータンがラクスのようにこの植物を使っている様子は一度も見られなかったそうです(ただ、その地域で怪我をする機会自体が多くはないということも事実です)。

オスのオランウータンは通常、出生地を離れて移動することが多いそうで、ラクスも元々ここの出身ではありません。なので、ラクスは自分が生まれ育った場所で、他のオランウータンの行動を見て学んだ可能性はあるかもしれません。

Laumer博士はメールでこう語っています。

「もしかするとオランウータンが偶然この植物を食べている途中で傷に触れ、植物の汁を塗ってしまったということがあるかもしれません。フィブラウレア・ティンクトリアには強力な鎮痛効果があるので、偶然触れてすぐに痛みが和らいで、同じ行動を繰り返すようになった可能性もあります」

Laumer博士の研究チームはこれからも引き続き、この地域のオランウータンを注意深く観察し、他の個体がラクスと同じ行動ができるかどうかを見守る予定だそうです。そしてこの研究を通して、私たち人間が類人猿をもっと理解できるようになることを願っているとのこと。

「私たち人間と最も近い仲間が、薬用植物を使って傷の手当てをしていることが観察できて、私たちが同じ祖先を持っているのだと実感できました。私たちは違いよりも共通点の方が多いのです。この研究が、彼らが野生で絶滅危惧種であることの認識を高めてくれることを期待しています」