ただの競合じゃない、深いつながりが。
先週末以来、サム・アルトマン氏がCEOを電撃解任されたかと思ったら、Microsoftに拾われたかと思ったら、結局また復帰したり、大混乱だったOpenAI。
アルトマン氏の後任にはTwitchのCEOだったエメット・シアー氏が暫定CEOとして就任してましたが、後任探しのどさくさで、OpenAIは競合のAI開発企業Anthropicに合併を打診してたらしいです。一体何が起きてたんでしょうか?
競合企業のCEOに接近
The Informationによれば、OpenAI取締役会はアルトマン氏の解任後、Anthropicの共同創業者兼CEOのダリオ・アモディ氏に対し、アルトマン氏の後任CEOにならないかと提案していたそうです。
Anthropicは、OpenAIのChatGPTと競合するAI「Claude」を開発するスタートアップです。OpenAIはその提案のついでに、なんならAnthropicとOpenAIを合併させないかと持ちかけてもいたようです。
ただ、アモディ氏は「自分にはAnthropicの仕事があるから」として、OpenAIの提案を拒否していました。The Informationは、合併話も「真剣な議論につながったのかどうかは定かでない」と言ってます。
また、結局はアルトマン氏のOpenAI CEOへの復帰と、Anthropicに合併を提案した取締役会メンバーの退陣が発表されたので、合併のアイデアは消えたものと思われます(少なくとも、この記事執筆時点では)。
長年あった慎重派 vs. イケイケ派の対立
ただ、OpenAIの旧経営陣がAnthropicに接近したことは、彼らがアルトマン氏を解任した理由と密接な関係があったように見えます。
New York Times紙によれば、アモディ氏は2015年から2020年までOpenAIに在籍し、最後は研究担当バイスプレジデントを務めていました。でも、アルトマン氏がAIを商用化していくスピード感に賛同できず、2020年にアルトマン氏解任を取締役会に提案していたそうです。
その交渉が不調に終わった結果、アモディ氏はAnthropicを自ら起業したのでした。たしかにAnthropicのClaudeは、AIのハルシネーション(でっち上げ)を極力抑えた慎重なAIであることを特徴としてプッシュしています。
火種は取締役の論文?
さらにNew York Times紙は、今回の解任劇の直接のきっかけになったと見られるOpenAI内部のゴタゴタも伝えています。アルトマン氏は解任される数週間前、OpenAIの元取締役の1人、ヘレン・トナー氏が書いた論文に抗議していました。
トナー氏はジョージタウン大学のCenter for Security and Emerging Technology戦略ディレクターでもあるのですが、その論文ではOpenAIのAI開発について批判を展開し、拙速で安全性への配慮が足りないとか、表向き言ってることと実際やってることが違うとか、ボコボコにしていました。
しかもOpenAIを散々ディスったあげく、「それにひきかえこの子は」とでも言うように、Anthropicの慎重さを絶賛してもいました。
そういう議論は、別に社内でするだけなら問題ないし、むしろそんな意見をやりとりできる会社こそ「風通しが良い」のだと思われます。でも、公開論文という形で自分が取締役を務める会社を下げ、他社を上げちゃうのは、特にOpenAIみたいにいろんな矢面に立ってる会社では、まあまあ危険です。
だから取締役会は一瞬トナー氏の解任を検討したのに、どういうわけだか矛先がアルトマン氏に向かってしまい、解任に至ったんですね。なのでAnthropicへの合併提案は、OpenAIの旧経営陣が慎重なAI開発へと舵を切る中で、必然だったのかもしれません。
根っこの課題は終わらない
そんなわけで、「電撃」と受け止められた今回の騒動ですが、実際には長年の布石があったらしいことが見えてきました。
根源には、AIの開発のスピード感と人類にとっての安全性のどっちを優先するか?に対する考え方の違いがあったんですね。これはOpenAIだけじゃなく、他のAI開発会社や、AIのユーザーである私たち社会を含めて、ずーっと問われ続けてる問題です。
アルトマン氏が元のサヤに収まったからといって、彼の姿勢が「正しかった」ことの証明にはならないし、AIをめぐる問いかけへの答えが出たわけじゃありません。
アルトマン氏も、OpenAIも、それをサポートするMicrosoftも、引き続きどこまでガンガン行っていいのかを探りながら、AIの未来を作っていくことになりそうです。