北海道新幹線の札幌延伸、数年の延期か…北海道や札幌市の経済に損失も


北海道新幹線でも使用しているE5系(昨年5月、新函館北斗駅にて本稿記者撮影)
北海道新幹線でも使用しているE5系(昨年5月、新函館北斗駅にて本稿記者撮影)

 2030年度末開業予定の北海道新幹線・新函館北斗―札幌間をめぐり、建設工事が遅れていることなどを理由として開業が数年ずれ込む可能性が出てきた。建設を含め、さまざまな業界で24年4月に働き方改革関連法に基づき時間外労働の上限規制が適用され、「2024年問題」が危惧されていることも背景にある。また、札幌市が2030年の冬季オリンピック・パラリンピックの招致中止を決めたことも影響しているとの指摘もある。

山下JOC会長「34年以降の冬季大会について開催の可能性を探る」

「昨今の状況を踏まえ協議した結果、2030年大会招致の活動を中止し、34年以降の冬季大会について開催の可能性を探ることに変更する」

 10月11日、都内で開かれたJOC(日本オリンピック委員会)の山下泰裕会長と秋元克広・札幌市長が出席した共同記者会見で、山下会長が30年五輪の札幌招致の断念を明言し、34年以降の冬季五輪の招致を目指す見通しを示した。秋元市長も招致の断念について言及したうえで、「IOC(国際オリンピック委員会)との継続的な対話を引き続き行っていくことで合意」したと述べた。続けて秋元市長は、昨年に発覚した2020東京五輪をめぐる汚職事件などによって「五輪に対する不信感が増大したことから、本年5月に検討委員会を立ち上げて大会運営の見直し、検討を進めてきた」「この夏には市民対話事業を精力的に行い、従来から懸念の声が大きかった大会経費等も含めて説明を行ってきた」と強調。ただ市民からは依然として多くの懸念の声があるとして、「招致に対する理解が十分広がったとは言い切れない状況にあると言わざるを得ない」と断念した理由について説明した。

 五輪については賛否両論あるが、34年の招致に照準を合わせることになった。ただその34年五輪についてはアメリカのソルトレークシティーが最有力であり、アメリカの五輪・パラリンピック委員会(USOPC)が動いている。そのため「札幌五輪の招致は厳しい」との見方が大勢を占めている情勢だ。北海道のブロック紙である北海道新聞は10月7日付一面に「30年度札幌延伸 延期へ」「五輪断念受け調整」との記事を掲載。以下の文章が記されていた。

「札幌市が冬季五輪の招致時期を34年以降に変更する方針を固めたことで、政府関係者は同日『札幌延伸を急ぐ理由がなくなった』と述べ、新幹線の札幌開業を延期する環境が整ったとの認識を示した」

 本稿記者はこの政府関係者の発言に少し違和感を覚える。全国新幹線鉄道整備法第1条には、その目的として「この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする」とある。新幹線はその速達性から、地域と地域との移動を迅速に行えるようにする交通手段だ。たとえ札幌五輪に間に合わず、「札幌五輪に合わせて開業」という夢が叶わなかったとしても、新幹線は通すべきではないか。そして政府関係者の「急ぐ必要がなくなった」との言い方はよろしくない。「努力していたが残念だ」「申し訳ない」という言葉が出てくるなら理解できるが、あまりにも地元をないがしろにしていると感じる。今後は地元自治体がJRなどと調整を続ける見込みだ。

リニアはいまだ開通せず札幌再開発にも遅れ、新幹線開業は最大5年後ろ倒しか

 北海道新幹線の札幌延伸に向け、札幌では再開発が進んでいる。例えば北海道最大の歓楽街・ススキノでは、旧「ススキノラフィラ」跡地で複合施設「COCONO SUSUKINO(ココノススキノ)」の整備が進んでおり、11月末の開業を予定している。そこから少し北へと向かうと、地下鉄大通駅までの間に複合施設「モユク札幌」や「ピヴォクロス」などが立ち並ぶ。札幌駅に目を移すと、南口には西武百貨店跡「北4西3」地区に再開発ビルが建設予定。しかし入居を予定していたホテルは、建設資材高騰のため入居を断念した。8月末に閉店した札幌駅隣接の商業施設「エスタ」跡に建つ予定のビルについても、事業費が大幅に増えると報道されている。

 新幹線にとどまらず、新しい路線の開業が延期した事例はいくつかある。例えば8月26日に開業した栃木県の「宇都宮ライトレール」(JR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地間14.6km)は当初、22年3月の開業を予定していたが、数回の延期を経て1年5カ月後に開業した。昨年11月に発生した試運転事故や作業員不足等による工事の遅れなどが尾を引いたのだ。

 東京都心でも工事が遅れている路線がある。都心から羽田空港を直接結ぶ「羽田空港アクセス線」(田町駅付近から羽田空港新駅<仮称>間工事延長12.4km)だ。JR東日本は31年度開業予定としているが、当初は29年度開業予定だった。共同通信によると、「地盤が軟弱なことから、当初の見通しより工事に時間がかかる」「工事内容を精査した結果、難航が予想される」という。なお、工事の着工式は今年6月に開かれており、開業へ向けて工事が進められることになる。

 そして現在、最も注目されている鉄道関連の話題といってもいいのが、品川駅から名古屋駅を約40分、大阪駅を約67分で結ぶ「リニア中央新幹線」だ。都心から大阪までを約1時間で結ぶこともあり、移動時間の短縮が図れるとして期待の声が大きい。中央新幹線はまず品川―名古屋間が27年の開業、大阪までの全線開業は45年の予定だったが、最大8年の前倒しを目指すこととなり、37年に全線開業する予定だった。

 ところが、この予定は大幅に遅れることになりそうだ。リニアの建設をめぐっては、ルートの途中にある静岡県が工事によって生じる残土の盛り土の安全性や大井川の水など複数の懸念があることを理由として工事の着工をいまだ認めていない。JR東海の金子慎社長(現会長)も今年3月、静岡の着工のめどがたっていないことから、「遅れを取り戻すことができない」と開業が遅れると認めている。報道等では川勝平太・静岡県知事の「妨害」とも取れる対応が物議を醸しており、今後の進捗は静岡県、いや川勝知事の出方次第で変わってくるだろう。

 リニアはレアケースとして、残りの2つのケースを見ると、約1~2年ほどの遅れで開業、または開業する見込みだ。遅れの理由も「工事の遅れ」が共通点としてあり、北海道新幹線の工事の遅れとも合致する。そのため、北海道新幹線の札幌延伸開業は30年度末から延期され、31~32年度末となるのではないか。しかし現在も続く物価高や原材料費の高騰、イスラエル情勢やウクライナ情勢の緊迫化などの影響で今後の見通しはつかない。そのため、5年前後遅れる可能性を想定しておく必要があると考える。新幹線開業の延期は五輪や札幌の経済、ひいては北海道の経済にも影響を及ぼすかもしれない。そのため開業延期による損失をどのように穴埋めするのかという視点も必要となってくるだろう。

(文=小林英介)

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