年給与1千万円で土日休み…地方の半導体工場、実は好待遇の就職先、持ち家も現実


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米ウェスタンデジタルのHPより

 東京一極集中や地方の就職難が深刻化しているといわれるなか、大都市圏と比べても遜色ないぐらい条件のよい求人が地方でも募集されている。工場勤務の求人である。たとえば、半導体受託製造企業の台湾積体電路製造(TSMC)は、2022年4月に熊本県に工場の建設を開始し、24年12月から稼働させる見込みだという。九州では半導体関連企業に対する投資が隆盛を極めており、さらなる盛り上がりが予想される。

 そして一部の地方の工場求人を見てみると、待遇が良いものも珍しくない。たとえば、以下はTSMCグループ関連企業と、米国の半導体メーカー、ウェスタンデジタルの求人条件の例である。

【TSMCグループ関連の企業】
・勤務地:熊本県菊池郡菊陽町原水3802-14
・給与:350万円~1500万円
・休日:土日祝 年間123日 ※ポジションによりシフト休み有

【ウェスタンデジタル合同会社】
・勤務地:三重県四日市市山之一色町800番地
・給与:470万円~1000万円
・休日:完全週休2日制、年間休日日数129日

※いずれも6月5日時点の求人情報

 前者のほうは福利厚生や応募条件は確認できなかったものの、どちらも好条件といえる。 では、こうした求人はおすすめといえるのだろうか。キャリアデザイン研究所代表で学生への就職指導を行う坂本直文氏に聞いた。

プライベートの時間が取りやすく、元営業マンから人気

「非常にアリな就職先だと思いますね。半導体業界は今後も安定的に成長が期待できる業界ですので、新卒で入社しても安定した給与がもらえますし、何より工場勤務なので休日もしっかりと設けられています。国税庁の調査によれば、21年の給与所得者全体の平均年収は443万円なので、きちんと昇給さえすれば平均年収を軽々と超えた年収を目指すことも可能でしょう。半導体メーカーに関しては条件がよくなる可能性が高いですね」(坂本氏)

 ただし、これはあくまで半導体メーカーの場合で、工場勤務全般となると、求人によって給与体系や条件はまったく異なってくる。

「地方の工場となると、企業としてのPRや発信力不足で、そもそも学生から認知されていないという可能性もあります。地方で就職するケースでは、Uターン就職とIターン就職の2種類が多く、とりわけ後者をどう確保していくべきか地方企業は考えなくてはいけません。ただ面接で地方にある本社まで直接行かなければならない場合も多いため、学生からすると少々ハードルが高いかもしれませんね。このように認知度的、地理的に地方企業は採用活動で苦戦を強いられているんです」(同)

 だが、学生からしても工場勤務が魅力的に映る可能性もあるという。

「工場勤務をしていると、ワークライフバランスを保ちやすいというメリットがあります。工場勤務は就業時間がしっかりと定められていますし、土日祝日もきちんと休みがもらえるケースも多いので、仕事がプライベートの時間を侵食しにくいのです。仕事の内容も工場の生産計画に基づいており、毎日やることがほぼ決まっているので身体的、精神的にもあまり負荷がかからない職場が多いでしょう。

 特に営業職にギャップを感じ、工場勤務を選ぶ人は非常に多いです。営業職の離職理由はノルマが課せられたり、競争を課せられるなかでの人間関係が嫌になったりするというのがよくある話ですが、工場勤務はある意味で営業職とは真逆。ですから営業職などの働き方が合わないと感じている層にうまくアピールしていけば、もっと就職先の選択肢に入れてもらえるかもしれません」(同)

地方は暮らしやすいものの、給与の上がり方は要チェック

 ワークライフバランスが保てる地方の工場に勤務すると、人生設計が立てやすく、何より住みやすいというメリットもあるとのこと。

「地方ですと、都内に比べ物価が安い傾向にあるので、経済的に負担が少なくてすみます。給与が都内とさほど変わらなくても、支出額は地方のほうが低いため、結果的に生活が比較的ラクになりますし貯金もしやすい。ちなみに現在はネットショッピングが充実していますので、都心と地方での買い物の便利・不便の格差はそこまで大きくないでしょう。

 都内勤務でマイホームをもうほぼあきらめているという人でも、地方なら土地代も安いのでマイホームを持つことも夢ではなく、現実的な選択肢になるかもしれません。子どもの医療費が安かったり、支援制度も充実していたりするなど結婚後の生活も不自由のないケースが多いでしょう。最近では静岡県浜松市のように、企業の説明会、面接に参加するだけで自治体から交通費、宿泊費が支給されるところも存在するので、案外気楽に地方の工場を受けてみてもいいかもしれません」(同)

 ただし、実際に入社を検討している場合、注意して確認すべき項目はある。

「たとえ初任給や最大年収が高くても、昇給のスピードが遅かったり、賃金の上がり方が緩やかになったりする可能性もあります。そういった条件をきちんと把握しておかないと、勤続10年経ってから『思っていた年収よりだいぶ低い』なんて嘆くことになる可能性もあるでしょう。

 また工場勤務だと24時間制でラインを回すことも多く、シフトによっては勤務時間がコロコロと変わることもあります。ですから昼のシフト、夜のシフトと交代し続けるうちに体調を崩すという可能性もあると思います。工場勤務は基本的に専門的な知識がなくとも入社できますが、グローバル企業や大手ですと『TOEICの点数が何点以上』『理系学部出身歓迎』といった具合に、条件が課せられることもあるので要注意です」(同)

 条件が合えば、かなりの好待遇で入社することも可能であろう地方の工場。条件がいい魅力的な工場を探す方法はあるのか。

「就活の段階でやるべきこととしては、転職サイトで志望企業に在籍した人の口コミを参照すべきです。個人的には『OpenWork』がおすすめ。このサイトでは、口コミを見るために自分がかつて所属した会社の口コミを書かなくてはいけないので、おのずとさまざまな会社の口コミが集まるようになります。したがって、企業研究をする際の判断材料にしやすいんです。そこで実際の給与の上げ幅や昇給のスピード感を確認するとよいでしょうね。

 また最近は新入社員に対し、手取り足取り仕事を教え、相談も乗ってくれるメンター制度を導入する企業も多いです。工場ですと研修をみっちり行ってもらえるものの、門外漢の方ですと、すぐにわからないことが多々出てくると思いますので、メンターがいると安心感は格段に増すはず。もし工場勤務に疎い状態で就職を希望するのであれば、メンター制度のある工場を探してみると、不安の少ない工場勤務をスタートできるかもしれませんね」(同)

(取材・文=文月/A4studio、協力=坂本直文/キャリアデザイン研究所代表)

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