臨床実験では、アルコール依存症のサルに劇的に効いたそうな。
先日「ネイチャー・メディシン」という学術誌で発表された論文によると、新しい遺伝子治療によって、アルコール依存症のサルのアルコールへの欲望が軽減されたそうです。
この遺伝子治療は、12ヶ月間にわたってマカク属のサルで実験が行なわれましたが、かなり有望な結果となりました。
アルコール依存症は、治療プログラムを終えた後に再発するケースが後を経ちません。アルコールを摂取すると、最初の何杯かはドーパミンレベルが上昇し幸福感を感じますが、これを維持するにはアルコールを飲み続けなくてはいけません。慢性的なアルコール依存症の人は、ここから抜け出せないのです。
そこで、遺伝子治療で抜本的に改善できないかということで、オレゴン健康科学大学の神経科学者であるキャサリン・グラント氏率いるチームによって、研究が進められました。
サルにアルコールを与え続けるところから実験はスタート
まずこの研究は、アルコール依存症になるまで、サルに対して徐々にアルコールを与え続けるところから始まります。
最終的にはヒトの1日9杯分に相当する量を、サルが自分自身で摂取するようになりました。
そしてサルを遺伝子治療を受けるグループとそうでないグループに分けました。8 週間の禁酒期間が始まる前の最初の6ヶ月間、サルの1日のアルコール消費量は増加していきました。
遺伝子治療では、サルの頭蓋骨に2つの小さな穴を開け、GDNFタンパク質(グリア細胞株由来神経栄養因子)をつくる遺伝子を注入しました。
その後4週間でサルは、水かアルコールを飲むかの選択肢を与えられます。
結果は、研究者たちにとっても驚くべきものに
遺伝子治療を1回受けただけで、治療を受けなかったグループと比べ飲酒量が50%減少したのです。
実験期間中は4週間の飲酒期間と4週間の禁酒期間を設定。遺伝子治療のたびに、禁酒期間の後に治療グループのアルコール摂取量が自発的に減少し、12ヶ月後にはなんと90%以上減少しました。
この研究での発見は、ドーパミンを正常化すること、またはGDNFのような有益な栄養因子のレベルを高めることが、飲酒への衝動を抑える有用な手段になると裏付けるものになりました。
ノースカロライナ大学ボウルズ・ア ルコール研究センターの精神医学教授で研究者のドニータ・ロビンソン氏はWiredにこのように語っています。
さらにこの研究は、遺伝子治療が体重減少や水分摂取など、他にも影響を与える可能性があることも示唆しています。
実験グループのサルたちは、治療を行なっていないグループと比較して水を飲む量が減ることがわかっています。また体重は約18%減少しましたが、これはアルコール摂取量が減ったことが影響している可能性が考えられます。
私たちは、アルコール依存症の人たちに飲酒を短時間止めさせることができることを知っています。しかし、また飲みたいという欲求が、薬を飲むことよりも勝ってしまうことが多いのです。
しかしこの実験で、飲酒量はほぼゼロまで下がりました。何ヶ月もの間、サルたちはアルコールの摂取を避け、水を飲みました。血中アルコール濃度を検知できないほどまで飲酒量は減りました。
と、キャサリン・グラント氏は述べています。
他の依存症治療にも有用かも
GDNF遺伝子治療の成果は、アルコール依存症に苦しむ人々にとって有望であり、アルコールだけでなく薬物依存症の治療にも期待できると研究チームは考えています。
しかし遺伝子治療は誰でもどこでも受けられるほど手軽ではなく、他の治療方法も検討した上で最終手段として扱われるものになるでしょう。
従来の治療法では効果が見込めなかった人たちに対して適しています。依存症が原因で他者に深刻な危害を加えたり、自殺や他殺をする可能性が高いのです。
米国国立アルコール乱用・アルコール依存症研究所によると、アルコール関連死は世界的に重大な問題であり、年間14万人が関連して死亡していると推定されています。