オフィス供給過多が経済不安の本命か?

アゴラ 言論プラットフォーム

私の入居するシェアオフィスの実質入居率は3割程度。ロケーションが悪いので特に低いのだと思いますが、コロナ前の活気はほぼゼロです。理由の一つに起業のハードルが高くなったことがあるのでしょう。カナダのようにスタートアップに対する税制の優遇制度など国を挙げての支援体制があっても厳しいというのが実情です。

バンクーバーは90年代から00年代にかけてオフィスビルの新規供給が極めて限られた都市でその頃、「バンクーバーの人は一体どこで仕事をしているの?」と指摘されたこともあります。トロントに本社機能を持っている会社も多く、バンクーバーは単なる出先という企業も多かったわけでオフィスマーケットは健全であったのです。

ところが不動産ブームもあり、コロナ前に着工したオフィスビルが続々と完成し、コロナ後の従業員の職場回帰よりも供給ペースが上回り健全だったバンクーバーでも空室率は2桁になりました。トロントやモントリオールのの15-6%、サンフランシスコの30%といった数字に比べればよさげに見えますが、バンクーバーには今後更に新規物件が供給されるため、小さなビジネス都市に於いて吸収力が不充分である中、空室率は15%程度まで上がるのだろうとみています。

働き方が変わることによるオフィス需要の変化というよりM&Aによる産業の寡占化およびそれに伴うオーバーヘッドの効率化で需要は頭打ちというのが世界的な傾向のように感じます。

なぜ、サンフランシスコの空室率が高いのか、と言えば10年ぐらい前は世界の先端技術の粋だったため、多くの企業がとりあえずサンフランシスコに事務所を構えるという「カタチ」からスタートしました。バカ高い賃料や従業員の給与など、維持管理費の高さに悲鳴を上げ、技術の粋を垣間見ただけで何も得ることも出来ず、撤退となった末の姿が今の空室率だと言えるでしょう。

ではでは日本はどうでしょうか?三鬼商事の6月のデータを俯瞰すると空室率が一番高いのは東京で6.48%、大阪、名古屋は4-5%台で札幌になると2.18%です。東京も中身を見ると明白な傾向が見て取れます。地区別の空室率を見た場合、港区が9.54%と突出して悪いのです。中央区が6.82%でほぼトレンドライン、新宿、渋谷は4-5%で渋谷の引き合いは引き続き強いのが見て取れます。

それは簡単に説明できるでしょう。港区は作り過ぎ。それ以外の何物でもありません。続々と超高層オフィスが生まれており、近々、330メートルという日本最高の高さを誇る麻布台ヒルズが完成します。六本木ヒルズと基本的に似た職住接近型の総合開発でオフィス棟は54階、さらにその上に住宅が64階まで続き、それ以外の棟を含め、1400戸の住宅が供給されます。ロケーション的にはとても不便です。更に千代田区の大手町では三菱地所が390メートルのオフィスを建築中です。人口減、労働力不足の日本に於いて誰が入居するのか、なのです。

ご存じの通りアメリカでは秋に景気後退の波が押し寄せるのではないか、とされます。現時点ではソフトランディングするだろうという見方も多いのですが、あまり甘く見ない方がいいでしょう。

その中で爆弾となるのがオフィスREITで借入金の借り換えに苦戦するだろうとされます。理由はREITへの資金供給は中小銀行の割合が高いのですが、預金流出もあり、物理的に貸し出し困難になるだろうとされるからです。いづれどこかで目詰まりしてしまうという話です。これが起きればリーマンショック級で、世界中に簡単に連鎖反応を起こすでしょう(実際には貸し手が中小から大手金融機関に代わることでショックを吸収するとは思いますが)。

オフィスは住宅市場と違う経済原則が働きます。新しいオフィスビルができると古い建物にいた会社が移るというのが前提です。100年でも持つオフィスビルが15年も経てば「古い!」とされてしまえば潜在的な価値の減価はコロナ前と今では大きく異なるように見えます。

多分ですが、東京におけるオフィス建築競争は当面終了だと思います。もう十分です。デベロッパーは発想の転換が要でしょう。私が東京にいる時、明治神宮に必ず行くのは都会のオアシスを求めるからでしょう。100年前に作られた人工林ですが、コンクリートで固められた近代的建物から離れるとホッとする憩いがあるのです。東京にはそんな場所は極めて限られるのです。

AlpamayoPhoto/iStock

仮にオフィスビル供給過多から来る景気後退があるとすれば港区と千代田区の打撃が最大級になるでしょう。そこは構えておいた方がよさそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月11日の記事より転載させていただきました。

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