笑い声や甘いささやきは「左側」から聞こえた時の方が脳に強い反応を引き起こすという研究結果

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普段の生活において、話し相手が自分の右側にいるのか左側にいるのかを気にすることは少ないかもしれません。しかし、スイスの研究チームが査読付き学術誌のFrontiers in Neuroscienceに発表した研究結果によると、笑い声やエロティックな声といったポジティブな発声は、自分の「左側」から聞こえてきた時の方が脳に強い反応を引き起こすとのことです。

Frontiers | Emotional sounds in space: asymmetrical representation within early-stage auditory areas
https://doi.org/10.3389/fnins.2023.1164334


Our brain prefers positive vocal sounds that come from our left – Science & research news | Frontiers
https://blog.frontiersin.org/2023/05/19/our-brain-reacts-more-strongly-to-positive-human-sounds-if-these-come-from-our-left/

The Human Brain Shows a Weird Preference For Sounds From The Left : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-human-brain-shows-a-weird-preference-for-sounds-from-the-left

この世界で生じる音は周波数と振幅によって定義されていますが、人間にとって音は単なるパラメータ以上の意味を持っており、特定の音を聞いてポジティブな気持ちになったり、あるいはネガティブな気持ちになったりすることがあります。過去の研究では、人間は自分に向かって迫ってくる音を遠ざかる音よりも危険で刺激的なものだと認識することや、後ろから聞こえる音に敏感であることなどがわかっています

自分に近づいてきたり後ろから聞こえたりする音に対するバイアスは、進化上の利点があると考えられています。野生の中で暮らしていた人間の祖先にとって、背後から近づいてくる音は捕食者の兆候であるかもしれず、こうした音に対して敏感なことは生き残る上で重要だった可能性があるとのこと。

新たに、スイス連邦工科大学ローザンヌ校ローザンヌ大学の研究チームは、音声が聞こえた方向によって脳の反応が変わるのかどうかを調べるために実験を行いました。


研究チームは磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いて13人のボランティアの脳活動を測定し、左・正面・右から聞こえてくる音にどれほど強く脳が反応するのかを調査しました。被験者はいずれも20代の男女で、全員が右利きであり、音楽のトレーニングを受けた経験がある人はいませんでした。

被験者にはエロティックな声から笑い声を含む「人間のポジティブな声」、意味のない母音または子音の「人間のニュートラルな声」、悲鳴やけんかの声を含む「人間のネガティブな声」、拍手やビールの缶を開ける音を含む「非人間のポジティブな音」、車のエンジン音や風の音など「非人間のニュートラルな音」、時限爆弾が爆発する音やガラスが割れる音からなる「非人間のネガティブな音」という6種類に分類される音を聴かせ、それらに対する脳の反応を測定したとのこと。

脳の両半球にある一次聴覚野に注目すると、右半球にあるL3という領域が「人間のポジティブな声」により強く反応を示したものの、全体として聞こえてくる音声に対して同じように活性化しました。しかし、両半球の一次聴覚野が最も活性化したのは、「左側から人間のポジティブな声を聞いた時」だったと報告されています。


論文の上級著者であるスイス連邦工科大学ローザンヌ校のサンドラ・ダ・コスタ博士は、「この研究では、ポジティブな感情体験を引き起こす声が聞き手の左側から聞こえると、脳の聴覚皮質により強い活動をもたらすことが示されました。この反応はポジティブな声が正面または右から聞こえた場合には起こりません」「また、ニュートラルまたはネガティブな感情を持つ声や、人間の声以外の音は左側から聞こえることとの関係がないことも示されています」と述べています。

ローザンヌ大学の博士課程に在籍する共著者のティファニー・グリゼンディ氏は、「左から聞こえるポジティブな感情の声によって強く活性化されるのは、脳半球の一次聴覚野、つまり聴覚情報を最初に受け取る大脳皮質の領域です。私たちの発見は、音の感情的性質および空間的起源がまずそこで識別され、処理されることを示唆しています」とコメントしました。

今回の研究では、左側から聞こえるポジティブな声に対して脳がより強く反応する理由については明らかになっていません。論文の共著者であるローザンヌ大学のステファニー・クラーク氏は、「一次聴覚野が左側からのポジティブな声を好むようになるのが、ヒトの発達段階におけるいつ頃なのか、あるいはこれがヒト特有の特徴なのかは不明です。これがわかれば、利き手や内臓の非対称的な配置と関係があるのかを推測できるかもしれません」と述べました。


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