趣味で電子工作をやっていることもあり、電気街が好きだ。東京の秋葉原、大阪の日本橋、香港の深水埗。同じ電気街でもそれぞれ個性があって楽しかったけど、名古屋の大須にはまだ行ったことがなかった。
そして先日、満を持して訪れたのだが…そこですごい光景に出会った。
唐突な基板のジャングル
第一アメ横ビルというビル内を散策していた時のことだ。
中に電気屋や電子部品屋がならぶまさに電気街という感じのビルで、東京でいうとラジオデパートみたいな感じだ。
その1Fの奥の方、エスカレーター脇に見えた光景が唐突すぎて、思わず足を止めた。
まるでジャングルのような密度で、無数の電子基板が上からつるされている。
とにかくすごい量の基板だけがあり、これが店なのかどうかもわからない。いや商業ビルの中にあるから店なんだろうけど、僕が知っている「店」の概念と違いすぎだ。
あと、人もいない。
「すみませ~~ん」と声をかけてみたが、返事はない。いったいどういうことなんだ…。
あまりのインパクトに、「これを謎のまま残しては絶対帰れない」というモードになってしまった。休業日という可能性もあったが、あとでお店の人が戻ってくることに賭けて、大須の街をぶらぶらしながら待った。
他の電子部品屋を見たりハトに襲われたりしては店の様子を見に戻ること数回。時間にして2時間ほどたったころだ。いよいよ一人の男性が基板の隙間に入っていくのが見えた。
すみません!お店の方ですか?
そうだよ。いまコロナのワクチン打って戻ってきたとこ。
不在の理由がいきなり意外すぎたが、このあと幸いにもお時間をいただき、インタビューをさせてもらえることになった。待ってよかった…!
凄腕の修理屋さん
ここは何屋さんですか?
むかし販売やってたけど、いまは修理屋。
なるほど、修理屋だったのだ。大量の基板やパーツは、交換部品としてストックされているのだ。一気に謎が解けた。
おもに何の修理ですか?
最近はビデオだね。普通は直すものじゃないじゃない?メーカーも直してくれんしな。
(販売終了から)5年以上もたつとメーカーも部品がないって言って断っちまうからな。それでおれんとこに来るわけよ。
メーカーにも断られてしまうような古い機器でも直してしまうのが小坂井さん。その腕を頼りに、お客さんは全国からやってくるそうだ。この日は店頭に一台のビデオデッキと一緒に置手紙があり、「見積お願いします」というメッセージと奈良県の住所が書かれていた。
お金のこと言わなきゃなんでも直すよ。
「じゃあやーめた」って言ったら「お願いします、払います」って。そういうこともいっぱいあるよ(笑)
まるでブラックジャックみたいだ。
そんな確かな腕前と、そしてこの店構え。国内のテレビや新聞はもちろん、フランスのテレビ局が密着取材に来たこともあるという。