考古学チームが発見、145万年前のヒト族の骨に石器による切断痕

GIZMODO

有名な古人類学者メアリ・リーキーが、ケニアのイレレットの遺跡発掘現場で脚の骨を発見したのは1970年のことでした。

それから53年が経ち、その骨からホミニン(ヒト族)における「組織的なカニバリズム」の証拠となるかもしれない痕が見つかりました。

石器によってすねを切り落とした?

約145万年前の脛骨(すねの骨)には、小さなカットマーク(切断した痕)がいくつも垂直に入っていました。この骨の主がどの種に属するかは不明ですが、ホモ・サピエンスの出現はだいぶ先のことなので、現生人類でなかったことは確かです。

この脛骨に見られる複数のカットマークは石器で付けられた痕であり、人類に近い種が別の種の人肉を切り落としていたと説明する最新論文がScientific Reportsに発表されました。

「(私たちは)食べられた側の種も分かりませんし、食べた側の種も不明です」と、この研究の筆頭著者でスミソニアン協会の国立自然史博物館の古人類学者であるBriana Pobiner氏は、米Gizmodoの電話取材に答えています。

「ケニア北部のこの地域には、異なる3つの種の化石証拠があるので複雑なんです。

パラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)に、ホモ・エレクトス(Homo erectus)とホモ・ハビリス(Homo habilis)のことです。

どの種もこのような食肉解体の痕を残す石器の使い手だった可能性があります」

ホミニンが仲間の肉を切っていた証拠は他にも存在します。

アフリカとヨーロッパからの証拠によると、ネアンデルタール人もホモ・サピエンスもカニバリズムを行なっていたそう。

しかし、ホミニンの化石にある切断痕としてこれまでで最も古い証拠(260~150万年前)は、数年前にある研究チームがホミニンによる石器の使用ではなく、自然過程でできた痕だと主張したことで疑問視されています。

Pobiner氏は2017年にケニア国立博物館で、頭蓋骨より下部分のホミニンの化石199個を調べました。化石の多くは、メアリ・リーキーと彼女の夫のルイスが行なっていた数十年前の発掘作業などで発見されたものでした。

Pobiner氏が調べた200本近い骨の中のたった1本(28本目に調査した化石)に、はっきりと見えるカットマークがあったのです。

「きれいに保存されていた骨がありました。じっくり見てみると、このような痕が見えて『何の痕なのか知ってる』と思いました。

こういった痕がついた動物の化石を何百と見てきましたが、ホミニンの化石では初めてです」

Pobiner氏は痕の型を取って、後に彼女の共著者となったコロラド州立大学の古人類学者Michael Pante氏に送りました。カットマークについての情報は与えず、Pante氏にそれらについての彼の意見を求めたのです。Pante氏は型をスキャンして、900件近いさまざまな痕のデータベースと比較しました。

古代のカットマークは、ホミニンが何百万年も磨きをかけた技術である石器を使って残したものです。

切断痕は肉を採取するためのもの

既知の最古の石器は300万年ほど前とされており、今年の初めには切断痕のある動物の骨とこれまでで最も大きいホミニンの歯が一緒に見つかったという論文が発表されています。それによってホミニンの持つ技術の要といえるオルドワン石器の地理的な分布と年代が広がりました。

ホミニンが石器で付けた解体痕は3種類あって、それぞれ使い手が行なおうとしていた切り方を示しています。

皮剥ぎ痕は足首の骨など皮を剥ぐことができる箇所に生じるもの。関節離断痕はあまり精密ではなく、おそらく運ぶために死体が切り分けられたことを示します。

しかし、Pobiner氏が見つけた痕は肉取り痕で、人肉や他の食べられる箇所を取り除くため骨に対して横に付けられた痕です。

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(上から下の順で)アンテロープ下顎骨、アンテロープの橈骨、哺乳動物の肩甲骨に見られる、似たようなカットマーク
Photo: Briana Pobiner

石器を使った側と使われた側のどちらの種も特定することは不可能だったため、研究者たちはこれをある種の個体が同種の他個体を食べるカニバリズム(共食い)と表現するのは避けました。

「この研究は現代的な観察と最新技術の活用でもって、博物館の古い収蔵品から行動に関する新たな情報を得られることを示す好例です」と、今回の論文には関わっていないグリフィス大学オーストラリア人類進化研究センター長のMichael Petraglia氏は、米Gizmodoへのメールに書いています。

「これが145万年前のカニバリズムの事例ということもあり得ます。とはいえ、これが単独の化石であって、どのホミニンが個体の下肢を処理したのか分からない点には慎重になるべきです」

そのほかに、カットマークは骨が切り分けられたのは栄養的な理由(つまり食べる用)か儀式的な目的かどうかを示すわけではないとも補足していました。

脛骨には歯形も付いていたので、研究チームはその地域にいる食肉獣が作る痕と比較しました。骨にある痕と最も似ていたのは大型なネコ科の噛み痕、当時その地方に生息していたサーベルタイガーかもしれません。どこかのタイミングで、先史時代のネコ科が不幸なホミニンを噛んだのでしょう。

この骨の個体が、大きなネコ科と別のホミニンのどちらに先に食われてしまったのかを特定するのは不可能です。Pobiner氏はタイムマシンでもない限り、一連の出来事をこれ以上解明できるテクノロジーはないとコメントしていました。

Source: Scientific Reports, HAL, nature

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